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文化遺産のいま

(3)負の記憶をめぐる葛藤 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2016年12月22日刊行

関雄二(国立民族学博物館教授)


グアテマラ・ラビナル市のミュージアムで展示されている元大統領の帽子と犠牲者の遺影=2013年、筆者撮影

現職の米大統領として戦後初めて広島を訪問したオバマ大統領が献じた折り鶴が原爆資料館のケースに飾られ、平和のメッセージを伝える資料となったように、文化遺産はつねに創造されるものだ。

中米グアテマラは、古代マヤ文明が栄えた場所である。と同時に、1960年代から左翼ゲリラ運動が展開し、これに対抗した軍事政権による大量殺戮が起きた場所としても知られる。

犠牲者の大半はマヤ先住民であり、国連による認定にもかかわらず、国はその事実を認めていない。

そんな中、虐殺の事実を伝えるミュージアムが生まれつつある。その一つ、バッハ・ベラパス県ラビナル市のミュージアムを訪れたことがある。

犠牲者の遺族によって運営される館の展示室は、虐殺被害者の遺影と献灯によって、慰霊の空間と化すと同時に、賠償を政治的に主張する場ともなっている。

展示室の一角にパナマ帽の展示がある。虐殺の責任者の一人である元大統領が、この地を訪れた際、遺族が払い落としたもので、国の虐殺への関与を示す貴重な資料である。

こうした負の記憶の保持と忘却のせめぎあいは、ユネスコの記憶遺産問題にも通じる。創造を本文とする文化遺産の柔軟性は、政治とも容易に結びつくのである。

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