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アフリカの人びとはいかに「アフリカ史」を語ってきたか――アフリカのローカルな歴史からみた「アフリカ史学史」

研究期間:2023.10-2026.3

代表者 中尾世治

キーワード

アフリカ史、史学史、リテラシーと口承

目的

本研究の目的は、アフリカの人びとによる「アフリカ史」の語りを、ローカルな知とローカルを超えた知との交錯として捉え、アフリカの個別の歴史に埋め込まれたものとしての「アフリカ史」を明らかにすることにある。これまでのアフリカ史研究史は、主として、欧米のアカデミックな言説のなかでの理論の変遷として語られてきた。しかし、それらの言説もまた、アフリカの人びとによる口頭や文書による過去の知を基盤に成立してきた。ローカルに蓄積された口承の過去の知や地域を超えて流通した文書による知が、いかに「アフリカ史」の語りとして結実してきたのか。本研究では、この問いを、植民地統治以前と以後にまたがり、アフリカ内の西アフリカ、東アフリカ、南部アフリカの地域間の比較をおこないつつ、書記言語(英仏葡語、アラビア語、ズールー語)の歴史叙述の伝統の差異に着目して検討する。これらの検討を通して、「アフリカ」という地理的概念を含む過去の語りにおける主体の位置づけ方といった、アフリカを超えた歴史人類学的な理論的な課題を探求する。

2024年度

2024年度には研究会を4回(6月、9月、11月、3月)に実施予定である。これらの研究会においては、歴史叙述と紛争、アラビア語年代記と口頭伝承、環大西洋のアフリカ史叙述の流通、ローカル新聞と歴史知識の生産と流通などのアフリカ史学史の核となる問題系を取り扱う研究会を実施する。また、これらの個別のトピックを貫く歴史叙述の問題系の理論的な課題について代表者が発表をおこなう予定である。具体的には、歴史ではなく、歴史叙述を研究対象とする問題設定それ自体が、史料を用いた特定の過去の事象の再構成とその分析ではなく、史料と史料の表象する事象の双方に対するメタ的な分析になることを基本的な立場とする。そのうえで、個別の事例は、(a)史料の性質と(b)史料の表象する事象のそれぞれにおいて、いくつかの共通する要素を、他の(すべてではなく)いくつかの事例と共有していることを明らかにしていく。

【館内研究員】 鈴木英明
【館外研究員】 石川博樹、堀内隆行、澤田望、中尾沙季子、上林朋広、楠和樹、末野孝典、小綿哲

2023年度

第1回研究会(2023年12月)「研究会の趣旨説明・自己紹介」(中尾世治)
第2回研究会(2024年3月)「(脱)植民地期の教科書における歴史叙述」
小綿章【仏領西アフリカ・フランス語】、上林朋広【南アフリカ・ズールー語】

【館内研究員】 鈴木英明
【館外研究員】 石川博樹、堀内隆行、澤田望、中尾沙季子、上林朋広、楠和樹、末野孝典、小綿哲
研究会
2023年12月16日(土)14:30~18:30(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
共催:「「情報提供者」からみたアフリカ史研究史:ローカルな知識人と研究者の邂逅と知の流通」
(日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究、研究代表者:中尾世治、 2023年4月 – 2026年3月)
 
中尾世治(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)・アフリカ史学史研究史と本共同研究の方向性について
メンバー各自の研究計画の構想発表と今後の発表のスケジュールの確定
2024年3月24日(日)14:30~18:30(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
上林朋広(甲南大学文学部)
「声を文字で書くこと:20世紀前半ズールー語歴史叙述における本当らしさ」
質疑応答
小綿哲(京都大学大学院文学研究科博士後期課程)
「植民地で歴史を教える:仏領西アフリカの歴史教科書に見る植民地支配とアフリカ史」
質疑応答
次年度以降のスケジュールの確認と調整
研究成果

第一回研究では、アフリカ史をめぐる一般的な背景と、アフリカ史学史研究の先行研究の流れを確認し、新たな歴史叙述のために、アフリカ史学史研究の必要性を共有した。具体的には、アフリカ史の脱植民地化が近年、あらためて主張されるなかで、脱植民地期のアフリカ史研究がどのようなものであったのかを明らかにする研究があらわれていることを確認した。そのうえで、アフリカについての(同時代的叙述を含む)歴史叙述とその力学の関係を明らかにするという方向性を確認した。第二回研究会では、20世紀半ばの南アフリカにおける歴史作文コンテストとアフリカの知識人による「歴史小説」を題材として、過去についての口頭の知が文書の知と混ざり合いながら成立してきたことを明らかにした。また、20世紀初頭の仏領西アフリカのドラフォスによる歴史叙述と歴史教科書の関連を詳細に検討し、西アフリカのアラビア語の年代記の歴史観がドラフォスを介して歴史教科書に反映されていった過程などが議論された。これらから、アフリカの人びとと植民者の歴史叙述の枠組みの(非)接合が共通した問題系をなすことが明らかになった。