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民博に収蔵されている東アジアの族譜

家族の系譜を、図や文書、ロープなどの形で記録することは、人類社会において普遍的な現象である。新約聖書にあるアブラハムからイエスにいたる系譜やイギリスとドイツの16世紀の教会記録簿などがその例である。

東アジアの場合、家族の系譜を文書と図表を用いて記録する風習が極めて顕著である。東アジアでは、族譜は宗譜、家譜とも称され、一族の由来、移動の経緯、系譜関係、墓地の分布、祠堂、輩行字(一族内部の世代序列を表わす命名法)などから成る。核心的な部分は系譜関係である。中国(写真1)、韓国(写真2)、日本、ベトナムにおいて、このような一族の系譜を作る慣習が支配層だけでなく一般庶民のあいだでも見られ、現代も作られ続けている(写真3)。

民博の図書室は、中国、韓国、日本とベトナムに関する系譜は、102タイトルがあり、そのうちの71タイトルは中国に関する族譜である。また、本館で収蔵されている中国の族譜は、漢族のもののほかに、ぺー族、満族、回族、壮族などの少数民族の族譜も多数含まれている。1つのタイトルの族譜は、1冊のものもあれば、『孔子世家譜』のように80冊から構成されたものもある。

近年、東アジア研究において、家系記録の資料的な価値が注目を集めるようになってきた。長い歴史を通して、人間の移動とともにモノや情報も流れていたが、グローバル化によって、その動きはますます盛んになってきている。それにともなって、家族の歴史を記録する族譜は、エスニシティの形成、トランスナショナルな移民、文化のフローの研究にとって欠かせない資料となっているのだ。例えば、中国においては、1980年代から族譜は国史、地方史と並んで三大文献資料と見なされ、歴史学、人類学、人口学、社会学、経済学などの分野で重宝されるようになった。また、1984年からは、国家檔案局(国家アーカイブズ)、教育部、文化部が、族譜を国の貴重な文化遺産と見なすようになっている。

韓敏(国立民族学博物館教授)

関連ウェブサイト

「世界最長の家系図」『月刊みんぱく』37(1)p.20 大阪:国立民族学博物館(2013.01.01)



関連写真

写真1 中国展示場で展示されている族譜 2021年筆者撮影



写真2 朝鮮半島の展示場で展示されている韓国の族譜 2019年筆者撮影



写真3 祖先祭祀に欠かせない族譜――台の上に置かれている族譜は、一族の全員参加を表している。2012年筆者撮影 福建省