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インド・ミャンマー国境周辺の山岳民族文化に関するフォーラム型超域的研究

研究期間:2025.4-2027.3 / 推進型プロジェクト(2年以内)

岡田恵美

データベース

インドとミャンマーの国境周辺には、さまざまな民族が暮らす山岳地帯が広がっています。本データベースには、両国にまたがって居住するナガの人びとの衣装や装飾品、民具を中心に、国立民族学博物館が所蔵する約300点の資料を収録しています。地域や民族による検索に加え、キーワード検索では、キリスト教化以前にみられた信仰や首狩の慣習に関連する資料も探すことができます。また、ナガに関する資料の多くが、本館所蔵の写真資料と関連付けられている点も特徴です。

プロジェクトの概要

プロジェクトの目的

本プロジェクトは、インド・ミャンマー国境周辺の山岳丘陵地帯に暮らす諸民族の文化に焦点をあてた超域的な研究である。対象地域はインド側ではナガランド州、アルナーチャル・プラデーシュ州、マニプル州、ミゾラム州、一方のミャンマー側ではカチン州、ザガイン地方域、チン州に設定し、従来の南アジア研究と東南アジア研究という学術的枠組みを超えた視座から、国境周辺のナガ、ミゾ、チン、カチンを中心に山岳民族の文化に着目する。これら民族は異なる言語体系に位置付けられるものの、地形や気候といった自然環境やそれに付随する焼畑農業を中心とした生業形態、アニミズムや伝統的慣習、衣装・装飾品や織物、バスケタリー、建築などの意匠や製作技術、またキリスト教化による伝統文化への影響など、様々な共通する文化要素が確認される。したがって、本プロジェクトの目的は、前述の民族に関する本館所蔵標本資料を現地研究者や現地博物館と協働しながら精査すると同時に、新規データベースの構築によって比較文化的視点からこのフォーラム型超域的研究を進展させることである。

プロジェクトの内容

本プロジェクトでは、以下の4つの活動を想定している。

1)インド・ミャンマー国境周辺の山岳民族に関する本館所蔵標本資料のデータベース構築
本館では、ナガ、ミゾ、チン、カチンに関連する標本資料を所蔵している。中でも申請者が2012年から音楽民族学研究の対象としてきたナガに関しては、標本資料目録データベースの登録資料が258点(申請者が近年収集した資料54点を含む)と最多であるが、その内、1983年受入の127点(H109146-H109338)については来歴や資料の詳細情報が不明である。そこで、現地のナガランド州立博物館や国内外の研究者と協働して資料の制作年代・素材・意匠・用途などについて精査すると同時に、ナガだけではなく周辺民族の資料も包含することで比較文化的視点から考察可能な新規データベースを構築する。

2)ナガ写真データベースとの連動
申請者は2023年度のX-DiPLAS支援事業に採択され、写真家の森田勇造(1940-)氏が主に1979年にナガランド州各地で撮影したポジフィルム3,989点をデジタル化し、現在データベースを構築中である。撮影地のインド北東部ナガランド州(図1)はミャンマーとの国境に位置し、州民の84.3%がナガである(Census of India, 2011)。その居住地は、第二次世界大戦末期にはインパール作戦の戦地となり、戦後はナガ民族運動とインド政府との対立が続き、半世紀以上にわたって地域社会に大きな影響を与えた。撮影者の森田は、ナガランド州政府の特別許可および全面的な協力体制を得て、1978年から複数回にわたってナガの居住地で撮影を行い、特に1978年と1979年の農村部での写真はナガの分離独立運動下における貴重な記録である。また停戦後の2000年代以降は急速に人の移動や物流が活発となり、ナガの伝統的風習は喪失あるいは変容しつつある。そうした背景からも、この70年代を中心とした写真データベースは農村部の年中行事や風習、伝統的な家屋といった諸相やその経年変化の考察が可能な学術資料であり、写真内容を精査しながら、1)の標本資料データベースと連動させる。

3)ナガランド州立博物館との協働による写真パネル展の現地開催
2024年にはインパール作戦から80周年行事がナガランド州都コヒマで行われ、初めて慰霊碑が建立されて現地でも大きく報道された。1944年ビルマ側から進軍した日本陸軍の経路となった州南部の農村では現在も当時の逸話が伝承され、日本に対する関心は極めて高い。本プロジェクトでは、1970年開館のナガランド州立博物館と同州政府の芸術文化省と協働し、2)の1979年の写真を中心とした写真パネル展を同州にて開催する。日本とナガの博物館間での初の連携事業となり、1)の本館が所蔵する標本資料のデータベースも広く周知する機会としたい。

4)インド・ミャンマー国境周辺の山岳民族に関する本館での公開シンポジウム開催
国境周辺地域では、2010年代から外国人の入域制限が緩和された地域も多く(ナガランド州では2011年に規制緩和)、それを契機に様々な学術分野において同地域を対象とした研究も進展しつつある。だが一方で、近年のミャンマーの情勢不安や2023年に勃発したインド・マニプル州での民族紛争によって、この国境周辺地域では現地調査が再び困難な状況である(ナガランド州・マニプル州・ミゾラム州にも2024年12月末に再び外国人入域制限が発令された)。したがって、現地研究者を招聘して、本館にて国境周辺の山岳丘陵地帯に暮らす諸民族の文化に焦点をあてた公開シンポジウムを開催する。そこでは、1)の標本資料データベース、2)の写真データベース、3)のソースコミュニティとの協働を踏まえて、山岳民族の文化変容に関する考察や、博物館の役割についても議論を交わす場とする。

期待される成果

1)の標本資料データベースは、従来の南アジア研究と東南アジア研究という学術的枠組みを超えた視座から、ナガ、ミゾ、チン、カチンを中心に国境周辺のモンゴロイド系山岳民族の文化を比較的視点から深化することが可能な構成とする。更に、2)写真データベースと連動させ、衣装・装飾品・生活道具といった標本資料であれば実際の着用・使用方法がわかる写真と紐付ける。こうした新規データベースの構築と同時に、3)ナガランド州立博物館との協働によって博物館を通した学術交流や写真展の開催、4)本館での公開シンポジウム開催から国境周辺の山岳民族文化のフォーラム型超域的研究の進展に寄与する。

成果報告

2025年度成果

初年度にあたる2025年度は、以下3点の活動を推進した。

1)現地博物館と協働による民博標本資料の精査及びデータベース構築
民博が所蔵するナガ、ミゾ、チン、カチンに関連する標本資料298点を対象として、データベースを構築した。その内、1983年受入の127点(H109146-H109338)については、これまで来歴が不明であったが、本年度の調査により1946年以前の資料であることが判明した。また、ナガ資料に関しては、ナガランド州立博物館(インド)との間で、8月1日に学術・展示に関する協力協定(Statement of Cooperation between National Museum of Ethnology, Japan and Nagaland State Museum, India)を締結した。10月には、同館館長(ナガランド州政府芸術文化省長を兼任)を含む現地研究者を招聘し、国内研究者と共に資料の熟覧や研究会を実施した。これによって、各資料の制作年代、素材、意匠、用途等に関して多くの知見が得られ、それらの成果をデータベースに反映することができた。更に、近年の博物館資料をめぐるデコロナイゼーションの動向を踏まえ、本館がナガ資料を所蔵することの意義についても意見交換を行った。

2)ナガ写真データベースの構築及び公開可否に関する検討
上記と並行して構築を進めているナガ写真データベース(2023年度X-DiPLAS支援事業採択)についても、ナガランド州立博物館及び被写体となった現地集落において精査を実施した。本データベースは、日本人写真家の森田勇造(1940-)氏が主に1979年にナガランド州各地で撮影したポジフィルム3,989点を対象とするものであり、インドからの分離独立闘争下における農村の日常生活の様相を記録した貴重なコレクションである。令和8年1月には、被写体となった同州のシャンユー村やチュイ村にて、1979年撮影写真の上映会を開催した。現在の村の王に対してはコニャック・ナガの王族の象徴について聞き取りを行い、参集した村民に対しては写真内容に関する調査を実施した。それによって衣装や装飾品、木製彫刻等の時代的変化に関する知見を得ることができ、標本資料データベースと写真データベースを紐付けながら情報を深化させた。

シャンユー村の故ローポン王(前王)
シャンユー村の故ローポン王(前王)
(森田勇造撮影 1979年)
息子アメイ王(現王)
息子アメイ王(現王)
(岡田恵美撮影 2026年)
チュイ村での写真上映会
チュイ村での写真上映会
(ヴェルーゾ・テツェオ撮影 2026年)

更に、写真データベースの公開にあたって、公開の可否について慎重な確認を行った。そこでは、一部写真に見られる女性や子どもの裸体が写る写真は非公開とし、一方で、かつての首狩の風習に由来する人間の頭骨が写る写真については、ナガの文化的文脈を尊重し、公開して差し支えないとの判断に至った。これらの写真については、ナガランド州立博物館と公開可否を検討した結果、学術的資料であることを明示した上で公開している旨を注記することとした。

3)現地博物館との協働による企画展の開催の準備
2026年1月には、ナガランド州立博物館にて、州政府芸術文化省長、同館キュレーター、現地写真家とともに、9月に州都コヒマで共同開催予定の企画展について、趣旨及び展示内容の具体的検討を行った。その結果、展示写真の選定や展示パネルの準備も順調に進んでおり、開催に向けた連携体制を一層強化することができた。

研究の業績

MISC
  • 岡田恵美(2026)「境界に生きる山岳民族のポリフォニー」『民博通信online』13:4-5.
  • 岡田恵美(2026)「水曜日には民族衣装を」『月刊みんぱく(2026年3月号)』pp.14-15.
口頭発表
  • 岡田恵美(2026)「境界に生きる民族のポリフォニーを対話から聴く― インド・ミャンマー国境周辺の山岳民族文化に関するフォーラム型人類文化アーカイブズ・プロジェクト―」学問と人をつなぐサロン、2026年3月13日