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東西ミーム比較

謹賀新年。今年もまた、アマビエがプリントされた2023年度版の鏡餅を見かけた。2020年初頭に起こった「アマビエチャレンジ」 。これは、アマビエの画像を描いてSNSにアップする動きのことだ。ウェブなどで、いわゆる「バズった」コンテンツを、インターネットミームと呼ぶ。東の日本で、人びとがアマビエを描き、疫病封じを祈っている間、世界の他の地域では何が起こっていたのだろうか。

アマビエは、「疫病が流行ったら私の姿を描き写して人々に見せよ」と告げたという逸話を持つ妖怪だ。コロナ禍の今まさにと、令和によみがえり、Twitterなどソーシャルメディアを通じて、瞬く間に拡散していった。時を同じくして、別の文化圏である西側、ヨーロッパの北に位置するスカンジナビア半島では、「苦痛だった“2m”というソーシャルディスタンスが終わって、ようやく元の“5m”に戻れる」というジョークが 、ソーシャルメディアを賑わしていた。コロナ以前から、人が密になることが少ない風土にちなんだ皮肉である。

こうしたインターネットミームが拡散するのは、見た人たちが、ミームに強く共感し、友人・知人とも分かち合いたいと願うからである。ダンスや音楽など、同一のソースが世界規模でシェアされる一方で、コロナの影響により同様の制限が課される中、人びとが「共有したい」と感じるミームは場所によって異なるらしい。

地域差の出るインターネットミームは、文化を映す鏡であるとも考えられる。とはいえ、ミームは、忘れられるのも早い。あっという間に情報の波に埋もれてしまう。コンピュータビジョンなどデジタル技術を応用した考古学として、サイバー考古学やヴァーチャル考古学という新たな学問領域を指す言葉が誕生した。もう少し広義の領域としては、情報科学を活用した人文学研究を指す、デジタルヒューマニティーズというのもある。本来の意味とは異なるが、2023年は、忘れ去られたデジタル空間を「探検」し、過去のミームを「発掘」したり、読み込めなくなったフォーマットを「修復」するような研究が発展する年になるかもしれない。

宮前知佐子(国立民族学博物館助教)



関連写真

2020年にスカンジナビア周辺で拡散されていたインターネットミーム(左)と、アマビエのイラスト付き2021年度版鏡餅(右)。