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「16」の謎――インドの祭礼研究余滴

COVID-19の流行で中断中だが、インド西部の地方都市で3月末から4月初めに祝われる祭礼の現地調査を数年前から行っている。いろいろと興味深いこの祭礼には、「16」という数が繰り返し現れる。意味ありげなのだが、現地の人びとも由来は分からないという。ディテールが思わぬ気づきにつながることもあるので、この謎もいつか解明したいと思っている。

この祭礼はガンゴールと呼ばれ、私の調査地のウダイプル市のものは盛大なことで有名だ。家庭、カーストごとの近隣組織、都市全体の3つのレベルで行事があり、最後のパレードには多数の観光客も訪れる。細密画などで250年以上前には挙行されていたことが裏付けられる数少ない祭礼でもある。祭礼はホーリーという別の大祭後16日間行うとされ、主役の女神には初日に16個の土団子が奉納される。また16の駒を使う双六をする。最終日には女神を祀った背後の壁に16個の赤い点をつけ、女神を称える歌をきっちり16回繰り返し唄う。

16が執拗に現れるのに、誰もその理由を知らない。だがこれだけ繰り返す以上何か理由がありそうだ。細部へのこだわりが祭礼の意義の深い理解につながることもあるので、調査者としては放っておけない。

最初は祭礼期間が由来かと考えたが違うらしい。複雑なので立ち入らないが暦日の数え方によっては16日より長く祭礼が続くのだ。他の「16」に合わせ祭礼期間もこの日数と言うようになった臭いがする。

COVID-19流行中の文献調査で、この地域のヒンドゥー教の伝統には16体の女神群を信仰する例があり、この祭礼の主祭神の侍女のように描かれる例もあることが分かった。「16」の由来はこれかも知れない。しかし、現地でこの女神群が全く言及されないのはなぜだろう。16体の女神群で全ての説明がつくだろうか。他に解明したいことも数多く、調査地に戻って謎の追究を再開できる日が早く来ることを願っている。

三尾稔(国立民族学博物館教授)



関連写真

祭礼最終日。顔料を指につけ、女神像の背後に16個の点を描く。



家庭祭祀の様子。着飾った女性たちが祭壇の前で女神を称える歌を16回唄う。



パレードの最後。湖岸に女神像と女性たちが集合し、女神を異界に帰す。