音楽展示
私たち人類は、音や音楽によって意志や感情をつたえ、自分の位置を知り、訪れたことのない場所や過ぎ去った時に思いを馳せ、心を奮い立たせたり慰めたりしてきました。また、神仏や精霊など見ることのできない存在と交わってきました。この展示では、音や音楽と私たちの存在とのかかわりを、世界各地の「太鼓」、「ゴング」、「チャルメラ」、「ギター」等の例を通して考えます。
展示セクション
●太鼓-荒ぶる音- ●ゴング-伝え交わる音-
●チャルメラ-演じる音- ●ギター-歴史の中の音-
主な展示品紹介
ルバナ・ウビ
- 標本番号:H0237424
- 地域:クランタン州(マレーシア)
- 2007年収集
二人一組で一つの太鼓を担当し、複数の太鼓で合奏する。それぞれの奏者は、相手の音のあいだに巧みに自分の音をはさみ込み、複雑なリズムを生み出す。
ワイン樽太鼓
- 標本番号:H0216489
- 地域:シアトル(アメリカ合衆国)
- 1999年収集(シアトル・ココン・タイコ寄贈)
北米の太鼓グループがワイン樽を使って作った太鼓。1960年代末に和太鼓が北米に紹介されると、日系3世たちの政治文化運動と結び付き、アジア系に対する偏見と闘う手段として太鼓の演奏が始まった。今では、日系を中心にアジア系の新しい文化として定着している。
ガンサ
- 標本番号:H0238373
- 民族:カリンガ(フィリピン)
- 2008年収集
ガンサは、フィリピン、ルソン島北部の山間地域に住む少数民族が伝承する平らゴング。演奏者はそれぞれひとつのゴングをもち、複数の奏者が音を重ね合わせると、深く味わいのある響きになる。集団間の友好関係を保つ集まりや結婚式などで演奏される。
ピン・ピアット
- 標本番号:H0217169ほか
- 民族:クメール(カンボジア)
- 1999年収集
カンボジア、タイ、ラオスなどの宮廷で発展した大型のアンサンブルでは、ゴングが環状に配置されている楽器が特徴的である。一人の奏者が数多くのゴングを演奏するための工夫のひとつである。
ガムラン・サレンドロ
東南アジア各地の宮廷では、王や王国の権力を誇示する大型のアンサンブルが発達した。大小さまざまなこぶ付きゴングのセットと鉄琴類を中心とするガムランは、そうしたアンサンブルのひとつである。儀礼や公式行事のほか、舞踊や影絵芝居の伴奏などに用いられる。
チャルメラの伝播と分布
チャルメラは、ユーラシアを中心に世界の広い地域に分布している。その歴史と伝播については不明な部分が多いが、西アジアで生まれ、そこから世界各地に伝播したという説が有力である。
ナーガスワラム
- 標本番号:H0230723
- 地域:南インド(インド)
- 2005年収集
南インドのヒンドゥー寺院で演奏されるナーガスワラム(チャルメラ)の音は吉兆をあらわし、神の現れであるとさえ考えられている。タヴィル(太鼓)やターラム(一対の小型シンバル)などとともに演奏される。
ズルナ
- 標本番号:H0237196
- 地域:トルコ
- 2006年収集
人生儀礼は、チャルメラが最も頻繁に演奏される場の一つである。バルカン半島南部やトルコでは、ズルナ(チャルメラ)とダヴル(太鼓)の音が結婚式には欠かせないと考えられている。演奏者の大多数がロマ(ジプシー)出身である。
チリミア
- 標本番号:H0268049
- 地域:グアテマラ
- 2005年収集
イベリア半島のチリミアは、16世紀にキリスト教宣教師たちによってアメリカ大陸へ伝えられた。中米グアテマラでは、チリミアとタンボール(太鼓)奏者が、守護聖人祭の行列行進を先導する。
ビオラ・ブラゲーザ
- 標本番号:H0236980
- 地域:ポルトガル
ポルトガル北部のブラガとその周辺で演奏される複弦6コースのギター。ポルトガルでは地域ごとに独特のギターがみられ、それらを用いた特色ある音楽が伝わる。小ぶりで複弦のものが多く、6弦ギター成立以前のギターにつながる。複弦は音量を増す工夫。このギターを作った工房はワイン醸造所も兼ねていた。ギターがワイン同様、暮らしに身近な存在であったことがうかがえる。
クアトロ
- 標本番号:H0254389
- 地域:プエルトリコ
中南米では、6弦ギターの成立以前にヨーロッパから原型が伝わったことから、弦の数を呼称に冠した6弦以外のギターがみられる。このギターはクアトロ(4)と呼ばれるが、実際は5弦(複弦5コース)。胴は一木のくり抜きで大きさの割に重量があるが製作が容易である。プエルトリコでは音楽学校でもクアトロ演奏の教授が行われている。
流しのギター
- 標本番号:H0238393
- 地域:大分県(日本)
大分県別府温泉の流しの歌手愛用のギター。かつて流しの歌手はバイオリンを弾いていたが戦後はギターに持ち替え、演歌や流行歌のプロ歌手になる者も現れた。ファンだった歌手のサインや憧れの歌謡界の大御所の名前が記された彼のギターは、戦後日本の芸能史の一コマを今に伝える。
ユンシン
- 標本番号:H0224350
- 地域:沖縄県(日本)
沖縄の伝説的な大衆音楽家である故照屋林助氏愛用の楽器。沖縄の三線の胴に4本のギター弦を張り、アンプにつないで演奏した。彼は自らの音楽を、沖縄と日本や西洋の音楽をミックスした「チャンプルー」と呼んだ。この楽器も三線とギターの「チャンプルー」。その怪演は映画『ウンタマギルー』で見ることができる。