国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

客員研究員の紹介

朴昊遠さん

紹介者:朝倉敏夫(民族社会研究部)

2001年の4月21日、本館共同研究「韓国現代生活文化の基礎的研究」の第1回共同研究会が行われる前日に客員研究員として来日された朴昊遠さんは、韓 国の首都ソウルで生まれ育った「ソウルっ子」だ。小学校から大学院まで、そして軍隊もソウル近郊で服務し、大人になるまでソウルを大きく離れたことがな かったという。ご両親はもちろん、奥さんもソウルで育ったそうで、ソウル居住者といっても地方から転入者が多いなか、韓国でもめずらしい真の「ソウルっ 子」を自認している。そうした朴さんが韓国の伝統民俗文化に関心をもち、ソウルを離れ地方で調査を始めたのは、大学在学中だった70年代後半からだとい う。
大学では工学部で機械工学を専攻した彼が、韓国の民俗文化に関心をもつようになったのは、次のような理由によるという。70年代後半、韓国の大学街では 伝統文化に対する関心が高まった。しかし、それはたんに伝統文化の真似ごとにすぎないように朴さんには思えた。伝統文化をたんに真似するのではなく、伝統 文化の担い手である庶民に会いたいと考えた。それで彼はソウルを離れ、地方へ、地方へと足しげく通った。また、自然科学に貫徹する原因と結果の当為性より も、原因と結果が一致しないこともある文化現象を探求することで、その中に内在する文化的伝承要素を明らかにしたいという思いにかられたからという。
大学在学中、70年代までに韓国で出版された民俗学や伝統文化に関する本はほとんど読破したが、学問的関心はさらに高まり、当時、工学部出身は100%就職が約束されていたにもかかわらず、卒業後の進路を民俗学に替える決意をした。
大学院では研究対象を韓国の民俗信仰に絞り、その分野の第一人者として知られる張哲秀教授に指導を受けた。張教授からは民俗信仰の伝承現象と、その歴史的背景、および周辺民族との比較など、歴史的・比較文化的アプローチについて指導を受けた。
修士論文のタイトルは「ソッテ信仰に関する研究」。ソッテとは長竿の上部に鳥のついた神杆であり、その多くが「天下大将軍」「地下女将軍」などと書かれ たチャンスンと結合しているものである。その後、1988年に博士課程に入学すると同時に韓国国立民俗博物館(略してソウル民博)に勤務し、江原道、忠清 南道、忠清北道、全羅北道などで、継続してチャンスン・ソッテの調査に従事した。また、張教授の指導の下に「高麗巫俗信仰の展開とその内容」、「高麗の山 神信仰」、「中国城隍の史的展開と信仰生活」などの論文を執筆し、韓国のムラ祭の歴史文化的伝承背景について研究した「韓国共同体信仰の歴史的研究─洞祭 の形成および伝承と関連して─」と題する博士学位論文は、信仰伝承を政治権力と思想の両面から分析したものとして高く評価された。
今回本館には、日本のムラ信仰、ことにその伝承史に関心をもって、韓国のムラ信仰との比較研究のために来館した。と同時に、朴さんの勤務するソウル民博 では、学芸員がいろいろな部署を循環して勤務する制度になっており、民俗研究ばかりでなく、展示運営、資料管理、社会教育など、博物館のすべての仕事に精 通されており、2002年に日韓共同で開催する生活文化展の準備も、さまざまな形でお手伝いいただいている。
2002年はサッカーのワールドカップが日韓共催で行われ、「日韓国民交流の年」でもある。この年、本館では「2002年ソウルスタイル」と題し韓国の生活文化を展示し、ソウル民博では日本の生活文化を展示し、両国文化の相互理解に貢献するとともに、博物館レベルでの日韓交流を企画している。
ソウル民博からの客員研究員は金時徳さん(『民博通信』84号で紹介)に続いて2人目であり、日韓の民博は実質的な協力関係を着実に築いてきている。ソ ウル民博でも外国からの研究者の招へいを計画しており、皆さんがソウル民博へ来られることを期待しているという。朴さんも、その架け橋になるべく、日本語 の修得にも精進している。
韓国では学問を修める人、礼儀正しく慈しみのある人をソンビという。日本の儒学者、林羅山、藤原惺窩、山崎闇斎らにも大きな影響を与えた朝鮮儒学の最高 峰、李退渓先生はソンビの典型であるが、彼には「昼退渓、夜退渓」という逸話があるそうだ。昼は学問に勤しんだ退渓は、夜は酒を飲み愉快に遊んだという。
朴さんの言を借りれば、「自分も退渓先生と同じだ」という。ソウル民博の館長からも「酒の席には必ず出席しろ」と厳命されてきたらしい。「昼昊遠」だけでなく、「夜昊遠」の逸話も残るように、ぜひ皆さんにも朴さんを気軽にさそっていただきたい。

ジェームズ・サベール
  • 朴昊遠
  • 1957年生まれ。
  • 弘益大学機械工学科卒業。韓国精神文化研究院韓国学大学院社会民俗科専攻。
  • 現在、国立民俗博物館学芸研究官。夫人と小学校6年生の息子さんが1人。
『民博通信』第95号(p.28)より転載