国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(6)色ガラスの家 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2015年4月23日刊行
菅瀬晶子(国立民族学博物館助教)

教会を彩る色ガラスの窓=ナザレで2014年8月、筆者撮影

パレスチナで「ベイト・アラビー」(アラブの家)といえば、それは昔ながらの石造りの家のことだ。外側は石材、内側は漆喰(しっくい)で固められ、2、3の大きな部屋と納屋、屋上からなる。木の梁(はり)や丸屋根、アーチをそなえていることもあり、パレスチナ人にとっては誇るべき文化的象徴のひとつだ。

夏場の快適さや堅牢(けんろう)さなど、ベイト・アラビーの利点は多い。しかし個人的には、色ガラスの嵌(はま)った半円型の窓こそが、その最大の魅力だ。この地のガラス工芸の歴史は、3000年以上前のカナァン人の時代に遡(さかのぼ)る。イスラム文明のもとで洗練され、幾何学模様をあしらった色ガラスの窓が数々の大モスクを彩ってきた。色ガラスの窓はモスクだけではなく、教会や名家の邸宅にも用いられ、時折息を呑(の)むほどの光景を見せてくれる。夕刻、色ガラスの窓から極彩色の陽光が差し込んで室内を彩る光景は、まさに天国を想起させる荘厳さと華やかさだ。

持ち主の経済的困窮や職人の不足などにより、ベイト・アラビーはいまや滅びゆく存在である。しかし、現代的な工法で家を建てても、色ガラスを使用してベイト・アラビーの雰囲気を残そうとする若い世代は少なからずいる。彼らの熱意から、あらたなベイト・アラビーが誕生するかもしれない。

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