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磐座(いわくら)と、旅のイラストマップ

磐座を訪ねて方々を歩いている。磐座とは信仰の対象だった自然石のことだ。

そんなことをはじめたのは、カミを祀る祠や社がたてられるより前の信仰形態に興味があったからだが、直接的には、2016年ごろ村井康彦氏の『出雲と大和』(岩波新書、2013年)を読んだことだろう。磐座が国つ神に対する祀りと関わっている気もしたのである。

日本中に磐座はいくらでもある。寺社の境内、その奥宮や奥の院に鎮座していることもあれば、有形の祭祀場なしに里山にポツネンと坐すこともある。わたしは車を運転しないので列車やバスを使い、たいがい歩くことになる。せっかくなので地域の名所、旧跡、修験者の行場、磨崖仏などを盛り込んだコースを考え、半日ほっつき歩く。

そんな小さな旅の記録を、はじめは文字にして書きつけていた。だが、あるとき手抜きしようと、イラストマップにしてみた。どこをどんな経路でたどり、いつどこでなにを見知って、なにを思ったのかなどを、B5の白紙一枚のうえに絵とことばで表現する。やっているうちにハマってきた。あとで見返すのも楽しい。

そんなイラストマップが3年間で80枚以上たまった。順番に綴じたファイルを繰ってみると、絵が格段に進歩している。そのかわり、いつのまにか手抜きの概念図でもなくなっていた。

さて、わたしはこの四半世紀のあいだ、主にベトナム北部の山間部をうろついてタイ族の民俗や伝承を調べてきた。日本ほど多くないが、磐座とよんでいい信仰の岩もある。むこうでもよく歩いたものだが、そういえば国外のイラストマップなどまともに描いたことがない。

そこで、コロナ禍直前の2019年11月から12月にベトナム北部とラオス北部を陸路で国境を越えて訪ねた旅を思い出し、イラストマップを描いてみることにした。そんなことをしながら、東南アジアにおけるカミへの信仰のあり方の特徴を考えるのも楽しい。

ちなみに、そのイラストマップは「はじまりとつながりのベトナム ラオス」という「Note」上の記事で無料公開されている。

樫永真佐夫(国立民族学博物館教授)



関連写真

イラストマップ:黒井城跡(兵主神社〜興禅寺から黒井城)© Masao Kashinaga


写真1:明智光秀の丹波攻めを撃退した赤井悪右衛門の里に鎮座する兵主神社の磐座「影向石」(2022年、兵庫県丹波市)


写真2:ベトナム西北部にすむ黒タイの始祖たちの依り代という3つの磐座(2019年、ベトナム イエンバイ省ギアロ)