国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

個−世界論――中東から広がる移動と遭遇のダイナミズム

研究期間:2015.10-2019.3 代表者 齋藤剛

研究プロジェクト一覧

キーワード

個人、中東、移動

目的

中東は、古来より多様な人々が民族、宗教、言語の違いを超えて離合集散と交渉を繰り返してきた巨大な交流圏の一つである。この圏域では人名、地名、出来事で満たされたリフラと呼ばれる旅行記が精力的に産出されてきたが、固有名への強い関心は日常生活・会話の中でも広く見受けられ、人々の生活を基礎づける重要な関心の持ち方であると想定される。このような関心の広がりは、中東を基点として広がる世界において、生身の個人という存在と移動という経験、未知なる人・場・情報との遭遇こそが、世界を形成・構想するうえでの根幹と見なされてきたことを示唆する。
本研究は、中東を一つの基点として活躍する具体的個人に焦点を定めて、彼らの人・場・情報との出会い・交渉・関係の形成はいかにして実現されているのか、超地域的な人・物・知の交流とミクロな生活の場の形成とがどのように連関しているのかを探求することを通じて、個人が織りなす世界の特質を解明しようとするものである。

2017年度

本年度は、共同研究会開始後1年半を経て、2019年3月終了予定まで2年を残す折り返し時期にあたる。年度前半にはこれまで未発表のメンバー5名による発表を優先させたうえで、年度半ばに小活のための研究会の開催を実施する。そのうえで、各メンバーによる2度目の研究発表を進め、議論の深化を図る。
理論面では、これまでに引き続き、個人民族誌の再検討、知識人類学における成果の吟味、移動に関わる問題群の再検討を始めとした諸課題を取り上げる予定である。事例については、宗教的知識人の移動に伴う知識の普及と再編、中東における音文化、民衆文化の形成などが取り上げられる予定であり、これらの事例の検討を通じて個と世界の関わりの諸相を明らかにしてゆく。

【館内研究員】 西尾哲夫、相島葉月
【館外研究員】 池田昭光、宇野昌樹、大坪玲子、奥野克己、小田淳一、苅谷康太、佐藤健太郎、椿原敦子、鳥山純子、堀内正樹、水野信男、嶺崎寛子
研究会
7月22日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
齋藤剛(神戸大学)「ムフタールスースィーにみる個 」
堀内正樹(成蹊大学)「カオスから秩序へ、でよいか~純粋数学のたどった道と非境界的世界のあり方」
7月23日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第4演習室)
相島葉月(国立民族学博物館)「現代エジプトのスーフィズムにおける自己主体性とモダニティの位相」

2016年度

本年度は、個の捉え方について引き続き検討を進めるとともに、個と世界の関係性、知をめぐる諸課題について理論・事例双方から研究を進める予定である。理論的には、個人民族誌の再検討、知識社会学、知識人類学における成果の吟味に始まる課題が遂行される予定であり、それと平行して民族誌的事例、歴史的史料の検討から、異なる社会的条件のもとで知はいかにして共有されうるのかそもそも知を共有するとはどういうことなのか、また知としての創出と資源化のプロセスとその社会的波及はいかなるものであるのか、そして、そもそも移動という動的契機が生活や見知らぬ他者・場との関係をいかにして成立させているのかなどといった問いに取り組んでゆくことになる。具体的には、異宗教間での知識伝達、宗教的知識人の移動に伴う知識の普及と再編、アラブ・ユダヤ音楽の交流と展開、宗教団体の広域ネットワーク、市場での経済活動と社会関係などが取りあげられる予定である。

【館内研究員】 西尾哲夫
【館外研究員】 池田昭光、宇野昌樹、大坪玲子、奥野克己、小田淳一、苅谷康太、佐藤健太郎、椿原敦子、鳥山純子、堀内正樹、水野信男、嶺崎寛子
研究会
2016年6月4日(土)13:00~19:00(国立民族学博物館 第1演習室)
齋藤剛(神戸大学)「これまでの研究会の論点の整理」
奥野克巳(京都文教大学)「ムスリム墓からみる個と社会」
2016年6月5日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第1演習室)
鳥山純子(桜美林大学) 「能動的な状況定義の考察に向けて――エジプトの学校教員にみる〈シャクセイヤ〉とは何か」
2016年10月29日(土)13:00~19:00(国立民族学博物館 第2演習室)
小田淳一(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)「ラモン・リュイは『ブリコルール』か?」
2016年10月30日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第2演習室)
嶺崎寛子(愛知教育大学)「質問者と法学者の間―2000年代エジプトのファトワー相談電話を事例に―」
2017年1月28日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
池田昭光(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)「レバノンで民衆文化を考えること――相互行為的事例を用いた試み」
西尾哲夫(国立民族学博物館)、椿原敦子(龍谷大学)、鳥山純子(桜美林大学)、齋藤剛(神戸大学)「中東における〈民衆文化〉を巡って」
2017年1月29日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第3演習室)
水野信男(兵庫教育大学)「アラブ音楽会議1932再考」
全員「本年度の共同研究の総括」

2015年度

本研究は、世界理解の新たな視座を探求した貴館共同研究「非境界型世界の研究――中東的な人間関係のしくみ」に参加をした若手研究者が中心となって、その研究成果を踏まえつつ新たに生まれた問題意識と課題に基づいて、研究を展開・深化させようとするものである。
研究班は、人類学(8名)、歴史学(2名)、言語学(1名)、民族音楽学(1名)、情報学(1名)を専門とする者から構成されている。人類学に隣接する分野の専門家が本研究に加わっているのは、諸個人の邂逅と知の伝達という問題を検討するうえで、たとえば、言語のみならず広く音文化全体の中でコミュニケーションを捉える視点が不可欠であるからであり(言語学、民族音楽学、情報学)、また中東における個人が屹立した社会のあり方の生成を通時的に検討する必要があるからである(歴史学)。
2015年度は、本研究の基軸となるキーワードについて検討し、共通理解を深めることを主眼とする。検討対象となるのは、研究会参加メンバーのこれまでのフィールド体験を基にした、フィールドにおける個人、移動、遭遇、場、社会の捉え方などである。

【館内研究員】 西尾哲夫
【館外研究員】 宇野昌樹、大坪玲子、奥野克己、小田淳一、苅谷康太、佐藤健太郎、椿原敦子、鳥山純子、堀内正樹、水野信男、嶺崎寛子
研究会
2015年10月17日(土)13:00~19:00(国立民族学博物館 第2演習室)
齋藤剛(神戸大学)「個-世界論――問題提起」(仮題)
2015年10月18日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第2演習室)
西尾哲夫(国立民族学博物館)「アラブ世界の言語社会的位相と個人空間の再世界化」(仮題)
2016年1月23日(土)12:00~19:00(国立民族学博物館 第1演習室)
齋藤剛(神戸大学)「個-世界論――問題提起 Ⅱ」(仮題)
大坪玲子(東京大学)「カートを通して見える世界」(仮題)
2016年1月24日(日)9:00~15:00(国立民族学博物館 第1演習室)
椿原敦子(国立民族学博物館)「ふたつの『個人主義』?――テヘランとロサンゼルスから考える」