南西アラスカのサウナ文化
南西アラスカの先住民、ユピックの人々が暮らす村を歩いていると、しばしば住居の横に小さな小屋のようなものがあることに気付く。「あれは何?」と聞くと、誇らしげに「ファイヤーバス(firebath)」、つまりサウナだと教えてくれる。実は、ユピックの人たちは無類のサウナ好きとして知られている。
ユピックのサウナ文化は、欧米社会との接触以前から存在していたらしい。現在は定住しているとはいえ、狩猟採集民である彼らはかつて、資源を求めて夏と冬で居住地を変える半遊動的な生活を送っていた。
家族ごとに分散し生業活動に従事する春・夏に対し、冬は複数の家族が村に集まり半地下式の住居で集住した。この冬の村では、村の男性たち全員が、「カジキ(Qasgiq)」と言う一つの大型住居で、妻たちとは別居して暮らしていた。いわゆる「男の家」である。
このカジキは男性の冬の居住施設であると同時に、男児の教育の場や儀礼の会場でもあり、時にサウナとしても利用された。サウナは日常的に利用したほか、儀礼でも重要な要素を構成していた。
カジキを利用したサウナの温度はかなり高かったらしく、肺や頭部を守るためのマウスピースや、羽毛のサウナハットが使用されたという。古記録には、サウナで汗をかいた後に雪の上を転げ回ったり、近くの小川で水浴びをしたりして、恍惚とする男性の様子が記録されている。
20世紀前半までに、カジキでの男性の共同生活という文化は衰退した。しかし、サウナはコミュニティでの共同的なものから、家族ごとに所有する個人的なものとして継続したようである。現在の住民はサウナの素晴らしさを楽しそうに語ってくれる。曰く、「肌がすべすべになる」、「別の村から来た人たちとサウナで我慢くらべをした」、「あまりにも熱くしすぎて親戚に怒られた」、「愛犬と一緒に入った」など。
何を隠そう私もサウナー(サウナ愛好家)である。しかし、未だ現地のサウナに入浴させてもらったことはない。「今回こそは!」という思いで、今年もアラスカに行くのを楽しみにしている。
関連写真
サケ干し棚の横に建てられたサウナ
(筆者撮影、アラスカ州ヌニヴァク島、2023年)