Select Language

コロナ禍での海外発掘調査 高山病発症、戻れた実感

2023年2月4日刊行
松本雄一(国立民族学博物館准教授)

いつになったら調査を再開できるのだろう。新型コロナウイルス禍において、野外調査を必要とする研究者は皆、この問いと向き合いながらこの3年間を過ごしてきたのではないだろうか。南米アンデスの考古学を専門とする筆者も例外ではなかった。これまでの成果をまとめるいい機会だ、と必死でポジティブに考えようとしていたが、やはりペルーに行きたい、発掘調査をしたい、という本心はごまかせない。

不安な日々が続いたが、2021年の終盤以降だいぶ風向きが変わった。ペルーにおいて、いくつかの考古学調査プロジェクトが徹底的な感染症対策を行ったうえで発掘を無事終えたという情報が入ってきたのである。そこで22年2月に、ペルー人共同研究者に頼んで、状況を確認するために調査地に行ってもらった。すると現地では既に3回目のワクチン接種がほぼ終了しており、感染者が調査チームから出た場合でも隔離施設を確保することで対処が可能であることが確認できたのである。かなり悩んだが、思い切って渡航して発掘調査を行うことにした。

コロナ禍の中での発掘調査=ペルーのカンパナユック・ルミ遺跡で2022年、9月16日、筆者撮影
コロナ禍の中での発掘調査
=ペルーのカンパナユック・ルミ遺跡で2022年、9月16日、筆者撮影

9月になって、長年の調査対象である3000年前の神殿、カンパナユック・ルミ遺跡に4年ぶりにたどり着いた。調査のベースとしてお世話になる集落の代表者のお宅で温かいもてなしを受けたが、いつものハグもできない。聞けば集落内には一人の感染者もなく、生活は元に戻っているという。我々のチームは集落で唯一の外部から来た人間である。事前に検査をしたがそれでも、もし自分たちが感染源となってしまったらと考えると身がすくむ思いであった。

調査に際してはペルー文化省によって提示された感染症対策に従い、私も発掘作業員の方々もアルコールによる手指の消毒を徹底的に行い、マスクを着用した。このうち特に問題となったのが後者である。実は発掘作業では、つるはしで土を掘り起こしてシャベルで取り除くという肉体労働の占める割合が大きい。さらに作業員は、長年共に調査をしている年配の方が多い。マスクの下で苦しそうに息を切らしながらつるはしをふるう姿を見て申し訳ないような気分になってしまったが、こちらも歩いて指示を出すだけで息を切らすありさまである。

調査を始めて間もなく、頭痛と倦怠感(けんたいかん)に襲われ、ベッドから出られない日があった。感染を疑って慌てたが、他に症状はなく、検査結果も陰性であった。念のため自己隔離をして寝袋にくるまりながら、はたと、完全に忘れていた高山病の症状であることを思い出した。いつもはわずらわしく思っていたこの感覚が、アンデス高地の調査に戻れたという実感をくれたのだろう。翌日は元気いっぱいであった。