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脱観光化の人類学――かわりゆく観光と社会のゆくえ ★

館外での出版物

書名 脱観光化の人類学――かわりゆく観光と社会のゆくえ
著者名 東賢太朗・福井栄二郎・奈良雅史
出版社 ミネルヴァ書房
発行年月日 2025年3月31日
判型・体裁 A5版
頁数 340頁
ISBN 9784623098057
定価 6,050円(税込)
研究成果 共同研究成果:
グローバル化時代における「観光化/脱-観光化」のダイナミズムに関する研究(2019.10-2023.3)

主題・内容

現代社会において大衆化した観光は異文化交流を促進する一方、オーバーツーリズムなどの問題も引き起こしてきました。本書は「脱観光化」をキーワードとして観光の光と影を民族誌的事例に基づいて論じます。

おすすめのポイント、読者へのメッセージ

日本でも観光立国を目指し各地でインバウンド誘致が試みられる一方で、それに伴うオーバーツーリズムが社会問題化しています。本書は、日本を含む世界のいくつかの地域の事例に基づき、そうした観光をめぐるアンビバレントな状況を「脱観光化」という概念を手掛かりに論じています。観光研究や人類学に関心をお持ちの方に手にとっていただけたら幸いです。

目次

序 章 「脱観光化」からとらえなおす観光と社会(東賢太朗)
1 観光から社会をとらえなおす 
2 「脱観光化」とはなにか 
3 観光の現在進行形、そしてその先へ 
4 観光と人類学 
5 本書の構成

第Ⅰ部 観光現象の新展開 

第1章 身体的な移動と精神的な移動が出合う「空間」 ──VTuberとコンテンツツーリズムの現場から(岡本健)
1 「精神的な移動」の存在感 
2 esports・メタバースの台頭による情報・虚構空間の拡大 
3 空間概念をさらにアップデートする 
4 VTuberとはなにか 
5 志摩スペイン村とVTuberのコラボイベント 
6 コラボの影響とアバターの役割 
7 新たな空間における「真正性」「祝祭性」 

第2章 台湾の日本神を訪ねる日本人と台湾社会──観光化がもたらす信仰実践の変容(藤野陽平)
1 民俗宗教にみる日本神 
2 創られた親日台湾言説上の日本神 
3 日本神を訪ねる慰霊団 
4 神輿の奉納と祭りへの参加 
5 観光化がもたらす日本神信仰の変容 
6 現地の文脈に取り込まれる日本神 
7 日本神にみる観光化と脱観光化のダイナミクス 

第3章 南洋のコロニアル・ノスタルジア──パラオ老人会と日本人観光客の交流を事例に(紺屋あかり)
1 植民地の歴史をめぐる旅 
2 植民地経験と独立以後の観光 
3 交流会で披露される老人たちの語り 
4 「親日」言説とその批判的考察 
5 葛藤としてのノスタルジア 

第4章 あわいを生きる──コロナ前後のタイ領アンダマン海におけるモーケンの観光業への従事(鈴木佑記)
1 タイの観光化とコロナの影響 
2 モーケン社会における船の形態変化と貨幣経済の浸透 
3 スリン諸島の観光化とモーケンの生業の変化 
4 観光化/脱観光化するアンダマン海──日帰りボートツアーの隆盛 
5 コロナ禍を生きぬく 
6 〈境界人〉がつなぐ社会 

第Ⅱ部 観光が生み出す新たな社会のあり方 

第5章 邂逅する「他者」たち──現代中国における民族観光、イスラーム復興、イスラモフォビアのもつれ (奈良雅史)
1 「観光化」による民族間関係の変化? 
2 中国における民族観光と回族 
3 回族観光の「脱観光化」 
4 邂逅する「他者」たち 
5 邂逅がもたらすもの  

第6章 アートプロジェクトにおけるゲストとは誰か──新潟市「水と土の芸術祭」を事例に(越智郁乃)
1 問題の所在 
2 「水と土の芸術祭」とアート・ディレクション 
3 市民プロジェクトの展開 
4 市民プロジェクトの行方 
5 市民プロジェクトが芸術祭にもたらしたもの 

第7章 観光の衰退、連帯の生起──フィリピン・ボラカイ島と愛知県南知多町の「脱観光化」とノスタルジア(東賢太朗)
1 観光と連帯、共同性、そしてノスタルジア 
2 ボラカイ島の観光開発と環境汚染 
3 間奏──フィールドの「脱観光化」あるいは観光のフィールドワークの停止 
4 南知多の観光と移住 
5 「脱観光化」とノスタルジアと共同性 

第8章 「フェイク」と「オリジナル」の交錯と消失──ポスト・ツーリスト化した「マサイ」(中村香子)
1 「マサイ民族文化観光」とサンブル 
2 グローバルな他者イメージとのファースト・コンタクト 
3 観光の現場における「フェイク」の誕生 
4 「フェイク」がほころびを見せるとき──他者イメージの「脱観光化」 
5 「フェイク」の向こう側にあった「オリジナル」のほころび 
6 「オリジナル」を主張するための「フェイク」の利用 
7 ハイブランドによる「マサイ」の利用と女性の新たな装いの誕生 
8 ポスト・ツーリストの感覚──「観光客のように戻ってくる」 
9 「フェイク」と「オリジナル」の消失 

第9章 観光をめぐる「ゆるやかな対立」と分断しない社会──ヴァヌアツ・アネイチュム社会における「思慮」について(福井栄二郎)
1 「どちらも正しい」はダメ? 
2 観光と分断 
3 クルーズ船観光と脱観光の流れ 
4 二つのカストム・ツアー 
5 エゲンとシヴィリティ 
6 アネイチュムにおける多様性とエゲン 
7 現地社会から考える観光 

終 章 脱観光化へ向かう要因と今後の展望(福井栄二郎・奈良雅史)
1 オーバーツーリズム 
2 新型コロナウイルスの影響 

あとがき
索引