キムチ冷蔵庫が教えてくれること
本館の来館者には、韓国人や在外コリアンの方も、かなりの数が含まれている。大学のスタディーツアーなど、グループでの来館もしばしばだ。グループを私が直接ガイドをする際には、「朝鮮半島の文化」展示に対する当事者の反応に注意を払っている。当事者の反応ほど勉強になるものはないし、そこで深まる議論からえられるものも多いからだ。
ただ、人によって反応が大きく分かれるような、悩ましい展示もある。特に、現代の文化を展示することに注力するようになってからは、その展示に何を期待するかが、当事者のあいだで大きく分かれるのを目にしてきた。
一例が、キムチ冷蔵庫だ。本館で展示しているものは、韓国で市販されたはしりの製品で、1998年の収集品である。このため、産業史の観点からみて逸品だと、好評を寄せる人もいる。写真を撮る人も少なくない。一方、その後に社会で普及したキムチ冷蔵庫は、デザインが洗練され、機能が増し、ずっと大容量の製品だ。だから、韓国でも知る人ぞ知るような旧型の製品をなぜ展示するのかと、酷評が寄せられたことすらある。
これを受け、2012年度の展示替えのさい、本館の教員のあいだで議論した。新しいものを収集して置き替えるのが、もっとも簡単かもしれない。だが、そうすると何年で買い替えるべきか。答えのない問題がまた生まれる。結局は、産業史の逸品をそのまま残しつつ、その後の製品の写真を、実際に使われている場面を含めて、横に掲げることにした。いま展示場に出ている写真は、2019年に撮影したものだが、もちろん写真の撮り直し時期は、考え続けることとしている。
現代社会では、製品も情報も、国や民族を越えて広まる。そのため、世界の人々の生活は画一化されていくように思われがちだ。しかし、キムチ冷蔵庫は教えてくれる。技術は、地域に根ざして多様化もするということを。そして、現代とはいつなのかは、つねに問い続けるべき問題なのだということも。
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