20世紀前半ペルシア湾奴隷制に関する歴史民族誌的研究(2020-2024)
科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)
代表者 鈴木英明
目的・内容
18世紀最末期から20世紀前半は奴隷制が世界各地で廃止されていく奴隷廃止の世界的共通体験が醸成された時期であった。これは、人間が各地で作った類似の制度を世界規模で廃止していくという経験を人類に初めてもたらした。しかし、奴隷廃止はこれまで各国史のなかに個別に位置づけられ、奴隷制/ポスト奴隷制のもとを生きる人々の実態は十分に解明されてこなかった。特に環インド洋の諸社会の場合、奴隷はホスト社会への同化を強く求められていたとされる。そうであるならば、奴隷制がなくなるということは、奴隷にとって、「自由」を手に入れた出来事以上の意味を持ったはずである。以上を踏まえ、本研究の目的とは、奴隷制のもと、人々がどのように生き、その制度がなくなる中、人々はそれにどのように対応し、奴隷制がなくなった後の新たな世界を生きていったのかを、20世紀前半のペルシア湾を事例にして明らかにすることである。
活動内容
2022年度実施計画
この2年間海外調査が実施できなかったものの、デジタルデータで入手可能なものを収集したり、現地に赴かなければ入手できない資料に関する情報も十分に整理することができたので、まずは資料収集を進めていきたい。
2021年度活動報告(研究実績の概要)
本年度の研究実績は以下の通りである。
3本の口頭報告を行った。まず、5月23日には「『20世紀前半のペルシア湾における真珠採取業と拘束の諸相』」と題する報告を「奴隷と隷属の世界史」2021年度第1回研究会で行い、5月24日には”Who were “Northern Arabs”?: Appearance in various encounters in the 19th Century Western Indian Ocean”と題する報告を Source Discussion: Terms in Circulation and Categories at Work, 1600-1930と題された国際オンライン会議で報告した。11月7日には2021年度東洋史研究会大会で「20世紀前半ペルシア湾の真珠採取業と二重の拘束――奴隷制と負債」と題する報告を行った。雑誌論文としては、『オリエント』63(2)に「忖度する帝国――20世紀前半のペルシア湾地域におけるイギリス非公式帝国と奴隷解放証明書の交付」と題した論文が掲載された。また、OxfordEncyclopedia of African Historyに”The Suppression of the Transoceanic Slave Trade”と題する論文が掲載された。このほかに3本の書評論文が掲載された。また、吉沢誠一郎監修『論点・東洋史――アジア・アフリカへの問い158』ミネルヴァ書房、Shigaru Akita et al. (ed.) Changing Dynamics andMechanisms of Maritime Asia in Comparative Perspectives (Springer)に寄稿をした。
2021年度活動報告(現在までの進捗状況)
本年度は、引き続き海外調査ができなかったが、その分、手持ちの資料の分析と成果報告にエフォートを振り分けることで、予定していたよりも多くの成果を公表できた。口頭報告などでは、次年度以降の課題を得ることができ、全体的に見れば、「(2)おおむね順調に進展している」と評価できる。
2020年度活動報告(研究実績の概要)
本年度は予定していた海外調査が実施できなかった一方で、資料の整理と分析に時間をかけることができた。また、現地での資料収集に変え、オンラインで公開されている資料の収集も手掛けた。本年度の研究実績は以下のとおりである。
5月には第88回大阪大学グローバルヒストリーセミナーで「世界史的共通体験としての奴隷廃止―解放されない人びと―」を報告し、7月にはみんぱく特別研究「グローバル地域研究と地球社会の認知地図―わたしたちはいかに世界を共創するのか?」第4回研究会/現代中東地域研究レクチャーシリーズ第24回レクチャーで「19世紀後半から20世紀前半のペルシア湾における真珠採取業と拘束、奴隷制」を報告した。11月には第38回 比較文明学会大会で「生き物とグローバルヒストリー―世界商品化する真珠とペルシア湾の採取者たち―」を報告した。
また、10月には東京大学出版会より『解放しない人びと,解放されない人びと―奴隷廃止の世界史』を刊行し、2021年1月には「貝殻に雨粒が宿れば。―20世紀前半、世界商品化する真珠とペルシア湾の採集者たち―」を『季刊民族学』で発表した。
2020年度活動報告(現在までの進捗状況)
海外調査を実施できなかったことは大きな痛手であったが、その分、資料の整理と分析とを前倒しにして実施した。また、これに伴い、口頭発表や印刷媒体での業績も上げることができた。それらを総合すれば、「(2)おおむね順調に進展している」の評価が妥当に思われる。