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さわるとわかる、わかるとかわる!

9月2日に特別展「ユニバーサル・ミュージアム-さわる!“触”の大博覧会」が開幕する。コロナ禍による1年の延期を経た後、満を持しての開催となる。社会の各方面で「非接触」が強調される状況下、あえて大々的に「さわる展示」を行う意義とは何なのか。本特別展が人間本来の相互交流(触れ合い)の大切さを再確認する場になればと願っている。「ユニバーサル・ミュージアム」といわれても、具体的にどんな展示なのか、想像できない人が多いだろう。そこで、シンプルなスローガンを決めることにした。親しみやすい言葉として僕たちが選んだのが「さわるとわかる、わかるとかわる!」である。

「さわるとわかる」「わかるとかわる」には、特別展の趣旨が凝縮されている。この1年余の間にオンライン会議、リモートワークなどの語が普及し、人間のコミュニケーションのあり方は大きく変化した。しかし、オンライン、リモートでは伝わらないものがある。その代表が、現場に足を運び、手を動かすことによって得られる触覚情報なのではなかろうか。特別展では、さわることを前提に制作された多種多様なアート作品が並ぶ。さまざまな素材で作られた具象・抽象彫刻の手触りをぜひ体感していただきたい。「さわるとわかる」は展示場でしか実感できない接触・触発体験であり、その確かな手応えが「わかるとかわる」につながることを期待している。

「さわるとわかる」の裏返しは、「さわらないとわからない」である。つまり、「さわらない」来館者には特別展の目的・効果が十分に「わからない」ことになる。無理なく、自然に展示物にさわってもらうためには、どうすればいいのか。今回の特別展では、導入部の展示(試触コーナー)で「なぜさわるのか」「どうさわるのか」をしっかり納得していただき、その後にセクション1~5の「暗い展示」へ進む構成となっている。「暗い展示」では通路、解説パネル(文字情報)部分の明るさは確保した上で、展示資料・作品には照明を当てない方針である。視覚情報を制限することで、触覚に集中できる環境を創出したいと考えている。「視覚を使えない不自由」ではなく、「視覚を使わない解放感」を味わってもらえれば嬉しい。

僕はこれまでに、本館インフォメーションゾーンの「世界をさわる」コーナーをはじめ、各地の博物館・美術館で「さわる展示」の開発・実施に関わってきた。「さわるとわかる」工夫が随所でなされているのに、少なからぬ来館者が積極的にさわろうとしないのは残念である。ミュージアムとは「見る/見せる」場所だという視覚優位の常識が刷り込まれているのだろう。少々荒っぽい方法ではあるが、「暗い展示」はこの常識を打ち破るヒントを与えてくれるに違いない。

最後のセクション6は「明るい展示」である。このセクションには、絵画・絵本など、視覚的要素が強いが、さわると、より深く理解できる展示物を集めている。特別展の総括として、「見てわかること」「さわってわかること」をあらためて比較・検討する意図で本セクションを設けた。視覚を遮断され、触覚に意識を向けるようになった来館者が通常の「明るい展示」に戻ってきた時に、どんな変化が生じるのか。この特別展が、見学に偏る従来のミュージアムの展示・鑑賞方法を変えていく出発点になれば幸いである。

そう、さわらなければわからない特別展は、来なければ楽しめないのだ!



広瀬浩二郎(国立民族学博物館准教授)

特別展情報

ユニバーサル・ミュージアム ―― さわる!“触”の大博覧会

開催日:2021年09月02日〜2021年11月30日
時間:10:00〜17:00
場所:国立民族学博物館 特別展示館

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