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伝承のかたちに「触れる」プロジェクト——「3Dプリント×伝統素材・技法」のアプローチから

研究期間:2021.10-2024.3

代表者 宮坂慎司

キーワード

デジタルファブリケーション、伝統素材・技法、触れる博物館資料

目的

本研究は、デジタルファブリケーションの活用によって、伝承のかたちを立体に起こし、その造形的な特質や内在する美に迫りながら、民族文化の新たな探究を行うものである。3D出力に際しては、デジタル技術と伝統的な素材・技法との融合によって、既存の触察教材の枠を越えた展示物を試作し、博物館の教育・学習プログラムにも資する立体資料の作成方法の確立を試みる。
かたちを起こす対象としては、立体資料に乏しい図像や空想上の存在を想定しており、アボリジニの樹皮画に描かれた精霊や、日本各地に伝承する妖怪をターゲットとする。加えて、アイヌの鶴の舞など、時間で移ろうかたちに対しても、立体化の可能性を模索する。「3Dプリント×伝統素材・技法」による触れられる展示物は、視覚に障害のある人をはじめ、晴眼者にとっても資料への理解を深める助けとなり、博物館リソースの価値向上につながると期待できる。具体的な成果物の展示を通して、より開かれたミュージアム像を提起することも本研究の目的となる。

2022年度

2022年度、本研究では下記 a〜d に取り組むことを計画している。
a. アボリジニの樹皮画や北西海岸インディアンによるシルクスクリーンについて、図像の専門家を交えながら、その造形的特質について考察する。また、当該文化圏における立体作品との関連性を探究し、平面図像描画の際の造形思考について検証する。
b. アナログによる造形を起点とする3Dモデル化の手法にについて、研究会を開催する。平面である図案を立体データとして、破綻なく、且つ元資料の造形観に則って拡張するための指針を検討する。
c. 選定した資料について、3Dデータ作成を試みる。また、試行的に3D出力し、木質3Dプリントによる造形物と乾漆技法の親和性を検討する。
d. 試作した3Dデータの妥当性や、必要となる出力精度及びフィラメントの種類などの3D出力方法を検討する。「触れる」学びと鑑賞を想定した表層の仕上げについても検討し、触察実践の計画案を作成する。

【館内研究員】 廣瀬浩二郎
【館外研究員】 厚見慶、江村忠彦、川島史也、McLeodGaryRoderick、武本大志、中䑓久和巨、半田こづえ、柳生忠平
研究会
2022年7月10日(日)10:00~16:00(国立民族学博物館 第3演習室 ウェブ開催併用)
厚見慶(筑波大学)「絵画資料の立体化に関する実践例とその考察」
武本大志(東京福祉大学)「木質3Dプリント×漆による造形」
全員:全体討議「触れる資料理解のための段階的アプローチ」
資料・画像の閲覧


2021年度

上記①〜③の達成にむけて、本研究では下記 a〜i に取り組むことを計画している。
a. 国立民族学博物館所蔵の研究資料を実見し、本研究において3D出力を試みる資料の選定する。選定を行うにあたっては造形面や出力した際の資料的価値、波及性を検討し、研究会を開催した上で指針策定について議論を行う。[2021年秋・冬]
b. フォトグラメトリーの専門家を特別講師として招き、3Dモデル化の手法に関する研究会を開催する。その上で、平面である図案を立体データとして、破綻なく且つ元資料の造形観に則って拡張するための指針を検討する。[2022年春]
c. 選定した資料について、3Dデータ作成を試みる。[2022年春〜夏]
d. 研究会を開催し、試作した3Dデータの妥当性や、必要となる出力精度及びフィラメントの種類などの3D出力方法を検討する。「触れる」学びと鑑賞を想定した表層の仕上げについても検討し、触察実践の計画案を作成する。[2022年秋]
e. 3Dプリントにより成形した内型に乾漆技法による造形を行う。また、3Dプリント出力による外型から手作業で内型制作を行う方法も試行し、比較研究を行う。[2022年冬・2023年春〜夏]
f. 元資料における伝承の図像から立体を起こすプロセスを検証し、その造形的特質について考察する研究会を開催する。[2023年夏]
g. 乾漆造形・研究の専門家を招いた研究会を行い、「3Dプリント×伝統素材・技法」による造形の可能性についてシンポジウムを開催する。[2023年秋]
h. 成果物の展示を関係のギャラリースペースで行う。展示に際しては、視覚に障害のある人に向けたタッチツアーや視覚特別支援学校と連携した教育プログラムを実施する。[2023年秋・冬]
i. 研究成果を検証し、ミュージアム・リソースについて検討する研究会を行う。[2024年春]
以上のように、国立民族学博物館所蔵資料を基に、「3Dプリント×伝統素材・技法」のアプローチから実制作の試行を繰り返し、伝承のかたちの造形性を探究するとともに、ミュージアム・アクセシビリティ向上も見据えた実施計画とする。

【館内研究員】 廣瀬浩二郎
【館外研究員】 厚見慶、江村忠彦、川島史也、McLeodGaryRoderick、武本大志、中䑓久和巨、半田こづえ
研究会
2022年2月10日(木)14:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室 ウェブ開催併用)
展示の観覧、資料・画像の閲覧
2022年2月11日(金・祝)13:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室 ウェブ開催併用)
趣旨説明・研究構想・テーマへのアプローチについて
宮坂慎司(筑波大学)「造形におけるデジタル技術の可能性とアナログの価値」
武本大志(東京福祉大学)「3Dスキャン・プリントによるかたち×漆による造形」
全員:全体討議
2022年3月28日(月) 17:00~19:00 (ウェブ開催)
宮坂慎司(筑波大学)「民族画の様式にみる造形思考」
半田こづえ(明治学院大学)「博物館資料における2Dから3Dの事例」
武本大志(東京福祉大学)「平面図像描画の試行的3D化」
全員:全体討議
研究成果

国立民族学博物館所蔵の民族絵画について、データベースを参照し、これまで触察資料が作成されてこなかった平面資料を広範に参照した上で、ターゲット候補となる資料を選出した(樹皮画(Australian Aborigines)、シルクスクリーン(Tsimshian))。また、視覚のみに依らない資料理解の方法としてアンテロス美術館(イタリア)の「手でみる絵画」の取組事例を確認し、既存の方法論と異なる触覚アプローチについて討議した。これを基に、視覚現象となる空間圧縮を行わない点や、オリジナルが有する線的な美をより直接的に感受するという点に重点を置き、「立体」と「tactileを有する平面」による2ステップを踏む触察・鑑賞の方針案策定を開始した。また、試行的な実践として、平面図像として描かれた妖怪の日本画を3Dに起こし、平面・立体の比較検討を行った。試みの結論として、視覚に障害のある鑑賞者にとって立体化された資料は像容の理解を助けるものの、平面におけるオリジナルの線的特質の受容には段階を踏む必要性が示唆された。併せて、資料の触れ心地や素材感も大きくその理解に関連することが確認できた。