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館長あいさつ

国立民族学博物館(略称みんぱく)は、民族学・文化人類学とその関連分野の研究を推進する大学共同利用機関として1974(昭和49)年6月に創設されました。

これまでみんぱくの研究者は、世界各地でのフィールドワークを通して、人類文化の多様性と共通性、社会の動態について国内外の研究者と共同研究を行ってきました。その成果は、論文などの刊行物で発表するばかりでなく、展示という手法を通じて公開してきました。また、みんぱくには、総合研究大学院大学(総研大)の博士後期課程の人類文化研究コースが併設されており、みんぱくのミッションに連動した専門教育を行ってきました。このような研究、展示(博物館)、そして教育を連動させた文化人類学、民族学の機関は世界でも希といえるでしょう。

世界ではグローバル化と分断が併存しているように見えます。元々、社会、経済、文化が国や地域を超えてつながりを持つことになるグローバル化の原点は15世紀の大航海時代に遡るといわれています。ヨーロッパ人に征服されたアメリカ大陸の先住民は、厳しい強制労働や外部からもたらされた病気により急激に人口を減少させるという苦難を経験しました。それ以降、急激な環境破壊が進行したこともグローバル化がもたらした弊害としてよく指摘されます。近年のパンデミックの災禍も、歴史の繰り返しとグローバル化の危うさを顕在化させるものでした。たしかにグローバル化は、負の現象を引き起こしてきましたが、その反面、世界各地の集団は、グローバル化を支える移動手段や情報機器の発達を巧みに利用しながら、独自の文化を創造してきたことも事実です。またグローバル化の負の側面を批判、修正すべく、人権、先住民の権利など普遍的な思想が次々と生まれ、それにより抑圧されてきた人々が声を大にして異議申し立てをすることもできるようになりました。

ところが、パンデミックを境に社会の転換点を迎えたといわれる現在、世界では人類や地球といった視点よりも個別の関心に閉じ込もる傾向が目につきます。分断と言われる現象もこの一つです。国を含む各地域の集団が、それぞれの物語を紡ぎ出すことは文化の多様性を確保する意味で、否定するどころか尊重すべきかと思います。しかし、他者の物語や歴史に思いをはせ、共感し、寛容の心を併せ持たないままでは、個々の物語をぶつけ合うだけの不毛な世界しか生み出さないでしょう。人類全体、地球全体を視野におきつつ、個別の文化と社会の存在を認めていく態度こそが今こそ求められているのです。

こうした意識のもと、みんぱくでは、館を代表する研究として「ポスト国民国家時代における民族」を推進しています。混迷を深める世界の状況の中で、国家と民族との関係性を改めて多角的に分析し、人類がともに手を携えて生きていく共生社会の実現を展望していこうというものです。また、50年近く収集し、収蔵してきた標本・映像資料を、それらの資料の提供者、提供集団との間で共有し、改めて資料の意味を問い直すとともに、データベース化していくという「フォーラム型人類文化アーカイブズの構築」プロジェクトも推進しています。文化を語るのは、もはや研究者だけでないことは、なかば常識化しています。資料を作り、伝えてきた人々と研究者とが協働作業を行うことで、フォーラムの場が生まれ、これまでとは異なる知見が得られ、研究の新たな地平を拓くことができます。また研究成果を共有することは、現地の人々自身がそれらを社会発展に利用していくことにもつながるでしょう。共生社会の実現に向けた国際協力の先鋭的な試みだと考えています。

このようにみんぱくは、共同研究と成果公開、人材育成を通じて、よりよき人類社会の指針を示していくことに邁進していくつもりです。今後も、皆さまからのご支援、ご協力を、心からお願い申し上げます。

国立民族学博物館長:関雄二

館長室だより

館長の活動の一端を館長室がご紹介します。