ドルポが結んだ縁(えにし)――企画展「ドルポ――西ネパール高地のチベット世界」の開幕に寄せて
企画展「ドルポ――西ネパール高地のチベット世界」(2026年3月12日~6月16日)がいよいよ開幕する。光の筋が印象的なあずき色のチラシに惹き込まれた人も多いであろう。チラシに使われた写真は、標高5,000メートルを超える峠を越えなければ辿り着けないドルポ地方の寺院で、祈りを捧げる人びとを捉えた一枚である。このコラムでは、展覧会の準備を通して、ドルポが結び重ねたいくつかの縁を紹介したい。
はじめの縁は、美容師でドルポ探求家の稲葉香氏が撮影した写真たちと、ドルポで収集された民博の資料群との巡り合わせである。稲葉香氏は2007年からドルポに通い続け、ヒマラヤがつくり出す美しい風景や、そこに住む人びとの暮らしをフレームに納めてきた。他方、民博には1958年に川喜田二郎氏を隊長とする西北ネパール学術探検隊がドルポのツァルカ村で収集した民具資料と、隊員であった高山龍三氏らが撮影した写真や調査資料が収蔵されている。ドルポの現在の魅力を写し出した写真と70年近く前に収集された資料群が、この展覧会を構想するきっかけとなった。
探検隊に同行したカメラマンの大森栄氏が撮影した映画『秘境ヒマラヤ』(1960年公開)も展覧会を盛り上げる縁となった。この映画は1950年代のドルポの様子を記録した稀有な民族誌映像である。当初、我々の手元にはVHSからコピーしたDVDの映像しかなく、画質と音声に難もあることから、大画面での上映はあきらめていた。しかし、上映の準備を進める中で、原版のフィルムが存在することが判明した。版元や収蔵先との交渉の末、35 mmのポジプリントフィルムからデジタルリマスターすることが実現した。大画面に映し出される1950年代の鮮明なドルポの姿を観るのが今から楽しみで仕方ない。
展覧会には、もうひとつのドルポ資料群との出会いがあった。1968年にドルポのポンモ村を調査した田村善次郎氏率いる西部ネパール民族文化調査隊が収集した民具などの資料群である。展覧会の準備を進める中で、これらの資料が武蔵野美術大学の民俗資料室に保管されていることを知った。資料の状態は良好で、民博の資料には含まれていない貴重な資料も多い。今回の企画展は、ドルポで収集された二つの資料群が一堂に会するまたとない機会ともなった。
そして、1900年にドルポに滞在した日本の仏僧、河口慧海(えかい)師との縁が展覧会に花を添えることとなった。仏教の原典を求めてチベットに向かう途中、慧海師がドルポを通ったことについて、当初は簡単な紹介にとどめる予定であった。しかし、慧海師が道中で記した日記の実物を借用できることになり、ドルポと日本の歴史的な関係が一本に結ばれた。「トルボ」と記された慧海の筆跡は必見である。
ドルポが結んだ縁は、ヒマラヤの山々がつくりだす谷のように深く多様である。本展覧会は、ドルポの奥深さと魅力を知る絶好の機会である。ぜひ足を運んでいただきたい。かく記す私は、まだドルポの地を踏んだことがない。ドルポとのさらなる縁を期待したい。
関連ウェブサイト


