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触察の方法論の体系化と視覚障害者の野外空間のイメージ形成に関する研究(2018-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)

広瀬浩二郎

目的・内容

多分野で障害者に対する「合理的配慮」のあり方の議論が始まり,障害者と健常者がともに楽しみや価値を享受できる機会の確保が求められている。とくに,視覚障害者にとっては“触る”は外界把握の方法として重要であり,触るとは何か,どのように触ると効果的なのか,触察後の延長線上にどのような空間のイメージが形成されるか,こうした問いに答える研究が必要である。本研究では,①モノの形状,大きさ,素材の質感が視覚障害者の印象,意識に及ぼす影響を通時的に明らかにし,触察の方法論を体系的に整理すること,②体系化された触察の方法論を野外に適用し,語りを交えて空間イメージの形成について検討,考察すること,の2点を目的とする。方法としては,屋内外におけるワークショップと研究会を開催し,視覚障害者と晴眼者の両者の行動記録,意識との関係性分析を行う。また,1年という時間軸でモノや空間のイメージの持続性についても検討する。

活動内容

2021年度活動報告(研究実績の概要)

2021年度の最大の成果は、国立民族学博物館の特別展「ユニバーサル・ミュージアム」(9月2日~11月30日)を開催したことである。研究代表者の広瀬は実行委員長、研究分担者の山本は実行委員として、本展の企画に関わった。コロナ禍のため、20~21年度に計画していた野外でのワークショップ、実証実験ができなかったのは残念だが、延長分を含め、4年間の本プロジェクトの研究成果は、特別展で十分に公開できたと考えている。特別展が本プロジェクトの趣旨を深化させる場になったのは間違いない。
特別展のセクション2「風景にさわる」では、広瀬と山本が中心となって実施した信楽での陶芸制作・まちあるきワークショップの成果物を展示することができた。また、広瀬編の特別展図録には、広瀬が論文二つとコラム一つ、山本が論文一つを寄稿している。本図録は、日本におけるユニバーサル・ミュージアム研究の基本文献として、各方面での活用が期待される。
視覚障害者を交えた野外活動としては、21年11月3日に「Love Stone Project」(石磨き体験)のワークショップを行なった。本ワークショップの準備、資料運搬のため、科研費を使用した。当日は100名以上の来館者が集まり、障害の有無に関係なく、すべての参加者が石の触感の変化を楽しんだ。本ワークショップの概要は、「空間イメージ形成」の要素も加味し、広瀬が著書で報告する予定である。
21年12月18日には特別展、および科研プロジェクトの締め括りという位置づけで、「国立民族学博物館友の会」講演会に広瀬と山本が登壇した。広瀬が特別展の総括をした後、山本が視覚障害者の触察行為に関するこれまでの研究を整理し、さらにコロナ後の展望を述べた。本プロジェクトにおいて、野外活動の実証実験が不十分だったのは確かだが、来年度以降、新プロジェクトを立ち上げて継続的に取り組んでいく所存である。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

2020年度はコロナ禍のため、計画していた研究会、ワークショップが開催できなかった。また、3年間の研究成果を公表する場と位置づけ、準備を進めてきた国立民族学博物館の特別展も1年の会期延期が決まった。
本研究プロジェクトを遂行するためには、野外での実地調査が不可欠だが、1年間を通して、調査実施が困難な状況だった。そのため、プロジェクト最終年度の研究は2021年度に延期することとし、延長申請を行なった。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

2020年度は過去2年間の研究活動を総括し、国立民族学博物館の特別展を活用して、さまざまな形で研究成果を公開する予定を立てていた。コロナ禍のため、この特別展が1年延期されることになり、本プロジェクトもそれに合わせて延長するのが適当だと判断した。2021年の秋に開催される特別展と本研究プロジェクトの連携について、引き続き可能性を探っていきたい。

2019年度活動報告

2019年7月に滋賀県・信楽において「射真」ワークショップを実施した。「射真」とは、視覚以外の感覚を用いて体験を記録する手法であり、今回は粘土による型取り(フロッタージュ)で作品制作に取り組んだ。午前中にまちあるきを行い、その印象を元に午後に「射真」作品を制作した。参加者は40名余で、そのうち7名が視覚障害者である。今回も、視覚障害者の触察シーンを中心に、まちあるきの様子をビデオ撮影した。
本ワークショップの内容、成果については、19年11月に開催された国立民族学博物館の公開シンポジウム「日本におけるユニバーサル・ミュージアムの現状と課題」で、研究分担者の山本が報告した。また、ワークショップ参加者が制作した「射真」作品は、21年秋に開催される国立民族学博物館の特別展「ユニバーサル・ミュージアム」において展示する予定である。特別展の図録でも、このワークショップの概要を紹介する準備を進めている。
20年3月には、東京・人形町周辺でまちあるきワークショップを実施した。参加者は30名余で、視覚障害者の参加は6名だった。東京では粘土ではなく、紙を用いるフロッタージュに挑戦した。まちあるきワークショップは、視覚障害者の空間イメージの形成、および触察行動を分析する本プロジェクトの研究を進める上で、きわめて有効な手段である。20年度も引き続き、まちあるきと作品制作を組み合わせるワークショップを企画・実施したい。
20年3月には、上記二つのワークショップの成果を踏まえ、研究代表者の廣瀬が米国のミシガン大学、ミシガン州立大学において研究発表した。視覚障害教育の専門家、および博物館学関係の研究者・学生と交流できたのは、プロジェクトの最終年度に向けて刺激となった。

2018年度活動報告

1.2018年7月に信楽(滋賀県)の「陶芸の森」にて美術作品の鑑賞・制作に関するワークショップを実施した。
2.このワークショップの際、視覚障害のある参加者の触察行動をビデオ撮影し、インタビュー調査も行なった。
3.2019年3月に開催された国立民族学博物館の共同研究プロジェクト「『障害』概念の再検討」の研究会(於江戸東京博物館)にて、上記ワークショップの成果と今後の課題を整理し、研究分担者の山本が報告した。