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仏教モダニズムの遺産: アナガーリカ・ダルマパーラとナショナリズム (2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究成果公開促進費(学術図書)

代表者 杉本良男

目的・内容

本書は、スリランカ(セイロン)の近代主義的仏教改革家アナガーリカ・ダルマパーラ(1864-1933)が主導した仏教モダニズムを取り上げ、①その詳細について、さらに②ダルマパーラ没後のスリランカにおいてどのような展開を見せたのかについて検討する人類学的、系譜学的研究である。本書は、ダルマパーラによるプロテ スタント的な改革仏教が、民族的ナショナリズムと表裏一体となってスリランカの近代史にどのような影響を及ぼしたのかを詳細かつ総合的に検討することで、1980年代以降のシンハラ仏教ナショナリズムの暴力的な展開の根源的な要因を明らかにすることを目的としている。この研究は、スリランカにおける事例研究であるが、植民地支配下のエリートが、ヨーロッパ的な教育をうけた結果、ナショナリストになるという根本的な矛盾を抱えながら、自らの宗教、社会の近代主義的な再編をめざしたが、意図せざる結果として宗教の暴力性を引きださざるを得なかった悲哀について検討する。それにより、植民地エリートの限界を指摘するとともに、終章ではアマルティア・センにならって、単一アイデンティティ意識の持つ危険性にまで論を進め、ひろく宗教と暴力の問題について考察する。本書は序章と結論をふくむ二部構成、全8章から成っている。序章では、本研究の枠組みを呈示する。第一部は5章から成り、アナガーリカ・ダルマパーラ研究である。第二部は3章から成り、ダルマパーラ以後のシンハラ・ナショナリズムの研究である。結論では、アマルティア・センのアイデンティティの暴力の議論を援用しながら、宗教の持つ本源的な暴力性について指摘する。