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ルーマニア 冬を乗り切る知恵 ごちそうが彩る祝祭続々

2025年12月1日刊行
浅田直規(国立民族学博物館助教)

「冬の祝祭」の始まりだ!

私の調査地であるルーマニアはヨーロッパ東部、黒海沿岸に位置する。緯度は北海道と同程度で、地域にもよるが11月から4月ごろまで雪が降る。長く厳しい冬が特徴的だ。私が滞在していたトランシルバニア地方のブラショブ市では、気温は氷点下10度に下がり、午前中は濃い霧が出る。雪と霧に包まれた街並みは幻想的だが、曇天模様と雪景色がつくりだす無彩色の世界は、なんとなく気分をどんよりさせる。

冬が始まる11月末~1月初頭の期間は「冬の祝祭」と呼ばれている。ルーマニア正教会の暦に基づき、「聖人の日」と「降誕祭」、主イエス・キリストの洗礼を記念する「神現祭」が続く期間の呼称だ。この時期には、さまざまな非宗教的な催しも行われる。

まず12月1日は、ルーマニアの統一記念日だ。第一次世界大戦後、トランシルバニア地方が併合されたことを記念するこの日には、各地で記念式典やパレードが行われる。ブラショブ市でも式典と憲兵隊による騎馬行進が催されていた。

この国家的なイベントに続くのが、12月6日の聖ニコラオスの日だ。キリスト教の聖人であるミラのニコラオスは、その逸話からサンタクロースのモデルともいわれている。この日に向けて、子どもたちは5日の夜に靴かブーツを磨き、枕元に飾る。そして、モシ・ニコラエ(ニコラエおじいさん)が、良い子にはプレゼント(最近ではチョコレートなどのお菓子)を、悪い子には棒を届けるという。ただし、実際に棒を渡された子どもの話は寡聞にして知らない。

クリスマス時期のブラショブ市・旧市街=ルーマニア、ブラショブ市・2019年12月17日・浅田直規
クリスマス時期のブラショブ市旧市街
=2019年12月、筆者撮影

ルーマニアの降誕祭は12月25日~27日に執り行われる。学校や仕事も休みになり、人々は里帰りし、家族で過ごす。もちろん、サンタクロースはルーマニアでも活動している。どうやら聖ニコラオスは12月に2回も働かないといけないらしい。

クリスマスが家族だんらんの日であるとすれば、大みそかは友人と過ごす日だ。皆で集まって夜通しゲームをしたり、おしゃべりしたり。新年を迎えると、そこらじゅうで花火が打ち上がり、街はにわかに騒がしくなる。

こうしたお祝いには、伝統的なルーマニア料理が欠かせない。私が滞在中に食べさせてもらったのは、ビーフサラダ、サルマーレ(ロールキャベツ)、トバ(豚肉の煮こごり)、ママリガ(トウモロコシ粉で作った主食)、チョコレートを練り込んだスポンジケーキなどなど。素材を生かした味わいは口福を運んできてくれる。昔ながらのプラムの蒸留酒もかぐわしい。

祝祭日、そしてごちそう。どんよりしていたはずの気持ちも、いつのまにか彩り豊かになってくる。厳しい冬だからこそ、むしろ楽しんで乗り切る知恵がそこにあった。