知的境界領域における生態想像力の往還
研究期間:2024.10-2027.3
代表者 山中由里子
キーワード
生態想像力、文化交渉、想像界
目的
本研究は、自然環境と人間の間の往還的な関係性において発動される想像力を「生態想像力」という概念で捉えたエコクリティシズムの理論的枠組みを応用しつつ、ユーラシアの人びとが、身体と環境/世界/宇宙の連関をどのように想像することによって、常軌を逸脱する状況や人知の及ばない物事を理解し、つじつまを合わせようとしてきたかを領域横断的に考察することを目的とする。目指すのは単なる文化相対化でなく、異なる身体観・宇宙観の接続点、あるいはパラダイムの転換点といった文化や時代の境界領域における想像界の還流の実態を、具体的なテクストやフィールド事例の分析と比較を通して明らかにすることである。
特に注目したいのは、近代以前の「霊的・非合理的自然観」から近現代の「数量的・合理的自然観」への遷移、つまりマックス・ウェーバーのいう「脱魔術化」(あるいはその逆の潮流である近年の「再魔術化」)の過程における生態想像力の変遷である。
2025年度
異なる知識体系の接触による知の往還を実証的に明らかにするため、ヨーロッパと中東、中東イスラーム世界と中国、中国と日本・東南アジア、そして近世以降の西洋と非西洋の接点となるような地域・時代に生み出された天文書・占術書、医学書、博物誌、錬金術・魔術関連資料などを分析の対象とする。自然界全体の構造や仕組みに関連した重要概念を抽出し、文化の接触領域における翻訳や対話の場においてどのような知の駆け引きがあったのか、比較文学比較文化の手法をもって具体的なテクストやフィールド事例に沿って検証する。
2025年度は、主に自然界の「観測と操作」という行為と想像力の関連について、比較検討したい。宇宙観・占星術、鬼神論、呪術・魔術といったテーマを設定し、そのテーマに関連した発表をメンバーや特別講師が行い、全体討論で議論を深める。
【館内研究員】 | 島村一平、河西瑛里子 |
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【館外研究員】 | 黒川正剛、安井眞奈美、木場貴俊、佐々木聡、黄昱、守川知子、尾崎貴久子、諫早庸一、中西悠喜、對馬稔 |
研究会
- 2025年5月10日(土)11:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
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佐々木聡(金沢学院大学)「ベトナムにおける天文五行占受容について:阮朝を中心に」
嘉数次人(大阪市立科学館)「近世日本の天文学者と天文占」
諫早庸一(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)「もうひとつの「天文対話」:モンゴル帝国期ユーラシアにおける東西天文学の邂逅」
全体討論
2024年度
異なる知識体系の接触による知の往還を実証的に明らかにするため、ヨーロッパと中東(山中・中西)、中東イスラーム世界と中国(守川・尾崎・諫早・對馬)、中国と日本・東南アジア(佐々木・黄)、そして近世以降の西洋と非西洋(黒川・安井・木場)の接点となるような地域・時代に生み出された天文書・占術書、医学書、博物誌、錬金術・魔術関連資料などを分析の対象とする。天変地異、異形の動植物・鉱物、出産、病、死などといった事象や現象に関する記述に注目すると同時に、自然界全体の構造や仕組みに関連した重要概念を抽出し、文化の接触領域における翻訳や対話の場においてどのような知の駆け引きがあったのか、比較文学比較文化の手法をもって具体的なテクストやフィールド事例に沿って検証する。また、現代モンゴルとイギリスの「再魔術化」(島村・河西)という逆照射の視点からも考察する。
初年度は、まず先行する共同研究「驚異と怪異―想像界の比較研究」(2015-2019)でこれまで明らかにしてきたことと、新たに本研究会で明らかにすべき点について認識共有をした上で、「自然」という概念、あるいはそれに相当する用語としてテクストに登場する「秩序」、「常」といった概念について、比較検討する。
【館内研究員】 | 島村一平、河西瑛里子 |
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【館外研究員】 | 黒川正剛、安井眞奈美、木場貴俊、佐々木聡、黄昱、守川知子、尾崎貴久子、諫早庸一、中西悠喜、對馬稔 |
研究会
- 2024年10月13日(日)10:00~18:00(北海道大学植物園博物館本館、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、国立アイヌ民族博物館 ウェブ開催併用)
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北海道大学植物園博物館本館にて開拓使関連資料・北方民族資料室調査
北海道スラブ・ユーラシア研究センターにて山中由里子(国立民族学博物館)による「共同研究趣旨説明」
全員「これまでの研究と分担課題について発表」
全体討論
- 2024年10月14日(月・祝)13:00~17:00(北海道大学植物園博物館本館、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、国立アイヌ民族博物館 ウェブ開催併用)
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札幌から白老に移動
国立アイヌ民族博物館にて巡回展「驚異と怪異」視察
山中由里子(国立民族学博物館)「民博×アイヌ博クロストーク」(巡回展「驚異と怪異」関連)
全体討論
- 2025年3月1日(土)10:15~18:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
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山中由里子(国立民族学博物館)「<自然>を問い直す」
黒川正剛(太成学院大学)「ヨーロッパ近世・近代における「想像界」と「自然」概念—予備的考察」
中西悠喜(自治医科大学)「イスラム圏における自然と秩序」
佐々木聡(金沢学院大学)「中国古代・中世の自然観と怪異――「自然の怪異」「自然の鬼神」をいかに理解するか」
木場貴俊(京都先端科学大学)「近世の自然観―西川如見の怪異に対する理解から―」
全体討論
研究成果
本年度第一回目の研究会は北海道で行った。白老町にある国立アイヌ民族博物館にて開催した「驚異と怪異―想像界の生きものたち」の巡回展は、本研究の前身となる共同研究「驚異と怪異―想像界の比較研究」の成果の一つであり、本共同研究の立ち上げにあたって、構想にいたった経緯と、グローバルな文脈を本共同研究メンバーに理解してもらうために実地に展示を見てもらう必要があった。巡回展の展示内容とも関連した北海道大学植物園博物館所有の開拓使関連資料・北方民族資料を前日に閲覧し、メンバーである諫早氏が所属するスラブ・ユーラシア研究センターで、キックオフ研究会をした後に、翌日白老に移動し、巡回展の視察をしたうえで、自然環境と人間の往還的な関係性において発動される生態想像力が生み出してきた表象物について、全体討論を行った。
第二回目の研究会では、「自然」の概念の範囲が、ヨーロッパ近世・近代、中世イスラム世界、中国古代・中世、近世日本においてどこが重なり、どこが違うのか比較検討した。