Select Language

お神酒のルール

日本の祭りには、酒がつきものである。祭りの際に神へ供えられる酒は、お神酒と呼ばれている。皆さんはお神酒というとどういったものを思い浮かべるだろうか?

写真1は、広島県庄原市の10軒ほどで地域の神々を祀る地祭の様子である。祭壇にお神酒が蓋を開けて供えられ、長押には酒瓶に巻かれていた熨斗紙が貼られている。実はこのお神酒は、調査させていただく御礼として私が奉納したもので、熨斗をつけた日本酒 を持っていった。静岡県出身の私には、お神酒といえば日本酒というイメージがあったが、それは広島県でも同様であった。

しかし、お神酒は日本酒だけとは限らない。たとえば、神社の境内には、酒造会社などから奉納された酒樽 が飾られているのをよく見かける。普段何気なく通り過ぎてしまいがちだが、ここにどんなお神酒が奉納されているのかを観察してみると、神社の性格や地域の特性が見えてきて興味深い。写真2は島根県の出雲大社の様子である。地元の八千矛や神遊といった日本酒の酒樽のほか、ビールケースやワイン樽も飾られている。

また、宮崎県の戸下神楽では、参列者が奉納した焼酎が100本以上祭壇いっぱいに飾られていた(写真3)。ここでのお神酒は地元の焼酎であって、夜通し寒い中見物するわれわれもやかんに入れられた熱々の焼酎を茶碗でいただいた。

このように一口にお神酒と言っても、多様性を持つことがわかる。神もわれわれと同じように酒好きなのだろうが、捧げられるお神酒の種類や銘柄には決まりがないようだ。その反面、お神酒には、九州南部では焼酎、琉球諸島では泡盛といったように、その土地の気候風土の中で育まれた酒が選ばれたり、ここの祭りには地元の○○酒造の酒でないといけなかったりというような、土地ごとの明文化されない独自ルールもみられる。

現代社会では、酒類選択肢の多様化が進んでいる。そうした中で、どうしてお神酒だけには多くの人がこだわりを抱くのだろうか。日本各地の人々が酒に対して抱いてきた機微を、今後も美味しく味わいながら調査していきたいと思う。

鈴木昂太(国立民族学博物館助教)



関連写真


写真1 広島県庄原市西城町八鳥地区隠地組「地祭」2016年2月3日筆者撮影



写真2 出雲大社に献酒された酒樽 2023年5月17日筆者撮影



写真3 宮崎県東臼杵郡諸塚村戸下大神楽「三宝荒神」2014年2月8日筆者撮影