国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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食料生産システムの文明論

テーマ区分:環境 2 食料問題とエコシステム

代表者:野林厚志

研究期間:2017.4-2020.3

 

プロジェクトの目的・内容

人類にとって食とは生態学的、栄養学的充足を満たす以上の役割がある。すなわち、食とは最も原初的な富の形態であり、 生産(採集や狩猟も含む)、貯蔵、交換といった諸行為を通じて、より大きな経済活動を構築する端緒を与えた。 同時に、地域の環境と密接にむすびついた食は、土地の人々にとって社会的、文化的アイデンティティの表明となり、 同時に共食や贈与交換に代表されるコミュニケーション手段の役割も果たしてきた。これらはその範囲を広げることにより、 国家や共同体の統合原理を構成する要素ともなり、近年では「ガストロディプロマシー(美食外交)」に見られる国家間の経済的、 政治的関係を深めるための外交手段としても注目されている。

 

本来、食とは個体が生命を維持するための要素であり、地球の生態循環のなかで機能するものである。 したがって、現代社会における大量生産、大量廃棄という食糧資源のあつかわれかたは、これまで人類社会が経験してこなかった 文明の新たな暗部ともいえる。政治経済的な脈絡の中で生態学的適応に乖離している現代社会の食の実相が生成されるメカニズムを、 従来のマクロな食糧問題へのアプローチに対し、文化人類学的な切口でとらえることが本研究の主要な目的である。

 

本研究課題では人類が食を操作してきた営みを批判的に検討する。具体的には、食料生産のシステムが、家庭、地域社会、国家、 経済地域園をどのように接合しているのか、個々のレベルで生じる格差と食料生産、供給、消費との関係、伝統文化、 食文化の維持と食料生産システムとの矛盾等を核となるテーマとして設定し、文明社会を支えてきた文化的装置として 食料の生産の将来におけるありかたを見直そうとするものである。

 

期待される成果

減少しつつあるものの、世界の飢餓人口は約8億人を数えるとともに、格差社会という言葉に代表される地域社会における 食の不均衡は解消されていない。政治経済的な脈絡の中で生態学的適応に乖離している現代社会の食の実相を明らかにし、 文明社会の健全な存続の鍵をにぎる食の位置づけを探究することは、将来を生きる人類の展望を得るうえで必要不可欠である。 従前の問題意識はすでに欧米を中心とする国際的な学界では関心が強く寄せられており、専門書等の刊行も珍しくない状況が生まれている。 こうした状況に鑑みた場合、本プロジェクトの実施を通して、海外の諸研究機関との連携をはかり、当該テーマの研究力を強化するとともに、 国際シンポジウムの成果を国際的に可視化することが期待される。