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文化遺産的価値と会計的価値の衝突に関する博物館学と会計学との共同研究(2022-2026)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B)

出口正之

目的・内容

「人類共通の遺産を守る」という文化的な価値に関するグローバルな合意と、「効率性」「有効性」を明らかにして比較可能にするという「会計的な価値」に関するグローバルな流れが存在する。両者はほとんど交錯することがないが、博物館の資産評価の場においてその軋轢が顕在化する。そこで博物館学者と会計学者とによる【標本・資料交差調査法】によって、その軋轢の正体を明らかにすることを目的としている。
多くの会計学者は会計のことを「言語」との比喩をしばしば使用する。そのことを援用すれば、文化遺産を表現する「言語」と会計を表現する「言語」との関係を明らかにし、文化遺産の「保存の価値」=恒久性を加味して、現存する人類だけではなく将来の人類に対して表現していく文化遺産の「手段=会計上の言語」を作り上げることを目的としている。

活動内容

2023年度実施計画

昨年度に引き続き、研究会は積極的にオンラインを活用する。できるだけ多くの博物館を訪問し、<標本・会計資料交差調査法>の可能性を探る。昨年は会計・金融・貨幣などに関する博物館の情報を集めたが、この中で「モノを展示する博物館」ではなく「概念を展示する博物館」(例えば、信託博物館、金融博物館、保険博物館、数学博物館等)の存在も明らかになってきている。
リアルの研究会については以下の二点を計画。
公的博物館に関する監査委員制度が「効率性」の観点から評価されるため、「効率性」になじまない博物館において、問題であると指摘されることがある。この点について地方財政研究者をゲストに研究会を開催(5月)。
研究分担者がオーストラリアへ出張し、IFRSが適用された公立博物館に関する資産評価の研究を実施しているカーネギー教授と研究のすり合わせを実施する(8月)。
また、個別の資産評価については博物館側の公開に対する消極姿勢が強いものの、協力の申し出がある博物館を対象にリアルによる研究会を実施する(8月)。
海外との研究を促進するため、時差の少ないオーストラリア、ニュージーランドにおける博物館と会計の問題についてオンライン研究会を実施する(3月)。

2022年度実施計画

研究チーム内の研究会を原則としてオンラインを活用することで、10回程度の開催を予定している。また、博物館法が改正になり、企業設立の博物館でも登録博物館となりうるようになった。これは会計的に言えば、企業会計を使用した登録博物館が日本においても誕生することになり、会計基準の混在によって本プロジェクトにも多大な影響を与えるものと考える。そこで博物館と会計の接点を探る点からも、本年は三菱信託銀行信託博物館など国内の会計・金融・貨幣などに関する博物館(設置者が企業であることが多い)を訪問調査し、協力を依頼する。
なお、<標本・会計資料交差調査法>については、博物館学及び会計学者の日程が合う8月に非常に協力的な博物館に対して予備的に調査を実施する。
博物館において「寄贈された=購入価格のない収蔵品」を1いつの時点で(発生主義会計では博物館に所有権が移転した時点とするのが適正とされる)認識するのか? 2貨幣評価として認識するのか?するとしたらどのようにして価格を測定しているか。 3博物館としての標本資料としての認識時点と会計の認識時点は一致するのかしないのか? 4博物館としては標本資料としての認識と資産としての認識のどちらを優先しているのか? 5監査はどのように行われるのか? 7標本資料としての学術評価はどのように行われるのか? 6博物館としては資産評価と会計評価(監査)のどちらを重視しているのか? 7文化遺産評価と会計評価の軋轢をどのように感じているのかについての<標本・会計資料交差調査法>を確立させる。
また、研究分担者である五月女賢治が米国小規模博物館協会から表彰されるという本研究プロジェクトには大きな追い風が吹くことから、同協会にも本研究プロジェクトの協力を依頼する(6月)。