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展示を通した成果発信――企画展「水俣病を伝える」

なぜみんぱくで水俣病の展示をするのですか?

今月14日から、企画展「水俣病を伝える」を開催する。みんぱくファンのなかには、「なぜ世界の民族文化を紹介する博物館で水俣病を取り上げるのか」といぶかる方がいるかもしれない。

博物館としてのみんぱくの大きな特徴に、所属する研究者の研究成果を展示するということがある。我々が調査している社会や文化に関連するモノを収集し保存し、その研究成果を展示を通して発信しているのだ。

わたしは熊本県水俣・芦北地域で「水俣病を伝える」活動について調査研究してきた。現地で、どのような人びとが、水俣病の何をどのように伝えているのか。そこにどのような意味があるのか。これらの問いに答えるために、水俣病を伝える活動に自ら参加しながら観察してきた。

これまでは、自分でもテーマがみんぱくにそぐわないという思いがあり、展示は「遠慮」していた。だが、20年も研究させてもらったのだから、彼らの活動を広く紹介したい、という思いが強くなり、今回、企画展を提案することにした。入館者数は期待できないが、新しい人類学の展開を紹介するという意味で、みんぱくにとっても価値があると密かに自負している。

本展は、企画段階からわたしの主な調査協力者に参加してもらっている。展示にも顔写真つき実名でご出演いただいている。わたしの論文がいつもそうであるように、これも彼らとわたしの共同研究の成果である。

これまでに発表したいくつかの論文は、調査対象になった人びとにはたいそう喜んでもらえた。その一方で、関係者以外にはまったく読まれていない。展示はおおくの人に研究成果を知ってもらう絶好の機会になるだろう。これからはじまる来館者との対話が楽しみだ。わたしは企画展を研究のあり方そのものを見つめ直す機会ととらえている。

誤解されないように、最後に一言。本展は、水俣病そのものではなく、「水俣病を伝える」活動に焦点を当てた展示である。

平井京之介(国立民族学博物館教授)



関連写真


水俣病歴史考証館で展示解説する水俣病センター相思社職員(筆者撮影 熊本県水俣市 2019年)