国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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特別展「オセアニア大航海展」

オセアニア大航海展:ヴァカ モアナ、海の人類大移動
 


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●ここではオセアニア大航海展にちなんだ一品を、各研究者がご紹介致します。


伝統文化を未来へ
北海道大学観光学高等研究センター長
石森 秀三

今回の特別展には、航海士達の貴重な映像記録も展示されている。伝統的な航海術を未来に伝えようと行動する人々の生の声や姿がとても感動的だ。人類史上に最初に登場した偉大な遠洋航海者たちが長い歳月をかけて生みだした海洋文化は、近代化の過程で消えゆく運命にあった。とくに、星の動きや海のうねりなどの自然現象を頼りにした伝統的な航海術は南太平洋の一部の島々だけで継承されたものだった。
ハワイで復原した伝統的なダブルカヌー、ホクレア号が、はじめてタヒチへと航海した際のキャプテンを務めたマウ・ピアイルク、ハワイで伝統的な航海技法の継承を図るナイノア・トンプソンなど、誇り高い海洋民族が幾世代にもわたって築き上げてきた叡智を未来に伝えようとする現代の航海者たちの生の声に耳を傾けてほしい。
 

キリバスの武具
民族社会研究部・准教授
林 勲男

かつてキリバスでは、集団間での争いが頻繁に起きていた。そのため男子は幼い頃から戦いのトレーニングを受け、祖父が作った槍を譲り受ける儀礼を経て、一人前の男と見なされた。武器は槍、ナイフ、拳(こぶし)につける刃物などで、どれにも鋭いサメの歯がついている。そうした武器から身を守るために装着したのが、ココヤシの繊維をよって編み上げたボディスーツと、頭部をも守る胴鎧(どうよろい)、それにハリセンボンの兜(かぶと)である。しかし、この兜(かぶと)、接近戦で頭突きを食らわせば、立派な武器になりそうである。今から10年前、みんぱく開館20周年記念特別展「異文化へのまなざし」で、大英博物館所蔵の同様の鎧(よろい)が展示されたが、ハリセンボンの兜(かぶと)も含め、一式がそろったのは今回が始めてだ。
 


フィリピンの山奥から「これな~んだ?」
先端人類科学研究部・准教授
菊澤 律子

かたちや材質に違いはありますが、日本でも私たちが毎日使うものです。いったいなんでしょう?実はこれ、水牛の肩の骨でできた「しゃもじ」なのです。フィリピンでは日本同様、米が主食で、一日三度ご飯を食べます。鍋で炊いたご飯を、このしゃもじをつかって竹で編んだざるに盛りつけ、ざるからは手でご飯をすくって口に運んでいました。ホーロー製の皿や金属製のスプーンが普及した現在も、しゃもじだけはこの骨製のものが使われています。展示場には、ご飯を盛り付けるのに使われた平ざるや、農作業に携帯したお弁当用のかご、精米につかわれる臼と杵などもあります。おなじ米食文化でも、日本で見慣れたものとは異なる道具がたくさんあるのを、会場に再現されたフィリピンの台所へぜひ、見にきてください。

 

パプアニューギニアのフリ映像解説
立教大学 
豊田由貴夫

写真はパプアニューギニアのフリの人々が、伝統的な「かつら」の作り方を説明しているところであるが、今回の展示ではこの説明の様子を映像で示している。近代化の影響が少ないとされているパプアニューギニアのなかでも、フリの人々は、現在でも日常的に伝統的な衣装を身につけている数少ない人たちであり、その衣装として目立つのは「かつら」である。映像ではこの三日月形のかつらの意味やその作り方が説明されており、そこではそのかつらは伝統的なものであり、決して観光客のために身につけているわけではないことが強調されている。しかしこの映像は観光客を相手に説明しているところであり、そのような伝統的な風習が観光のために使われているという、皮肉な現象を見ることができる。

 

仮面
日本学術振興会特別研究員
福井 栄二郎

「人間(person)」の語源がラテン語の「仮面(persona)」だとはよく知られたことだ。つまり人間は社会のなかでさまざまな「仮面」を被ってその役割を演じている。
例えばオセアニアでは、儀礼の際、祖先の霊が体現した仮面を付けて踊るということがよく見られる。一年の豊穣とか親族の繁栄を祈念しての踊りである。
しかし現在、こうした仮面が別の文脈に位置づけられている。パプアニューギニアでは、観光業者のオフィスの壁一面に、お土産用の仮面がずらりと貼り付けられているのだ。そこに伝統的な祈りやら願いは込められていないだろうが、それでも工夫された細部の意匠や、ニューギニア独特の雰囲気は存分に味わえる。こうした土産物から世界のグローバル化を想像してみるのもまた楽しいのではないだろうか。

 

タトゥーネシアの写真のスライド・ショー
金城学院大学
桑原 牧子

肌に模様を刻む慣習タタウ/タトゥーは海を渡ってタヒチにたどり着き、今もなお、海を越えて旅し続けている。2005年にモーレア島で、2006年にタヒチ島で4日間にわたって開催されたタトゥー・コンベンション『タトゥーネシア』には、世界各国から多くの彫師とタタウ/タトゥー愛好家が集まった。連日、ジージーとタトゥー・マシーンの鳴り響く中、来場者たちは身体の上で次々と芸術作品が出来上がっていくのを楽しんだ。『タトゥーネシア』のハイライトを写真のスライド・ショーでみせる本展示から、このタトゥーの祭典がタヒチの彫師が海外の様々なスタイルや技術を学び、欧米や他のポリネシアの彫師とのネットワークを築く機会となったことがわかる。

 

マダガスカルのヴァリハ
研究戦略センター・助教
飯田 卓

アフリカ大陸の東にあるマダガスカル島の文化は、アフリカから影響を受けてきたいっぽうで、インド洋を隔てた東南アジアとの結びつきも強い。その証拠が、マダガスカルの楽器「ヴァリハ」である。竹の表皮の一部が弦に、竹筒全体が共鳴器になっている。針金の弦を用いるものもある。

類似した楽器は、東南アジア各地や、ニューギニアやソロモン諸島などメラネシア地域にみられる。遠く離れた島じまの楽器が似ているのは、東南アジアで活躍した航海者がマダガスカルに到達したからだろう。そして、その想像はおそらくまちがっていない。マダガスカルで話されているマラガシ語は、インドネシア地域の言語と同系統だからである。そのほかにも、ふたつの地域の文化のあいだには、さまざまな類似性がみられる。
 

ラピタ土器
民族社会研究部・教授
印東 道子

「オセアニア大航海展」には、航海に関連したもの以外にも貴重な物がたくさん展示されている。その一つが、ラピタ土器という珍しい土器で、今から3000年以上も前にポリネシア人の祖先が作ったものである。表面に施されたユニークな紋様は、人の顔をモチーフにしており、緻密に計算された点の連続で表現されている。この土器が見つかる遺跡をたどると、ポリネシア人の移動ルートがわかる。
今回展示されているラピタ土器は、今から3000年前ごろにニューカレドニアで作られたもので、同時期の日本では縄文土器が作られていた。縄文土器は力強い紋様が特長であるが、ラピタ土器はその反対で、繊細な印象を与える。非常にもろいラピタ土器を海外で公開することは珍しく、日本では今回が初めての展示である。

ラピタ土器
外来研究員
小野 林太郎

今からさかのぼること3500年ほど前、南太平洋に突如現れた謎の集団がいた。その名はラピタ。そして彼らが残した土器が「ラピタ土器」である。この「ラピタ土器」の分布の広がりが、南太平洋の島々における彼らの移動と活躍を物語ってきた。その範囲はニューギニアの離島部から人類未踏の地であったポリネシアのサモアやトンガまで、はるか5000キロ以上におよぶ。彼らがポリネシア人の祖と呼ばれる由縁もここにある。
そんなラピタ人の残した土器には、連続した刺突の技術を用い、人の顔や美しい幾何学文様を描いたものがある。実はこうした技術は「刺青」の技術を転用したもので、ラピタ人は刺青の風習をもっていたと言われている。おそらくこの辺りに、彼らの謎をとく鍵があるのかもしれない。
 


スタードーム
機関研究員
市川 哲

広大な太平洋に点在する島々に人類がどのようにして移住していったのか。「オセアニア大航海展」ではこの謎を展示を通して解明している。そのうちの一つがスター・ドームである。これはニュージーランドのオークランド博物館から民博が借り受けたマルチメディア装置である。スター・ドームはプラネタリウム状の半球の天井に映像を映すことにより、オセアニアの人々が航海用カヌーに乗ってどのように航海したのかを説明する。オセアニアの伝統的な航海術は、星空や太陽の運行、雲の形、海流や風の方向、海鳥の群れ等を手がかりとすることにより、遠く離れた島から島へと人々が移動することを可能にした。コンパスも海図もない時代に、人々がどのようにして広大な太平洋の各地に拡散して行ったのかを映像と音声で知ることが出来る。
 

タヒチの戦闘用カヌーの横断面
先端人類科学研究部・准教授
白川 千尋

『オセアニア大航海展』では、太平洋の人々が航海の際などに使ったカヌーが、実物・ミニチュア取り混ぜて15艘も展示されている。しかし、それにも増してみごたえのあるのが、戦闘用カヌーの船体の実物大の横断面である。ブリタンネという名前のこのカヌーは1774年にタヒチでつくられたもので、全長33メートルもある二つの船体を横木でつないだ巨大なものである。横断面はハート形をしており、その内側には大人が座り込めるような広さがある。しかし、驚かされるのはその大きさだけではない。船体は、巨大な丸太をくりぬいてつくられたものと思いきや、厚みのある木材がロープで互いに結わえつけられた構造になっているのだ。巨木の少ない島に生きた人々ならではの工夫なのか。そんな想像をかきたてる逸品である。
 

パンダナスコーナーの紹介
研究戦略センター・准教授
ピーター J. マシウス

パンダナス・セクションでのユニークな展示は、パンダナス製の寝ゴザと枕です。
枕の外側はパンダナスのカバーで覆われ,中にはカポックという木の種からとれた綿毛が入っています。この綿毛は古くから寝具に使われてきました。
ゴザは二重になっており,端は丁寧に縫い合わされています。ぜひ実際に座ったり横になったりしてみてください。やわらかくて気持ちがいいですよ!
オセアニア地域ではゴザと同じパンダナスの葉をつかい,同じような編み方でカヌーの帆が作られました。
このゴザ,枕はインドネシアのタド集落で民族植物学の研究をおこなっているジェニーン・ファイファー博士の協力のもと,本展覧会のために作られたものです。
 


vakamoana
■開催期間:2007年9月13日(木)~12月11日(火)
■観覧料:一般1,000円(700円)高校/大学生550円(300円)小・中学生300円(150円)
 *( )は20名以上の団体料金です
 *割引料金対象者(要証明書)
  ・大学等(短大・大学・大学院・専修学校の専門課程)の授業での利用の方
  ・・・シラバス等、授業内容の明記されたもののコピーが必要
  ・3ヶ月以内のリピーター・・・3ヶ月以内の前回の観覧券が必要
  ・満65歳以上の方・・・年齢を証明できるものが必要
 *上記料金で常設展も御覧になれます 
 *毎週土曜日は、小・中・高校生は無料
 ※9月17日(月・祝)、11月3日(土・祝)、17日(土)、18日(日)は全ての方が無料
■開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
■休館日:水曜日
■問合せ:TEL. 06-6876-2151(代表)