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生理用品の受容によるケガレ観の変容に関する文化人類学的研究(2017-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)

新本万里子

◆ 2018年4月1日転入

目的・内容

本研究は、「トランスナショナリズム(Transnationalism)」を含む従来の移民研究における分析視点を補い、移民が出身先の家族や友人と関係を継続することや、出自の国家・民族を基盤として関係する側面だけでなく、移住先において、状況に応じて、移住先社会のマジョリティや他の移民と関係を構築することを明らかにする。具体的には、京都市・東九条地域において日本人、在日コリアン、さらにフィリピン人移住者が関係を構築する過程を焦点とする。これらの動向に注目することは、日本国内における、日本人と複数の出自の海外移住者が関係を形成する研究の前進となる。また、海外のフィリピン人移住者研究、在外コリアン研究にも発信し、フィリピン人移民、在外コリアンそれぞれが同胞以外の人びとと関係する過程に注目するという新しい視点を導入する。

活動内容

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本年度は、新型コロナ感染拡大による延長申請をして2年目の年度であった。本来であれば、最終年度として補足調査を実施し成果発表に努めたいところで
あったが、本年度も補足調査を実施することはできなかった。そのため、研究成果の発表に注力した。
研究成果の発信は、次のとおりである。2021年11月:国際開発学会第32回全国大会での研究発表(金沢大学:オンライン参加)。2022年1月:総合地球環境学研究所「第4回 女性のサニテーション研究会」への参加と研究発表(総合地球環境学研究所:オンライン参加)。2022年3月:第39回日本オセアニア学会研究大会での研究発表(オンライン開催)。2022年3月:82nd Annual Meeting of the Society for Applied Anthropologyでの研究発表(Salt Lake City, UT:オンラ
イン参加)。これらを通して、月経対処の変化を、社会による女性の生殖力の管理とその変化という観点から捉えることができると考えている。
なお、2022年6月刊行予定の共編著の編集を進めている。研究実施計画では、世界各地の月経対処の比較研究を行うことを最終的な目的としている。現在、月経は国際開発の対象となり、途上国には月経衛生対処という開発支援の波が押し寄せている。また、先進国でも「生理の貧困」という社会的課題が話題となっている状況にある。共編著の出版によって、比較研究の目標を達成したいと考えている。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究成果の発表は進めているが、補足調査を実施できないまま本年度を終えることとなった。これまで収集した資料の整理から、補足調査は必要だと考えている。補足調査が実施できていないという現状から、進捗状況の区分を選択した。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、本来ならば昨年度が最終年度であったが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、期間を延長して今年度の実施となった。今年度は研究のとりまとめの年度として、パプアニューギニア東セピック州と東部高地州で補足調査を実施することを計画していたが、今年度も新型コロナウィルス感染拡大の影響により補足調査は実施できなかった。
研究成果の公表としては、応用人類学会(Society for Applied Anthropology, 81st Annual Meeting, March 22-27,2021)において口頭発表(ポスター発表)を行ったほか、論文(「パプアニューギニアにおける月経の禁忌の実践とジェンダー・カテゴリー間の関係の変化――保健教育を受けた世代のサゴヤシ澱粉抽出作業をめぐって」越智郁乃・関恒樹・長坂格・松井生子編『グローバリゼーションとつながりの人類学』七月社 2021年3月)として発表した。
本研究の目的として、最終的には、生理的現象を忌避する世界の他の事例と比較し、生理用品の流入という同時代性から、月経のケガレ観の変容の比較研究へ昇華することを目指している。本研究ともう一つの科研研究(代表:大阪大学・杉田映理「グローバルなアジェンダとなった月経のローカルな状況の比較研究」2017年度-2019年度)に関連する研究会として、今年度10月より国立民族学博物館において共同研究「月経をめぐる国際開発の影響の比較研究――ジェンダーおよび医療化の視点から」を開始している。その研究会メンバーとともに、比較研究の議論を始めている。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

最終年度の補足調査は実施できていないが、成果として、国際学会での研究発表、論文発表などを行っている。また、本研究の最終的な目的として世界各地の事例との比較研究を目指していたが、今年度は共同研究という場を得て、世界各地をフィールドとする他の研究者とともに議論を開始している。本研究を再延長し来年度も継続することとしたが、さらなる成果発表へつなげていきたい。

2019年度活動報告

2019年度は、研究のとりまとめの年度として、補足調査を行うことと研究成果の公表を行うことを計画していた。
補足調査は、2020年3月にパプアニューギニアの東セピック州と東部高地州で実施することを計画していたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のために渡航が難しくなり、次年度に持ち越した。
研究成果の公表としては、サゴヤシ学会第28回講演会(2019年5月 於:立教大学)、日本文化人類学会第53回研究大会(2019年6月 於:東北大学)、国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会(2019年11月 於:東京大学)において口頭発表を行った。このうち、サゴヤシ学会第28回講演会での口頭発表は、サゴヤシ学会第28回講演会優秀発表賞を受賞した。また、日本文化人類学会第53回研究大会での口頭発表は、分科会「グローバル化時代に月経はどう観られるのか―ケガレ・禁忌・羞恥」での発表であり、この分科会メンバーと共に、次年度以降の研究を計画し、書籍の出版も予定している。国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会での口頭発表の内容は、国際開発学会の学会誌『国際開発学会』28(2)に、論文「パプアニューギニアにおける月経衛生対処に関わる教育と女子生徒たちの実践―月経のケガレと羞恥心をめぐって―」として掲載された。
この他、研究成果の公表として、2019年度は国際学会での発表と書籍出版の準備も計画していたが、いずれも次年度に持ち越しとなった。

2018年度活動報告

本研究は、生理用品の受容による月経のケガレ観の変容を、ジェンダーの視点から文化人類学的に考察することを目的としている。
平成30年度は、パプアニューギニアの農村部と都市部において、生理用品へのアクセスと学校教育の影響、NGOによる衛生指導に関する調査を行った。また、首都ポートモレスビーでは、生理用品のほか、生理用品の宣伝媒体となっている雑誌、新聞、薬局のチラシ、ポースター等を収集した。平成30年度の研究実施計画では、生理用品を供給する企業によるイメージ戦略についても研究する予定だったが、調査の結果、パプアニューギニア国内で販売されている生理用品は、現在のところすべて輸入品であり、輸入品を販売している業者による販売活動において、生理用品に関するイメージ戦略には力が入れられてはいないと考えられた。また、農村部では雑誌等が流通していないこともあり、月経にまつわる文化的側面への影響は、現時点では、宣伝活動による企業のイメージ戦略よりも、むしろ実質的な生理用品の流通や、学校とNGOによる衛生教育が関わっていると考えられた。日本など先進国では、企業によるイメージ戦略が月経にまつわるイメージの転換に果たした役割が大きかったことと比べると、月経にまつわる慣習に影響を及ぼす要因の違いとして比較しうる資料となったと考えられる。東セピック州の調査地については月経にまつわる既存の社会的慣習についての調査をほぼ終えており、生理用品が普及し衛生教育が行われているという現在的な状況のもとでの、月経をめぐる女性たちの対応を明らかにできると考えられる。

2017年度活動計画

当該年度、本研究では、京都市・東九条地域を集住地域とする在日コリアン、日本人、フィリピン人移住者の関係に焦点を当て、研究計画調書において示した3つの過程のうち1つを重点的に明らかにする。(1)多文化交流 サロンに集まるフィリピン人たちの同施設内での活動と地域の人びとと関係する過程である。
特に、当該地域におけるフィリピン人グループや集まる個人たちを対象の中心とし、「東九条マダン」、フィリピン人信徒KYOTO NANBUグループなどと関わる日本人、在日コリアンも調査の視野に入れることとする。調査はフィールドワークと参与観察、社会関係構築過程を理解するためのインタビューなどを活用し、実施する。
そして、調査で得られた情報の一部は京都市・東九条地域にも還元する。調査については、主に研究代表者が行う。但し、いくつかの参与観察についてはベル裕紀氏を研究協力者として協働して実施する。さらに、「東九条地域研究会」を実施する。研究会では、京都市・東九条地域を専門としている社会学者である山口健一氏(福山市立大学教員)、山本崇記氏(静岡大学教員)を招聘し、フィールドデータを民族誌とするため、助言をうける機会とする。行程は次のとおりである。
4月(多文化交流サロンなど関係グループと調査実施過程、注意事項などの打ち合わせ、多文化交流サロン春まつりへの参与観察)、5~12月(多文化交流サロンでのフィリピン人が参加する企画での参与観察)、8月(多文化交流サロン夏まつりへの参与観察)、7~12月(11月上旬に開催予定である東九条マダンの実行委員会活動合計8回への参与観察)、12月(クリスマス前後の活動KYOTO NANBUグループ参与観察、多文化交流サロンに関する中間報告を日本移民学会の冬季大会において報告)、1月(多文化交流サロン、フィリピン人活動参加主要メンバーにインタビュー調査)、2月(多文化交流サロン所長M氏、職員U氏へのインタビュー調査)、3月(データの整理、多文化交流サロン・ニュースレターにてフィリピン人利用者の活動紹介、東九条地域関係研究会を開催し、多文化交流サロンに関して報告)