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龍舞の越境とスポーツ化 農業神と海の守護神としての龍

2024年2月4日刊行
韓敏(国立民族学博物館教授)

龍は十二支の5番目の動物であり、2024年は中国では「龍の年」、日本では「辰(たつ)の年」とされている。

龍は古代中国における想像上の霊獣であるが、万物の王とされ、また、吉祥の象徴として中国の人にはなじみ深い。龍は普段、海、川、湖にすみ、恵みの雨を降らせると同時に洪水や干ばつを引き起こすとされた。季節の行事の中で水と豊作をつかさどっており、そこから龍の持つ農業神や海の守護神的な性格を見ることができる。

龍は時が至れば水を離れて天に昇ることができるとみなされるが、この地上と超越的な世界を結ぶ所に、龍のイメージの最大のポイントがある。西洋のドラゴンと比較すると、想像上の動物として水と関わる点は共通しているが、中国の龍には西洋のドラゴンに見られるような邪悪なイメージはない。

無病息災を祈って龍の下をくぐる女性と子どもたち=中国安徽省和県で2009年、筆者撮影
無病息災を祈って龍の下をくぐる女性と子どもたち
=中国安徽省和県で2009年、筆者撮影

甲骨文にも頭上の角によって天に昇ると記されており、天との結びつきも龍を神聖で超越的存在にさせている。歴代の皇帝は龍の化身とみなされ、その顔を「龍顔(りゅうがん)」、子孫を「龍子(りゅうし)」「龍孫(りゅうそん)」と呼ぶように、龍は中国で超越者としての皇帝のシンボルともされた。

一方、龍舞(りゅうまい)は、中国各地の旧正月の元旦や、そこから数えて15日目の元宵節(げんしょうせつ)に行われる代表的なイベントである。商代から伝えられてきた甲骨文の中には、雨乞いのため、集団で龍舞を行った記録がある。龍舞は今、中国の年中行事の中で最も広く行われる芸能であり、漢族の他に、畲族(しぇぞく)、チワン族などの少数民族の間でも行われている。

龍舞を行う人の数から見てみると、1人で1匹の龍を舞う場合もあれば、100人で1匹の龍を舞う場合もあるからスケールはさまざまだ。また、複数の龍が同時に舞う場合もある。龍舞が行われる場面では、霊験があるとされる龍のひげを子どもたちが奪い合う光景が見られる。子どものいない家庭の人は、龍頭(りゅうとう)に赤い絹をかけたり、龍の口の中の宝珠(ほうじゅ)や龍頭の上にあるロウソクを取って家に持ち帰ったりして、子授けの祈願をする。あるいは龍のひげを子どもの体につけて、無病息災を祈る人もいる。

龍舞は豊作、幸運を祈願する正月の芸能だけではなく、結婚式、誕生日祝い、新築祝いの時に行う幸福祈願の踊りでもある。伝統的な踊りで、地域ごとにさまざまな変種がある。

現代では人の移動と共に龍舞も越境し、中国のみならず東アジア、東南アジア及び世界各地の中華街などで踊られている。さらに、本来は雨乞いのためだったが現在は人気のスポーツとなり、中国の運動会では競技種目にもなっている。みんぱくの中国地域展示場では龍を常設で展示しているので、大きな龍の姿を見に来てほしい。