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現代アートのキュレーション 作品を取り巻く空間と家族

2025年9月1日刊行
野林厚志(国立民族学博物館教授)

子どもの頃から図画工作は一番苦手な科目だったし、アートは主観的で実証的に研究できないので、近づかないと決めていた。要は好きではなかった。そんな私に、みんぱくの学術協定先である台湾の順益台湾原住民博物館から、みんぱくで台湾の先住民族による現代アートの展示会を共催したいという打診があった。

台湾には総人口の約2%にあたる「原住民族」と呼ばれる先住民族が住んでいる。植民地化や周縁化のもとで差別や抑圧を経験してきた人たちである。彼らの現代アートの作品には、原住民族の伝統だけでなく、歴史の記憶や社会に対する異議申し立てが表現されることが少なくない。

出展予定の作品を説明するパイワン族アーティストのニタン・タキパリ氏=台湾屏東県で2月、筆者撮影
出展予定の作品を説明するパイワン族アーティストのニタン・タキバリ氏
=台湾屏東県で2月、筆者撮影

「よりによって現代アートか」とため息をつきながらも、いろいろ世話になっている相手だし、食わず嫌いもだめだと一念発起した。最初に考えたことは、私は見ず知らずの作家の作品を展示できない、それ以上に、私のような者に作品を任せるのは作家のほうも嫌だろうということであった。そこで、展示の趣旨説明や平面図をたずさえて、出展予定の12人の作家を訪ねることにした。

ありがたいことに、共催の順益博物館のスタッフ、そして、共同キュレーターで、自身もアーティストであるパイワン族のイタン・パババルン氏もアトリエ行脚につき合ってくれることになった。とはいえ、アーティストは気難しく、こだわりがあり、機嫌を損ねたら面倒だなあ、と内心はネガティブモード全開でアトリエ訪問をはじめた。初対面の方も多く、お互いに緊張しながらも、作品の背景や創作のきっかけを知ることができた。

そんなある日、その日に予定していた訪問を終え、宿で休んでいると、一人のパイワン族の作家の妻が頼みがあると訪ねてきた。みんぱくに行けば、パイワン族にまつわる古い収蔵品を手にとって見ることができるかと言う。もちろん二つ返事である。その作家は集落の人たちの表情や記憶を金工で表現していて、収蔵品から祖先の記憶をたどれるのではという。アトリエを訪問した際、彼女は、お茶やお菓子をふるまってくださった後、我々の話にも熱心に加わり、夫の創作活動を紹介してくれていた。早速、みんぱくで作っているフォーラム型のデータベースを紹介し、URLをお知らせし、みんぱくでの再会を約束した。

アトリエを訪ね、作品が生まれる空間の温度や湿度、匂いを感じ、作家やその家族と話す、そんな創作の環境に身を置くと、作家、家族、コミュニティ、友人、博物館等々、さまざまな人が現代の原住民族アートに関わり、支えていることを学べる。こんなアートなら悪くない。

気まぐれで、ちゃぶ台返しの連絡にいらつくことも少なくないキュレーションだが、アートが少し好きになった。