国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

会計学と人類学の融合

研究期間:2016.10-2019.3 代表者 出口正之

研究プロジェクト一覧

キーワード

監査文化、会計と文化、国際財務会計基準

目的

地中海時代のイタリアに端を発する近代会計学は、口別計算から期間損益計算、現金主義から発生主義へという進化主義的発想を明確に持つディシプリンの一つであるといえる。また、企業会計を中心に発展してきたことから、企業のグローバル化に伴い、必然的に会計基準のグローバル化を求めるようになっていった。その結果、各国の企業会計の違いを超えたグローバル・スタンダードとしてのIFRS(国際財務報告基準)が策定されて、会計関係者の間ではIFRS適用問題が大きな関心事となっている。
他方で文化人類学者は進化主義思考やグローバリゼーションに対してクリティカルに見る方法を駆使してきた。市場主義的でかつ自己規律的なAudit Cultures(Shore&Wright 1999, Strathern2000)についても批判を加えている。しかしながら、Audit Culturesの中核に位置するともいえる会計学者にその声が届いているとはとても思えない現状もある。
本研究会はこうした状況をかんがみて、両者が議論しやすい課題として会計基準の中でもガラパゴス化した非営利会計基準(平成20年公益法人会計基準、平成23年学校法人会計基準、平成27年社会福祉法人会計基準など。これらは実は全く異なっている)に焦点を当てる。これらは、各法人制度の文化的側面を色濃く残し、また、いずれもごく最近になって改訂が加えられたという特徴を持つ。接点が難しい会計学と文化人類学の中で、会計と文化、普遍化と個別化の問題を両学問からアプローチするのに最も適したテーマであると考え、本申請はこれらを中心に会計学と人類学の学際研究を試みようとするものである。

2017年度

本年度は、昨年度に引き続き原則として幅広く関心の高い研究者にも門戸を開いて研究会を実施する。研究会の「会計」の作業定義(2017年1月版)を下記のように定めることによって、会計学者と文化人類学者の「トランスフォーマティブ・リサーチ」としての共同研究をいっそう推し進める。
「会計」は、ある主体の「贈与としての事業」及び「非贈与取引としての事業」の成果を表す「言語」である。ここで、「言語」とは、数量的及び記述的表現を含むものである。
ここで、括弧付きの「贈与」を強調したのは、企業会計は商取引だけをみるので、現実的に、寄付やボランティアは考慮されない。それに対して、非営利組織では、カネやモノの寄付、ボランティアなどは、当たり前のように存在する。こうした点で人類学者との接点を切り開こうとするためである。また、同じく括弧付きの「言語」をいれたのは、「会計は事業の言語」(伊藤邦雄2014)という会計学者もいるので、ここでの「言語」は、他者を前提にした伝達という相互行為の手段としての意味を含むものとして使用している。
さらに「数量的及び記述的表現を含む」とは、会計は、貨幣経済を前提としない、より普遍的な社会にも存在するものと仮定して理解する。例えば、「腕輪と首飾りの交換をした」という表現上の記述は「会計」の定義に含まれるものとした。また、英国の「チャリティ」(「公益の組織として認められた団体」を示す法律用語)の報告書で、「会計実務勧告書」と会計学者に訳されているSORP(Statement of Recommended Practice)(注:「チャリティ」が活動の内容を社会や政府に報告するときの推奨される書類)には、チャリティの活動がどのように公益を増進させたかを記述することなどが求められている。そこで、このような記述的報告内容も含んで「会計」と定義している。
伊藤邦雄 『新・現代会計入門』日本経済新聞出版社. 東京。2014
上記作業定義を基本として、毎回、会計学者と文化人類学者の双方から報告を求めて、研究会を実施する。なお、研究会の内容についてはクラウドにて研究メンバーが共有し、会計学者及び文化人類学者の共著による論文を発表する予定にしている。

【館内研究員】 宇田川妙子
【館外研究員】 石津寿恵、大貫一、尾上選哉、金セッピョル、竹沢尚一郎、西村祐子、早川真悠、深田淳太郎、藤井秀樹、古市雄一朗、安冨歩、八巻恵子
研究会
2017年6月24日(土)14:00~18:40(国立民族学博物館 第3演習室)
大貫一(金沢星陵大学)「ジンバブエのハイパー・インフレー現象の会計学的理解」
討論
安冨渉(東京大学)「生きるための簿記会計」試論
討論
深田淳太郎(三重大学)「交換レートを作り出す:パプアニューギニア、トーライ社会における貝殻貨幣と法定通貨の関係」
討論
2017年10月21日(土)14:00~18:20(国立民族学博物館 第4セミナー室)
早川真悠(国立民族学博物館)「人類学コミュニティの研究倫理と規範」
討論
窪田暁(奈良県立大学)「ドミニカの野球移民とお金の流れ」
討論
古市雄一郎(大原大学院大学)「贈与取引の会計学的理解」
討論

2016年度

本研究は共同研究の2年半の期間を立案し、第1期(平成28年10月から平成29年9月)、第2期(平成29年10月から平成30年9月)、第3期(平成30年10月から平成31年3月)に分け、12回の研究会の実施を計画している。今年度はこのうち第1期の前半部分を実施する。
【第1回研究会】
研究代表者から、全体の概要とそれぞれの研究者が取り組むべき課題を設定する。また、研究代表者は公益法人会計基準策定に直接関与したことから、策定に関わる企業会計VS非営利法人会計の問題を報告する。
続いて、会計学者から会計学の歴史、IFRに向かう動き、ガラパゴス化した日本の非営利会計基準などを巨視的に概観し、それらが文化の研究対象として意味があること報告する。
【第2回ないし第3回研究会】
個別の非営利法人会計基準の状況と文化的課題を会計学者から報告を行う。この間の主な論点は、第1に、静的な把握として個別の非営利法人会計基準と企業会計との距離感。さらに、第2に、動的な把握として、企業会計から遠ざかっているのか(個別化の強化)あるいは近づいているのか(普遍化の強化)を意識した形での発表を行う。

【館内研究員】 宇田川妙子
【館外研究員】 石津寿恵、大貫一、尾上選哉、金セッピョル、西村祐子、早川真悠、深田淳太郎、藤井秀樹、古市雄一朗
研究会
2016年10月29日(土)14:30~19:30(国立民族学博物館 第4セミナー室)
出口正之(国立民族学博物館)「文化人類学と会計学はどこで繋がるのか」
共同研究員全員 討論
博物館内見学
尾上選哉(大原大学院大学)「公益法人会計基準の変遷:アカウンタビリティ・コンセプトの観点から」
質疑(共同研究員全員)
共同研究員全員「研究会の進め方とアウトプットのイメージ」(進行:出口)
2016年11月26日(土)14:00~19:00(国立民族学博物館 第3演習室)
出口正之(国立民族学博物館)「『会計』及び『会計基準』等の定義について」
藤井秀樹(京都大学)「会計システムの比較制度分析」
討論
早川真悠(摂南大学)「ジンバブエのハイパーインフレーション」 
討論
2017年1月21日(土)14:00~19:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
出口正之(国立民族学博物館)「本日の研究会の趣旨」
岸上伸啓(国立民族学博物館)「文化人類学における贈与論」
討論
石津寿恵(明治大学)「病院の財務情報開示――日米の制度比較を踏まえて」
討論
次年度の研究会の進め方