日本人にとって鳥とは何か――鳥の文化誌をめぐるT字型学際共同研究
研究期間:2024.10-2027.3
代表者 卯田宗平
キーワード
日本列島、鳥の文化誌、T字型学際共同研究
目的
本研究の目的は、日本列島における鳥の文化誌(後述)に関わる事例を比較検討することで、日本的な鳥類利用の有無や特徴、その背景を明らかにするものである。
本研究で着目する鳥の文化誌とは、鳥に関わる生業や食文化、民俗芸能、宗教、絵画、造形といった人間の文化的活動の所産を捉える視点のことである。具体的には、本研究は学際共同研究として(1)鳥の利用や表象に関わる考古遺物や歴史資料、絵画史、食文化などの通時的な視点、(2)民俗芸能や宗教、生業、空想世界、アイヌや琉球における鳥の利用や表象に関わる現代的(共時的)な視点、(3)日本列島における鳥類相の実態や鳥類の骨格特性、家禽の導入と展開に関わる自然科学的な視点から得られる成果を総合して分析していく。この方法論は申請者が鵜飼文化の共同研究(2020-2023)を続けるなかで有効性を確認したものである。本研究でもこれら3つのアプローチをまとめて「T字型学際共同アプローチ」とよぶ。
以上の視点と方法を踏まえ、本研究では(1)メンバーとともに日本人と鳥との関係をめぐる歴史年表を作成するとともに、(2)個別研究の成果を踏まえながら鳥利用の時代的な連続性と不連続性、変化を促進する要因、種を超えた共通性と相違性、文化誌に取り込まれる/取り込まれない種の特性、家禽化の有無などを明らかにする。そのうえで、(3)他国の事例との対比も通して日本的な鳥類利用の有無やその特徴を問う。
2025年度
2025年度は、計3回の共同研究会を実施する予定である。第1回目と第2回目の研究会では、日本列島における鳥の利用を通時的な視点と共時的な視点から捉える予定である。通時的な視点に関しては、鳥の利用や表象に関わる考古遺物や歴史資料などを手がかりに、鳥と権力とのかかわりや食材としての利用の変遷、絵画や造形における表現方法の変化などを明らかにする研究を進める。共時的な視点に関しては、日本列島における民俗芸能のなかで表現される鳥の役割や形態、アイヌの方々と鳥とのかかわり、琉球における鳥の利用とその変遷、空想世界における鳥のイメージなどに関わる研究を進める。本年度の第3回目の研究会では、日本列島における鳥とのかかわりをまとめた歴史年表を作成し、鳥の利用や表象の変化を広く捉える。そして、鳥利用の時代的な連続性と不連続性、かかわりに変化が生じる要因を理解する。こうした作業を通して、過去の人びとによって利用されてきた鳥類の特徴とその時代的な変化についてメンバーとともに明らかにする。
【館内研究員】 | 齋藤玲子、山中由里子、菅瀬晶子、鈴木昂太 |
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【館外研究員】 | 江田真毅、賀来孝代、小川宏和、中澤克昭、菅豊、矢野晋吾、三戸信惠、比嘉理麻、久井貴世、上田恵介、川上和人、米澤隆弘、下坂玉起 |
2024年度
2024年度は計2回の研究会を実施する。まず、2024年12月に第1回目の研究会を開催し、代表者が本研究の趣旨と今後のプランを説明する。2025年2月に第2回目を開催し、それぞれの分野における研究の到達点と課題を発表し、メンバー全員で共有する。
【館内研究員】 | 齋藤玲子、山中由里子、菅瀬晶子、鈴木昂太 |
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【館外研究員】 | 江田真毅、賀来孝代、小川宏和、中澤克昭、菅豊、矢野晋吾、三戸信惠、比嘉理麻、久井貴世、上田恵介、川上和人、米澤隆弘、下坂玉起 |
研究会
- 2024年12月14日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ開催併用)
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「鳥と日本人」共同研究の趣旨説明(卯田宗平・国立民族学博物館)
共同研究メンバーの自己紹介
「鳥類にとって日本列島とは何か」(上田恵介・立教大学名誉教授)
- 2024年12月15日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ開催併用)
- 「なぜ野生のウミウにこだわるのか――鵜と鵜匠の1500年から」(卯田宗平・国立民族学博物館)
- 2025年2月8日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ開催併用)
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「縄文や弥生時代における鳥の利用」(江田真毅・北海道大学)
「日本列島への家禽の導入と展開」(米澤隆弘・広島大学)
- 2025年2月9日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ開催併用)
- 「日本におけるツルの利用とツル観の形成」(久井貴世・北海道大学)
研究成果
2024年度は計2回の研究会を実施した。第1回目の研究会では代表者である卯田(民博)が日本列島における鳥の文化誌に関わる問題意識と今後の研究方針を示した。具体的には、日本列島の人びとによる鳥の利用に関わる歴史的なアプローチ、民俗芸能や生業、物質文化を捉える共時的なアプローチ、鳥類の生態や分布、進化プロセスに関わる自然科学のアプローチという3つの切り口で鳥の文化誌(文化史)を捉えていくことをメンバーのなかで共有した。そののち、上田恵介氏(立教大学名誉教授)が「鳥類にとって日本列島とは何か」に関わる研究発表をおこない、列島に生息する鳥の種類や、季節的な変動、個体数減少の現状と要因などが明らかになった。第2回目の研究会では、江田真毅氏(北海道大学)が「縄文や弥生時代における鳥の利用」、米澤隆弘氏(広島大学)が「日本列島への家禽の導入と展開」、 久井貴世氏(北海道大学)が「日本におけるツルの利用とツル観の形成」に関わる研究発表をおこない、旧石器から縄文、弥生時代にいたる鳥類利用の変遷や日本に導入されたニワトリの品種改良のプロセス、日本人がツル(とくにタンチョウ)に託した想いとその変遷が明らかになった。今年度の研究会を通して、日本列島における鳥類分布の特徴や鳥利用の歴史的な変遷の一端をメンバー間で共有した。