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明治時代以降の国内各地の島々における移住者の社会の形成と祭や芸能の伝承の研究(2021-2024)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)

笹原亮二

目的・内容

研究の概要

日本列島の周辺には、日本の社会が政治・経済・文化といった様々な面で「近代化」という大きな変化を余儀なくされた明治時代以降、国家主導の開拓、資本家の水産業や農業等の経営拡大、自然災害の被災者の生活再建のための入植等を目的として、それまでみられなかった形の移住が行われるようになった島々が存在する。本研究では、北海道周辺の島々・小笠原諸島・大東諸島・種子島等、そうした島々における、明治時代以降の移住者の新たな社会の形成やその後の維持や存続と、そうした社会を基盤に営まれた移住者の民俗文化としての祭や芸能の創始や伝承について、具体的な様相の解明を試みる。

研究の目的

本州・四国・九州・北海道の周辺には規模や立地の異なる多くの島々が存在する。それらの島々には様々な経緯で人々が住み着き、生活を営み、様々な社会を形成し、様々な祭や芸能を創始し伝えてきた。特に、日本が政治・経済・文化等、様々な面で「近代化」という大きな変革を余儀なくされた明治時代以降、北海道周辺の島々・小笠原諸島・大東諸島等、従来無人あるいは少数の人々が住むのみであった島々に、国家主導の開拓、大規模な自然災害の被災者の生活再建、資本家による水産業や農業等の経営拡大等を目的に、同郷者・家族・個人等、様々な形で人々が島に渡って定住するという、従来みられなかった形の移住が行われるようになった。本研究では、明治時代以降のこうした島々への人々の移住に注目し、移住者による新たな島の社会の形成やその後の維持や存続と、そうした社会を基盤に営まれた民俗文化としての祭や芸能の創始や伝承の様相について解明を試みる。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

令和4年度も新型コロナウイルス感染症が収束しなかったため、本研究の対象となる北海道周辺の島々・大東諸島・小笠原諸島・種子島について、それぞれの地域が属する都道県の図書館・資料館等での資料調査や現地調査を行うことができなかった。そこで、これまで収集した全国各地の島々に関する文献や近隣の図書館が所蔵する図書、各地の図書館から取り寄せた文献や図書等をもとに、それぞれの地域における明治~戦後の他地域からの人々の移住・定住と地域社会の形成の様相について、特に卓越した経済力や権力や権威をもってそれらの地域の開拓とその後の経営を主導した資本家や国家等の動向と地域社会との関係に焦点を当てて、具体的な把握を試みた。その結果、北海道周辺の島々においては、商人や資本家が営む鰊漁への出稼ぎに一元的に依存して生計を立てる人々の移住・定住によって、大東諸島では特定の個人や企業が経営する甘蔗のプランテーションや燐鉱採掘で働く労働者の移住・定住によって、小笠原諸島では世界各地を出自とする人々の居住地に対する日本の占領の一環としての人々の移住・定住によって、それぞれの地域社会の形成が進行した。従って各地では、資本家や国家等の開拓・経営の主体の盛衰に多大な影響を受けざるをえなかったことに加え、食料の自給率が低かったこと等の理由から、一定の自立性を有する地域社会を形成し、安定的に維持することが困難であったという共通点が窺えた。一方種子島はやや異なり、被災者の同島への集団移住を主導・斡旋したのは県当局であったが、移住先の開拓や経営は移住した人々によって主体的に行われていた。種子島が他の地域に比べ、一定の自立性を有した地域社会が形成され、その後も比較的安定的に維持されたことや、移住元と関わりが深い芸能や祭の伝承が比較的多くみられたことは、両者の移住・定住と地域社会の形成の経緯の違いが影響している可能性が看取できた。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

令和4年度は、新型コロナウイルス感染症の流行が収束しなかったため、本研究が対象とする北海道周辺の島々・東京都小笠原諸島・鹿児島県種子島・沖縄県大東諸島等について、予定していたそれらの地域の都道府県の図書館・資料館等における文献や映像等の資料調査、各々の地域における現地調査や様々な情報収集等を行うことができなかった。そこで、これまで行った全国各地の島々に関する調査で収集した、本調査に関連する先行研究や調査報告等の文献資料、近隣の図書館が所蔵する関連図書や文献、各地の図書館から取り寄せた関連図書や文献等をもとに、それぞれの地域における明治~戦後の人々の移住・定住と地域社会の形成の様相について、それらの地域の開拓と経営を主導した資本家や国家等の動向との関係に焦点を当てて把握を試みた。しかし、既収集の文献資料や近隣の図書館等には、それぞれの地域に関する地方史(誌)類や民俗誌等の基本図書、地域の民俗学や歴史学の研究団体の機関誌、地域の博物館や資料館等の研究機関の研究誌等の資料の所在は十分ではなく、また、関連図書や文献の取り寄せも、現地の図書館・資料館等での調査・閲覧に比べて必要な資料の収集は限定的にならざるを得ず、その結果、それぞれの地域の移住・定住や地域社会の形成の様相に関する把握は大枠の把握に止まることを余儀なくされた。従って、今後、これまで十分には行えなかったそれぞれの地域の図書館・資料館等における関連図書や文献等の資料調査を積極的に進めるとともに、それぞれの地域の島々における現地調査を並行して実施して十分な量の各種の関連情報を収集し、それぞれの地域の移住・定住や地域社会の形成の様相の理解や把握の深化・充実を急ぐ必要があるという課題が残された。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

令和3年度は、新型コロナウイルス感染症が収束しなかったため、本研究が主たる対象とする北海道周辺の島々・小笠原諸島・種子島・大東諸島について、予定していた各々の地域が属する都道県立の図書館・資料館等での資料調査や予備的な現地調査を行うことができなかった。そこで、これまで行った全国各地の島々に関する調査で収集した、本調査に関連する先行研究等の文献資料や、所属する国立民族学博物館所蔵の図書等をもとに、それぞれの地域における明治以降の人々の移住と地域社会の形成、祭と芸能の創始・伝承の様相の概括的な把握を試みた。その結果、何れの地域においても、明治の早い時期から出稼ぎ等の移住が始まり、明治後期から大正にかけて移住者の定住が進んで地域社会が形成されたこと、移住先での生活の困難の克服のための精神的支柱として、移住後早い時期に社寺等の宗教施設が建立されたこと、それらの宗教施設を中心に、祭やそれに伴う芸能や余興が催され、人々が日々の生活を営むための活力や地域社会としての一体感の醸成が図られたこと、祭や芸能や余興としては、神輿の渡御・歌舞伎芝居・相撲がよくみられたこと等の特徴が共通して認められることが判明した。その一方で、それぞれの出身地の生活文化を身に付けた移住者が移住先で生活を始めた結果、祭や芸能の内容には、そうした共通性の一方で、北海道における北陸由来の獅子舞や東北由来の漁撈の労働歌、小笠原諸島におけるサイパン等の太平洋地域由来の南洋踊、種子島における甑島由来のトシイドンや沖縄・奄美群島由来の歌や踊、大東諸島における八丈島由来の八丈太鼓やショメ節等、地域独自のものもみられた。また、こうした祭や芸能も、出身地が異なる移住者が世代を経て地域社会の成員としての一体化が進むに連れて、出身地を問わず地域社会の人々が等しく共有する文化として認識され、実践されるようになる傾向が何れの地域でも見られた。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

令和3年度は、新型コロナウイルス感染症の流行が収束しなかったため、本研究が主たる対象とする北海道周辺の島々・東京都小笠原諸島・鹿児島県種子島・沖縄県大東諸島等について、本年度予定していた、各々の地域が所在する都道県立の図書館・資料館等における文献や映像等の資料調査、予備的な現地調査、各々の地域に関する研究実績を有する研究者等からの情報収集を行うことができなかった。そこで、これまで行った全国各地の島々に関する調査で収集した、本調査に関連する先行研究や調査報告等の文献資料や、研究代表者が所属する国立民族学博物館所蔵の図書等をもとに、それぞれの地域における明治以降の人々の移住と地域社会の形成や、祭と芸能の創始や伝承の様相の概括的な把握を試みた。しかし、既収集の文献資料にも国立民族学博物館所蔵の図書にも、それぞれの地域に関する地方史(誌)類や民俗誌等の基本図書、地域の民俗学や歴史学の研究団体の機関誌、地域の博物館や資料館等の研究機関の研究誌といった資料の所在は十分ではなく、それぞれの地域の様相に関する理解や把握は、ごく概括的な内容に止まらざるを得なかった。その結果、今後、令和3同年度に果たせなかった、各々の地域が所在する道県立図書館・資料館等における文献等の資料調査や情報収集によって、各々の地域の様相の理解や把握を深化・充実させるという課題が残された。