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30年越しの民家再訪~ウズベキスタン・タシュケント~

みんぱくの中央・北アジア展示場には、1983年に製作された、ウズベク人の民家の10分の1模型が展示されている。それは当時の旧ソビエト連邦ウズベク共和国の首都、タシュケントに実際に存在した民家がモデルになっており、建物の造りや部屋の間取りだけでなく、ブドウ棚の造作や、中庭の樹木の葉っぱ一枚一枚までこだわって精巧に作られている。

この民家模型は、1983年以降ずっと中央・北アジア展示場に展示されてきたが、モデルとなった民家がその後どうなったのか、またこの民家に暮らしていた家族がどうしているのか、などについては分からないままになっていた。そこで、2008年度から開始された展示場のリニューアル事業を機に、様々な方の協力を得て調べたところ、現在でもこの民家には当時と同じウズベク人家族が暮らし続けていること、また、日本人たちが来て家の計測をしていった当時の状況を覚えているらしいことが分かった。

そうした経緯をへて、模型製作から30年目にあたる2013年に、本館の研究者(もちろん30年前に訪れた研究者とは別人である)が、タシュケントの民家を訪問する機会がおとずれた。その際には、世帯主(S氏)から近況についての聞き取りや、みんぱく側の展示(民家模型)の様子の報告など、お互いの情報交換がなされた。

さらに2019年には、別の研究者(=筆者)がウズベキスタンに渡航し、2013年に訪れた研究者からS氏宛ての手紙を預かり先方に届けるとともに、現在の暮らしの様子や模型のモデルとなった民家の現状を、映像撮影・記録させてもらうことになった。まさに、みんぱくが収蔵する標本資料が取り持つ「縁」とでも言えようか。

コロナ禍のため海外渡航が制限され、編集作業を終えた取材映像を、S氏ご本人にまだ観ていただけていないのが非常に残念であるが、世界的な感染症の脅威が終息し、S氏やそのご家族と再会できることを、切に願っている。

寺村裕史(国立民族学博物館准教授)



関連写真

中央・北アジア展示場の民家模型【標本番号:H0105532、標本名:家屋(タシケントの民家)(1/10模型)】



展示場の壁面パネルに演示された民家の間取り(平面図)



民家の中庭の様子(2019年)。涼み台は撤去されていたが、ブドウ棚は健在。