館長あいさつ

ごあいさつ

国立民族学博物館(みんぱく)は、文化人類学・民族学とその関連分野の大学共同利用機関として1974年に創設され、1977年に大阪・千里の70年万博跡地に開館しました。来る2024年には創設50周年を迎えることになります。
みんぱくの研究者たちは、それぞれが世界各地でフィールドワークに従事し、人類文化の多様性と共通性、そして地球規模でのつながりの中での社会の動態について調査研究を続けています。また、みんぱくには、総合研究大学院大学(総研大)文化科学研究科の二つの専攻、地域文化学専攻と比較文化学専攻がおかれています。文化人類学関係の単体の教育研究機関として、世界全域をカヴァーする研究者の陣容と研究組織をもつという点で、みんぱくは世界で唯一の存在といえます。
一方で、みんぱくがこれまでに収集してきた標本資料、モノの資料は、現在、34万5千点を超えます。これは、20世紀後半以降に築かれた民族学コレクションとしては世界最大のものです。また、博物館施設の規模の上で、民博は、現在、世界最大の民族学博物館となっています。
みんぱくは、こうした世界にも類を見ない学術資源を基礎に、人類の文化と社会についての理解、自己と他者の認識についての理解を深め、人類共生のための指針を示す「グローバル人間共生科学の創成」をミッションとして、活動を続けています。
人類の文明は、今、数百年来の大きな転換点を迎えているように思われます。これまでの、中心とされてきた側が周縁と規定されてきた側を一方的にまなざし、支配するという力関係が変質し、従来、 それぞれ中心、周縁とされてきた人間集団の間に、創造的なものも破壊的なものも含めて、双方向的な接触と交錯・交流が至るところで起こるようになってきています。
そして、2020年、新型コロナウイルス感染症がほぼ同時に地球全体に広がるという事態に至って、私たちは、今、人類がこれまで経験したことのない局面にいやおうなく立ち会うことになりました。その状況の中で、私たちが現在の生活を送るうえで当たり前と思って来た慣行やルール、とりわけ、人類が近代に入って作り上げてきたあらゆる制度や規範の成り立ちやありようが洗い出され、その意義と存在理由が改めて問われるとともに、社会に潜在していた差別意識が浮かび上がり、世界の新たな分断の状況も生まれてきています。
それだけに、人びとが、異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界を築くことが、これまでになく求められてきています。今ほど、他者への共感に基づき、自己と他者の文化についての理解を深めるという、人類学の知、そして民族学博物館の役割が求められている時代はないと思います。
みんぱくでは、現在、館を挙げて特別研究「現代文明と人類の未来―環境・文化・人間」を実施しています。この国際共同研究は、感染症を含めて人類の抱える課題を分野を超えて多角的に検証し、未来への指針を探ろうというもので、すでにその成果の国内外への発信が始まっています。
みんぱくでは、また、「フォーラム型情報ミュージアム」というプロジェクトを推進しています。このプロジェクトは、みんぱくの所蔵する標本資料や写真・動画などの映像音響資料の情報を、国内外の研究者や利用者ばかりでなく、それらの資料をもともと製作した地域の人びと、あるいはそれが写真なら、その写真が撮影された現地の人びとと共有し、そこから得られた知見を広く共有することで、新しい共同研究や、共同の展示、コミュニティ活動の実現につなげていこうというものです。
これらの活動は、いずれも、かねてよりみんぱくがめざしてまいりました、さまざまな人びとの知的交流と発見、協働・共創の場、つまり知のフォーラムを、研究教育活動・博物館活動を問わず、これまで以上に徹底したかたちで実現しようとするものです。
皆さまの、ご協力、ご支援を、心からお願い申し上げます。

国立民族学博物館長:吉田憲司

館長室だより