国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

高等教育機関を対象にした博物館資料の活用に関する研究

共同研究 代表者 呉屋淳子

研究プロジェクト一覧

キーワード

博物館資料、Faculty Development、高等教育機関

目的

近年、日本の高等教育機関では、大学教員の教育能力の向上が推進されており、個々の大学で大学教育の改革(Faculty Development、以下、FD)が行われている。特に、大学教員を対象としたワークショップでは、学生主体の学びの開発が重視されていることから、学習教材の一つとしてモノ資料が見直されつつある。しかしながら、大学教員による博物館の利用は、展示見学にとどまっており、モノ資料による思考のあり方を検討するまでには至っていない。
そこで、本共同研究では、大学教員が博物館という「場」に足を運ぶ機会を提供し、モノ資料に触れ、それを活用した教育実践を、博物館関係者を交えて議論し、高等教育機関と博物館の連携による、より創造的な教育の可能性について検討を試みる。このような取り組みを通して、モノ資料を用いたFDの発展的貢献を図るとともに、大学と博物館とのアクセス回路の構築および高等教育機関における博物館資料の積極的な活用を目的としている。

研究成果

本共同研究会では、博物館と高等教育の新たな関係性の構築を模索するために、高等教育機関における博物館資料の活用の可能性について議論を行ってきた。
従来、博物館資料の活用というと、モノから知識を得るということに重点が置かれてきた。例えば、展示場でモノ資料を観察することや、博物館の教材を活用した調べ学習などが挙げられる。それ自体はとても重要な取り組みであるが、これだけでは、「フォーラムとしてのミュージアム」という問いかけに充分に答えるものであるとは、言えないように思われる。
3年間にわたる研究会では、博物館資料の活用を議論する中で、次の3つの視点が浮かび上がってきた。
まず、1年目の研究会での議論の中で、モノ資料の活用には、単なる知識の学習とは異なる側面があるということが浮かび上がった。それはモノそのものが、学習の場において対話やコミュニケーションを生み出す装置となっているということである。この議論をベースにして、単にモノを活用した学習だけではなく、モノを媒介とした新たな学びの場の生成へと、研究会における議論の方向性が変容した。
2年目には、高等教育における「ミュージアム体験」という2つ目の視点が見出された。「ミュージアム体験」とは、単に資料の「収集」や「保存」、「展示」を体験するだけでなく、収集した資料を保存したり展示したりするために必要なキュレーションや外部とのコミュニケーション、図録の作成といった作業を体験することである。この作業を体験する中で、学習者は、キュレーションやコミュニケーションといったプロセスが、実はモノ資料への意味づけや価値づけのプロセスであることに気づくのである。
そして、「ミュージアム体験」を通過した学習者には、批判的に理解した意味生成や価値創造のプロセスを、自ら創造的に応用することも可能なのではないだろうか。そこで、3年目に「世界の価値を見出す場としてのミュージアム」という視点が見出された。「科学的」「客観的」な知の総体を表象する場として、つまり「世界を分類する場所」としてミュージアムを捉えるのではなく、ミュージアムそのものを「世界の価値をみい出す場所」へと転換すること。「価値創造空間」としてのミュージアムという視点が、研究会の議論の中で提示されたことは大きな収穫であった。

2017年度

基本的には、平成28年度と同じ段取りで研究会運営を行う。本共同研究会は、ひとつの学問分野や領域にとらわれず、多くの研究者とのネットワークを構築しながら研究会を開催することも目的としている。高等教育機関における博物館資料に関する教育的研究の意義と役割を探究するためには、実際に教育活動を行う教員と博物館側との対話も欠かすことができない。また、教育を学校教育と同一視せずに、教授過程という観点から広く捉え、現代社会における大学教育改革のみならず、大学共同利用機関としての国立民族学博物館および国内外のミュージアムの機能や役割を把握し、比較教育学および人類学の双方の視点を導入しながら議論する。特に、大学教員主体の教育能力の向上、学生主体の学習の開発に関するFDの再検討を通して、モノ資料の活用の可能性を明らかにしながら、これまでとは異なるアプローチを通して、博物館と高等教育機関が連携した新たな学びを構築する。

【館内研究員】 河合洋尚、吉岡乾、永田貴聖
【館外研究員】 石倉敏明、稲澤努、金田純平、黒田賢治、五月女賢司、坂本昇、末森薫、時任準平、如法寺慶大、横山佐紀、吉田早悠里
研究会
2018年3月9日(金)13:30~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
時任隼平(関西学院大学)「共通教科情報におけるみんぱっくを利用した情報収集能力の育成」
吉田早悠里(南山大学)「オーストリアの博物館が所蔵する20世紀初頭エチオピア民族誌的資料と文化人類学者の関わり」
永田貴聖(国立民族学博物館)「フィールド・研究者・研究機関にある博物館モノ資料の交差点における表象の実践的試み――京都・東九条の事例」(仮)
全体討論
2018年3月10日(土)10:00~16:00(国立民族学博物館 第3演習室)
呉屋淳子(沖縄県立芸術大学)「博物館学的思考性が意味を持ちうるコンテキスト」(仮)
吉岡乾(国立民族学博物館)「言語学と博物館との(非)親和性」(仮)
全体討論、成果報告の打ち合わせ
研究成果

最終年度は、これまでの議論を踏まえて、高等教育とミュージアムの接合を試みることを課題とし、議論を進めた。特に、前年度に問題提起された「ミュージアムという場が、新たな『世界の価値をみい出す場所』へと転換するには何が必要なのか」を軸に、「ミュージアム体験」、「モノに付与されたコンテクスト」、「価値創造空間」等のキーワードに即して、参加者それぞれの研究の中で検討を行った。様々な具体的な事例を共有しながら、高等教育における学びのあり方や社会における高等教育の果たす役割を再考し、ミュージアムから新しい学びを提供することが可能であることを改めて確認した。

2016年度

共同研究会は毎回、3つの部に分けて開催する予定である。 (1)担当者を決め、教養教育および専門教育におけるおけるモノ資料の活用に関する事例の発表を行い、教育現場と博物館の両者で情報を共有し、参加者で討論を行う。同時に、現在の大学が目指す「アクティブ・ラーニング」の現状について参加者で検討し、博物館資料がもつ教育的な意義とその可能性について議論を行う。そこで得られたことをもとに、異文化理解におけるインタラクティブな教育にいてさらに議論を深める。 また、博物館・美術館のモノ資料だけでなく、突発性な場合に関する知見を深めるために、東北の被災地の文化財レスキューに関する最新の研究について情報を共有し、モノ資料の多様な捉え方について議論を深める。 (2)共同研究構成員および特別講師より発表者2~3人を選定し、1人約1時間の持ち時間で発表を依頼する。発表者はレジュメを事前に参加者全員にメールで流し、参加者は予め目を通しておく。

【館内研究員】 河合洋尚、吉岡乾、末森薫、永田貴聖
【館外研究員】 稲澤努、金田純平、黒田賢治、五月女賢司、坂本昇、時任準平、如法寺慶大、横山佐紀、吉田早悠里
研究会
2016年4月23日(土)14:00~19:00(国立民族学博物館 第3演習室)
呉屋淳子(山形大学)成果物に関する打ち合わせ
呉屋淳子(山形大学)「ミュージアムが内包する高等教育の可能性」
総合討論
発表の計画概要(参加者全員)
2016年12月17日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
河合洋尚(国立民族学博物館)「民族教育の<場>としての博物館――中国、オーストラリ アにおける華人系資料の活用」
稲澤努(尚絅学院大学)「大学教育における博物館資源の活用――みんぱっくを事例として」
2016年12月18日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第3演習室)
石倉敏明(秋田公立美術大学)「メソコスムとしてのミュージアム体験」
時任隼平(関西学院大学)「教科「情報」におけるみんぱっくを使った情報収集能力育成に関する実践」
如法寺慶大(南山大学)「博物館に『参加』する――博物館作業の経験から得る学びの一事例」
出席者全員「これまでの議論の整理と来年度の出版計画について」
研究成果

平成28年度は、4回の会合を持った。今年度は、おもに、博物館・美術館における「教育的経験」に着目し、発表者の専門分野や教育実践に基づいた発表を通して、博物館・美術館の資源の活用とその可能性について検討した。まず、本研究の軸となる、呉屋の近年の高等教育機関におけるFD(Faculty Development)の状況とその可能性について確認し、博物館・美術館と高等教育機関が連携することによる新たな教育の場の生成について検討した。これらを踏襲して稲澤は、博物館資料の活用事例を初等・中等教育に比べ、より柔軟性のある高等教育の教育環境について検討した。
また、空間としての博物館・美術館と高等教育機関がどのように関わっていくのかについて事例をもとに検討を行った。時任は、中等教育における「情報」の科目における教育実践の事例を通して、インターネットからの情報と、モノ資料から読み取る情報を併せた情報収集の方法の検討を行い、モノ資料を用いた新たな授業改善の可能性について指摘した。如法寺は、自身の博物館教育における「経験」を通して、学芸員としての知識をどのように身につけ、それを実際の博物館業務の中でどのように活かされているかを、過去から現在までの経験と併せた実体験から指摘した。河合は、中国の民族教育の場としてのミュージアムの検討から、公共空間としてのミュージアムに求められる役割について問題提起を行なった、ゲストスピーカーとして参加した石倉からは、「メソコスムとしてのミュージアムの経験」の事例を通して、「世界を分類する場所」から「世界の価値を見出す場所」としての博物館・美術館の可能性について指摘した。今年度は、ディシプリンを超えて、活発な議論を行うことができた。

2015年度

最初の共同研究会は、主に2つの部に分かれる。
(1)申請者が趣旨説明を行い、問題提起を行う。それに対し、共同研究構成者が各自の研究と関連付け、議論を深めるとともに、問題意識を共有する。
(2)国立民族学博物館の助教および機関研究員による展示場や収蔵庫の説明および見学を行い、博物館資料の知識だけでなく、展示構築の経緯やモノ資料の扱いについて知見を深める。

【館内研究員】 金田純平、河合洋尚、末森薫、吉岡乾
【館外研究員】 稲澤努、黒田賢治、五月女賢司、坂本昇、時任準平、如法寺慶大、横山佐紀、吉田早悠里
研究会
2015年11月21日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
呉屋淳子(山形大学)「共同研究会の趣旨説明」
全員 研究員メンバー自己紹介
全員 各会の発表者の調整
2015年11月22日(日)10:00~16:00(国立民族学博物館 第4演習室)
呉屋淳子(山形大学)高等教育機関における博物館資料の活用―みんぱっくの活用例―
稲澤努(尚絅学院大学)フィールドワーク演習の講義における博物館資料の活用―みんぱっくの使用方を学ぶ―
展示場の解説(中国・朝鮮半島・沖縄)河合洋尚、呉屋淳子(南アジア)吉岡乾(ビデオテーク)金田純平
研究成果

初年度は、1回の研究会を2日間に分けて開催した。まず、代表者である呉屋がプロジェクトの趣旨説明および問題提起を行い、メンバーのおおまかな役割と研究会の進め方について説明した。とくに、本研究会は「博物館と高等教育機関」の接合を議論の中心に据えていることから、専門分野が異なるメンバーで構成されている。そのため、各メンバーの興味関心を考慮したプロジェクトの進め方を示し、成果公開の方法についてメンバー間で意見交換を行った。次に、メンバー2名による博物館資料を活用した実践事例の報告を行った。報告もとに議論したあと、今後は、各自のプロジェクトの発展にむけた建設な議論を行うためにも、博物館と高等教育機関の連携の意義を明確に示し、よりインタラクティブな学びの可能性を探求する試みをメンバー間で連携して本研究を進めていくことを話し合った。