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非欧米圏ポピュラー音楽の実践に見る新たな文化動態

研究期間:2024.10-2027.3

代表者 櫻間瑞希

キーワード

ポピュラー音楽、文化動態、周縁

目的

ローカルな場で生成され、かつグローバルな文化とも接続するポピュラー音楽とその実践は、現代世界の文化的諸力の交錯する場として立ちあらわれる。本研究は、なかでも《非欧米》におけるポピュラー音楽の実践例を通じて、現代の文化動態の様相を解明することを大きな目的とする。
《非欧米》における音楽実践は、政治や言語の制約などにより看過されてきた側面が少なくない。そのなかでも急激な体制転換を経てグローバルな文化との接続が本格化した旧社会主義圏は、現代における文化動態のありようを検討するにあたり格好の事例となりうるのではないか。
また、さまざまな通信技術が発展・普及しつつある今日において、これまでに自明視されてきた一方的な流行伝播の前提と、《欧米》と《非欧米》のような二項対立的な地域区分は、現代の文化動態を議論するにあたって妥当なのだろうか。これについても各地の音楽実践例を通じて検討してみたい。
本研究ではまず、《非欧米》圏のなかでも、社会主義体制を経験した国や地域を中心に新興の音楽ジャンルの受容と発展を分析し、歌詞を含む諸表現を通じて描き出される現実と社会への影響を考察する。さらに、社会主義体制を経験しなかった《非欧米》圏の事例との比較により、《非欧米》におけるポピュラー音楽の展開を複眼的に捉える。
以上の観点から、本研究では人類学の手法を援用しつつ、社会学や文化研究などの隣接分野のほか、実践者の知見をも取り入れながら、音楽実践のありかたと欧米/非欧米という地域区分の妥当性の検討を通じて、現代の文化動態の解明を目指す。

2025年度

2年目となる2025年度は、初年度の議論を発展させつつ、より広範な地域的・理論的視座から検討を重ねる。また、バルカン地域、香港を中心とする中華圏、およびカメルーンを専門とする共同研究員を新たに迎え、ポピュラー音楽実践の多様性とその社会的・文化的意義をより立体的に捉えることを目指す。
年4回の開催を予定している研究会では、各地域の事例研究を詳細に検討するとともに、以下の3つの観点を手がかりに議論を深める。まず、①デジタル技術の普及が音楽実践にもたらした変容、そして、②マイノリティの声やアイデンティティの表現手段としての音楽の役割、さらに、③従来の「中心―周縁」モデルを超えた新たな文化創造の可能性である。社会主義体制を経験した地域と、そうでない地域との比較検討を通じて、政治体制や社会変動が音楽実践に与える影響について理論的考察を進めていきたい。

【館内研究員】 島村一平、平野智佳子、赤尾光春
【館外研究員】 神野知恵、金悠進、中野幸男、安保寛尚、村本茜、正山耕介、和田礼、佐藤剛裕、平井ナタリア恵美、岩谷彩子、矢野原佑史、小栗宏太
研究会
2025年5月24日(土)13:50~16:00(国立民族学博物館 大演習室)
櫻間瑞希(大阪大学)開会あいさつ・連絡事項伝達
正山耕介(軽刈田凡平)(学校法人上智学院職員)「ムンバイのヒップホップシーン裏話と変容するインドの音楽シーン」
2025年5月25日(日)10:30~12:30(国立民族学博物館 大演習室)
中野幸男(同志社大学)「ウクライナ戦争期のロシア・ヒップホップの沈黙──『辺境のラッパーたち』以後のロシア・ポップカルチャー見聞録 2022-2025」

2024年度

初年度となる2024年度は2回の研究会を開催する予定である。
第1回目は、本研究プロジェクトの趣旨と方針を構成員と確認・共有することに主眼を置く。各構成員が本研究に関連する事例等も含めて簡単に紹介することを通して、本研究の全体方針およびアプローチをあらためて検討する。また、基本概念の確認も兼ねて、それぞれのフィールドにおいて「ポピュラー音楽」がいかなるものとして捉えられているのか、構成員全体で議論する。第2回目以降は、毎回2〜3名がそれぞれ1時間程度の研究報告を行い、それをもとに議論を深める。
また、広く《非欧米圏》における音楽実践を検討するにあたり、現状の本研究構成員の担当地域にはやや不足がある。中国およびアフリカ地域については、若手研究者2名に次年度以降の参加を依頼する予定である。構成員を順次加えることによりプロジェクトの一貫性を保ちながら、若手研究者の育成およびネットワークの拡大を目指す。

【館内研究員】 島村一平、平野智佳子、赤尾光春
【館外研究員】 神野知恵、金悠進、中野幸男、安保寛尚、村本茜、正山耕介、和田礼、佐藤剛裕、平井ナタリア恵美
研究会
2024年12月6日(金)14:00〜16:30(国立民族学博物館 特別展会場 ウェブ開催併用)
講堂・特別展示場にて 公開研究会「『辺境のラッパーたち』は吟遊詩人か」
島村一平(国立民族学博物館):趣旨説明
『辺境のラッパーたち』執筆陣:討論
会場の参加者:質疑応答
クイザ,ダースレイダー,ハンガー:音楽実演
 
共催:NIHUグローバル地域研究事業東ユーラシア研究国立民族学博物館拠点(島村一平拠点長)
   特別展「吟遊詩人の世界」実行委員会
2024年12月7日(土)10:00〜12:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
大演習室にて キックオフミーティング「非欧米圏のポピュラー音楽の可能性」
櫻間瑞希(中央学院大学):本研究会の趣旨説明
共同研究メンバー間での討論
2025年2月22日(土)12:50~16:15(国立民族学博物館 第2演習室 ウェブ開催併用)
櫻間瑞希(中央学院大学):開会あいさつ
小栗宏太(東京外国語大学)「芸能・音楽雑誌に見る日本の「アジアン・ポップス」受容――香港広東語歌謡の事例を中心に」
村本茜(鹿児島大学大学院)「農民ヒバロとラッパーの共鳴――耕し続けるボリクア音楽」
2025年2月23日(日)10:30~12:00(国立民族学博物館 第2演習室 ウェブ開催併用)
佐藤剛裕(独立研究者)「西洋音楽史と民族音楽学の批判的再検討の試み」
研究成果

初年度は、さまざまな地域におけるポピュラー音楽実践に関する報告と議論を通じて、《非欧米》圏なる地域概念の再検討を試みた。12月に開催された公開研究会「『辺境のラッパーたち』は吟遊詩人か」では、多文化的視点から周縁の音楽創造性に光を当て、非西洋的要素と現代的表現の融合を考察した。モンゴル出身ラッパーの実演も含むこの取り組みは、社会的文脈における音楽実践とアイデンティティ形成の関係性への理解を深め、グローバル化時代における文化の再解釈と創造的実践の諸相を議論するうえでの下地となった。これをふまえたうえで開催された第2回研究会では、香港・広東語歌謡の日本での受容、プエルトリコのヒバロ文化とヒップホップの融合、西洋音楽史と民族音楽学の批判的再検討など、領域横断的な議論が展開された。非西洋的要素を持つ音楽の受容史、植民地主義への抵抗としての音楽実践、そして西洋中心主義的な音楽史観の相対化など、従来の音楽研究の枠組みを超える新たな視座を共有することができた。