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トナカイの大地、クジラの海の民族誌――ツンドラに生きるロシアの先住民チュクチ

館外での出版物

2022年3月31日

池谷和信(著)

明石書店
【北東アジア地域研究成果】

出版物情報

  • 出版社:明石書店 出版社ホームページはこちら
  • 定価:4,180円(税込)
  • ISBN:978-4-7503-5397-5
  • 判型:A5判
  • 頁数:210頁
  • 北東アジア地域研究(国立民族学博物館・北東アジア地域研究拠点)(研究期間:2016年4月~2022年3月)成果

主題・内容

本書は、ホモ・サピエンスの歴史に思いをはせながら、ツンドラの “ 陸の世界 ” と “ 海の世界 ” を紹介した生活の記録である。筆者は、内陸のトナカイ飼育に従事する村、ベーリング海峡に面する海獣狩猟に従事する村での過酷なフィールドワークをとおして、ツンドラの自然と人とのかかわり方や先住民チュクチとロシア人との共生のあり方を描いている。

おすすめのポイント、読者へのメッセージ

現在、ロシアが注目されている。本書では、ロシア国家による先住民支配の様態をとおして地域社会でのロシア人とチュクチ人の共生のあり方を紹介している。ここでは、チュクチのロシアへの反応を示す興味深いエピソードがある。彼らは「プーチン」という名前を犬につけていたのだ。
これは何を意味しているのだろうか。本書は、ロシアの北東部に暮らす先住民チュクチをとりあげる国内初の書となっている。

目次

はじめに ツンドラに生きる

序論 チュクチの調査に向て

0.1 チュコトカという地域
0.2 北方地域の生態人類学とチュクチ
0.3 研究の枠組みと現地調査の過程

第 1 章 日本からロシアのツンドラへ

1.1 成田空港からモスクワへ、そしてチュコトカへ
1.2 調査地の村へ
1.3 中心村落の生活
1.4 村の形成史

第 2 章 ツンドラの「陸の世界」 トナカイと人

2.1 トナカイキャンプへ:衣食住
2.1.1 衣食住
2.1.2 キャンプの集団構成
2.1.3 移動形態
2.1.4 トナカイの管理技術
2.2 農場経営からみたトナカイ牧畜
2.2.1 トナカイ頭数の変化と経営戦略
2.2.2 トナカイ牧畜の国家管理と牧夫の給料
2.3 放牧テリトリーの変化とチュクチの主体的対応
2.3.1 放牧地の再編(1968 ~ 1997 年)とその要因
2.3.2 ブリガーダ構成員の増加:ブリガーダ No. 9 の事例
2.4 ソビエト崩壊後のチュクチのトナカイ牧畜
2.5 村からペベックに戻る

第 3 章 トナカイの民のエスノヒストリー世界最大規模の家畜飼育者の変容

3.1 1900 年ごろの “トナカイチュクチ ” の地域集団
3.2 チュクチの毛皮交易
3.3 アメリカ人と “トナカイチュクチ ” の交易:チャウン地区の事例
3.4 20 世紀前半におけるアメリカ人とチュクチとの交易
3.5 20 世紀前半におけるチュコトカ・カムチャッカ地域

第 4 章 変わりつつあるトナカイの村

4.1 近年の政治経済の動向
4.2 チュコトカ自治管区におけるトナカイ牧畜の変化(1927 ~ 2001 年)
4.3 チュコトカ自治管区内の地区別の変化
4.3.1 トナカイ飼育頭数
4.3.2 経営体の形成と解体
4.4 社会主義体制崩壊後にトナカイ飼育が衰退する村:トナカイ飼育からサケ漁業へ

第 5 章 ツンドラの “ 海の世界 ” クジラと人

5.1 ベーリング海峡の海獣猟の村へ
5.2 意外に容易なクジラ猟
5.2.1 チュコトカの海獣狩猟
5.2.2 海獣類の種類と生態
5.2.3 クジラ狩猟の実態
5.3 クジラの解体と捕獲した肉の分配
5.4 狩猟キャンプへ:セイウチと人
5.5 村のなかでのクジラ狩猟:世界でもっとも肉のある村

第 6 章 変わりつつあるクジラの村

6.1 “ 海獣チュクチ ” のエスノヒストリー
6.2 集落別の海獣類の地域性
6.3 クジラ捕獲頭数の割り当てとチュクチ:村における 2 つの事業体
6.4 近年の政治動向の変化と海岸の村

第 7 章 陸と海を越えて
    3 万年のホモ・サピエンス史、北方適応から極北適応へ

7.1 旧石器時代(3 万~ 2 万年前)と遊動狩猟民:マンモス・野生トナカイ・人
7.2 新石器時代以降(2 万年前~ 17 世紀)のフロンティア空間:海獣資源とアラース
7.3 帝政ロシア時代(1721 ~ 1917 年)のトナカイ牧畜の導入と多頭飼育化:
   陸域と海域の地域生態系  152
7.4 ソビエト時代からロシア時代へ(20 世紀):トナカイ牧畜と海獣狩猟の地域性
7.4.1 陸域:シベリア・サハリンのトナカイ牧畜の比較
7.4.2 多様な海獣狩猟:北太平洋の海獣狩猟の地域性
7.4.3 捕鯨をとりまく問題
7.5 移動性・回遊性のある生き物の資源管理

第 8 章 日本でのチュクチの紹介

8.1 国立民族学博物館でチュクチ文化を展示
8.2 トナカイ飼育者のその後:映画『ツンドラブック』の民博での上映

おわりに:国家が支える伝統文化とツンドラへの適応力

あとがき

参考文献

索引