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私の狩猟研究の40年

今から40年前、東北地方の朝日連峰にてクマ狩りに同行した。山中ではクマを捜す場所が決まっていること、山の神さまへの祈り、捕獲したクマに皮をかける儀式など、多くのことを知り、人びとの動物への思いを学ぶことができた。そこには、農耕に従事しながらも季節に応じて狩猟を組み合わせて生きている農耕民の猟師の姿があった。今でも、そのとき山中で食べたクマの脳みそや集落でのクマ肉を入れた鍋の味が忘れられない。

その後40年間、アフリカ、ロシア、アマゾン、熱帯アジアなど世界の様々な地域で狩猟に同行することになったが、それは地域の自然や社会をトータルに知る機会にもなった。カラハリ砂漠では、見渡す限り地平線の広がる大地を歩くことで、現地の人もライオンを恐れていることや、動物の足跡から読み取れる情報が多いことを知った。アマゾン熱帯林では、高さ30mの森の上部を移動するサルをとるのに吹き矢が向いていること、乳幼児のサルを捕獲した場合にペットのようにかわいがることを学んだ。

さらには、ロシアのベーリング海沿岸では、一年を通してセイウチやクジラなどの海獣類が豊かに捕れることから、世界一肉を消費する村の暮らしをかいまみることができた。また、東南アジアの森に暮らす野鶏と人とのかかわり方をみていると、遠い昔に鶏の家禽化を開始した名も無き人に敬意を抱いた。

過去40年間で、動物の保護の普及、動物の権利への関心の高まり、ジビエブームなど、世界の狩猟のあり方が大きく変わった。一方で、世界各地で獣害の問題が深刻となり、加えて人獣共通の感染症の問題など、残された課題が多い。今後も、狩猟をとおして地球の姿を見て、どのような共生の有り様が望ましいのか、まずは、身近なところから考えてみたいものである。

池谷和信(国立民族学博物館教授)



関連写真


写真1 クマ穴に入る筆者。穴の中は意外に広い。穴熊獲りもかつて行われていた。(日本)



写真2 ジャッカルを棒で殴ろうとするが逃げられた。殴ることは、世界の狩猟法に共通。(ボツワナ、撮影・池谷)



写真3 海獣類の豊かなベーリング海。セイウチを捕獲するために狩猟キャンプに向かう。(ロシア、撮影・池谷)