国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

統治のフロンティア空間をめぐる人類学――国家・資本・住民の関係を考察する

研究期間:2018.10-2022.3 代表者 佐川徹

研究プロジェクト一覧

キーワード

フロンティア、国家形成、ゾミア

目的

本研究では、統治のフロンティア空間、つまり国家の中心部から隔たれ、統治の遂行が希薄である空間の動態に着目する。P・クラストルやI・コピトフ、J・スコットは、国家と国家に捕捉されざる住民との関係を各地域レベルで論じた。彼らが対象としたのは、主として植民地化以前や第二次世界大戦以前の世界である。だが、フロンティア空間の国家への包摂は不可逆的なプロセスではない。国家による領域化が一度は完遂したと思われる地域も、国家の統治能力の減退により、再度フロンティア空間に回帰することがある。また国家統治から放置されていた地域が、新たな資源の商品化により、資本や国家からフロンティア空間として再度見出されることもある。フロンティア空間の「発見と消失」は循環的な現象である。実際、21世紀に入ってから、世界各地で新たなフロンティア空間が「発見」され、その開発と領域化が進行している。本研究の目的は、アフリカ・東南アジア・中南米地域の事例分析をとおして、国家による統治と資本主義への接合から完全には逃れられない現代世界で、フロンティア空間の住民がいかに生活の再編を試みているのかを示すことである。

2019年度

本研究の目的は、現代世界におけるフロンティア空間の動態を探ることである。2年目にあたる本年度は、サハラ以南アフリカ、東南アジア、南アジア、中南米の各地域における国家、資本、住民の関係性のありようを検討するために、各メンバーが事例報告をおこなう。具体的には、国境付近などに国家が支配の貫徹を求めて進出してくる統治フロンティア、多国籍企業などが大規模開発事業を実施する開発・資源フロンティア、よりローカルなレベルで商人が商業資本主義的な原理に則り交易ネットワークを広げることから生じる商業フロンティア、紛争や災害などで難民化した人がつくりあげる逃避フロンティアなどのテーマごとに発表をおこなうことで、各地域を越えたフロンティア空間の共通性の抽出を目指す。

【館内研究員】 池谷和信、南真木人
【館外研究員】 王柳蘭、大澤隆将、岡野英之、桐越仁美、日下部尚徳、久保忠行、後藤健志、近藤宏、鈴木佑記、武内進一、二文字屋脩
研究会
2019年10月27日(日)12:30~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
佐川徹(慶應義塾大学)趣旨説明
二文字屋脩(早稲田大学)「タイ北部地域にみるフロンティア空間の動態:(ポスト)遊動狩猟採集民ムラブリを事例に」
大澤隆将(総合地球環境学研究所)「空間認識の錯綜:開発、オラン・アスリ、泥炭」
佐川徹(慶應義塾大学)「漁労を始めた牧畜民:東アフリカ牧畜社会における国家―資本―住民関係」
総合討論
2019年12月8日(日)12:30~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
佐川徹(慶應義塾大学)趣旨説明
近藤宏(早稲田大学)「難民となった都市先住民の『フロンティア』と『多文化共生』:南米・コロンビア太平洋岸の事例」
久保忠行(大妻女子大学)「観光資源としてのフロンティア:ミャンマーのコミュニティ・ベースド・ツーリズム」
鈴木佑記(国士館大学)「二つのフロンティア:タイ領アンダマン海域における国家・資本・海民モーケンの関係性を探る」
総合討論

2018年度

本研究では、住民の生業、国家、資本の相互作用をとおしてフロンティア空間が変容していると考え、以下の3点を検討する。
(1)生業のエートスフロンティア空間の住民は、遊動的な生活により特徴づけられる生業に従事し、しばしば非階層的な社会構成のもとで生きてきた。定住的な生活へ移行しても、人びとが培ってきた生業のエートス(松井 2011)は消滅するわけではなく、むしろ国家や資本への対応過程にこのエートスが強く反映することが推測される。本研究ではこの生業のエートスの実態を検討する。
(2)国家形成と住民の変容
国家形成とは国家が住民や領域に対して統治や支配を強めていくプロセスを指す。住民は、国家からの逃走、国家との交渉、国家への順応などの選択をしながら、国家との関係を調整する。本研究では、国家が住民をいかに名づけ介入の対象としてきたのか、逆に住民が国家をいかなるものとして想像しその介入に対応してきたのかを明らかにする。
(3)フロンティア空間での資本
フロンティア空間には入植民や商人、企業が流入してくる。彼らは国家と結託しながら利益追求を試み住民の生活に負の影響を与えることがある一方、住民へ国家による統治から逃れる手段や、代替的な生活基盤を提供することもある。本研究では、住民と資本との関係の歴史と現在に焦点を当て、上述の(1)(2)といかに関わっているのかを明らかにする。
研究会は以下のように実施する。
<平成30年>1回
代表者が先行研究の議論を整理し、研究会の趣旨を説明する。

【館内研究員】 池谷和信、南真木人
【館外研究員】 王柳蘭、大澤隆将、岡野英之、桐越仁美、日下部尚徳、久保忠行、後藤健志、近藤宏、鈴木佑記、武内進一、二文字屋脩
研究会
2019年2月2日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
佐川徹(慶應義塾大学)「趣旨説明」
全員「自己紹介」
久保忠行(大妻女子大学)「東南・南アジアにおけるフロンティアをめぐる先行研究」
佐川徹(慶應義塾大学)「サハラ以南アフリカにおけるフロンティアをめぐる先行研究」
後藤健志(東京外国語大学)「中南米におけるフロンティアをめぐる先行研究」
岡野英之(立命館大学)「先行研究レヴューから得られる知見」
研究成果

本年度の研究会では、まずフロンティアをどのように定義するかを検討し、「外部者の視点からは現在の居住者による管理や利用が希薄ないし過小に映る空間」と定義づけることにした。またそれぞれの特性から、フロンティアがいくつかの種類にわけうることを確認した。たとえば、国家が支配の貫徹を目指す「統治フロンティア」、企業らが資源の抽出を目指す「資源フロンティアないし、抽出フロンティア」、NGOなどが援助や支援の対象とする「支援フロンティア」、国家や企業の進出対象とされた地域の人びと自身がローカルに見出す「在地フロンティア」、従来の居住地から追いやられた人たちがつくりだす「難民フロンティア」などである。さらに、J.スコットの『モラル・エコノミー』から『ゾミア』にいたる各著作の内容をいかに本研究会での分析に取りこんでいくのか、その際には政治生態学的な視点とどのような関係づけになるのか、といった点も議論がなされた。