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「あっぱれ、ネパール市民」 少年保護につながったSNS

2024年5月5日刊行
南真木人(国立民族学博物館教授)

海外調査に出かけると、時々思いもよらない出来事に出合う。2017年、ネパールの首都カトマンズに滞在中、泊まっていた宿の隣家の木陰で、少年が狭い「檻(おり)」に入れられて半日、放置されているのに出くわした。少年は体を揺らしてうめき声をあげ、しばらくするとぐったりした。

これは見過ごせない。動画と写真に撮り、友人に相談すると、彼は動物愛護運動に取り組むNGOで働く社会活動家に連絡を入れてくれた。翌日、社会活動家は「大統領府の目と鼻の先で檻に閉じ込められる少年――貧困が生んだ惨事」との見出しで、フェイスブックに動画を投稿した。翌日までに約200人が動画を拡散し、瞬く間に約1万2000人が視聴した。

テレビ局の取材を受ける友人(中央)=2017年2月、筆者撮影
テレビ局の取材を受ける友人(中央)=2017年2月、筆者撮影

反響は大きく、目撃から4日後には、「人間奉仕アシュラム」という障害のある児童を対象とする養護施設が少年の保護を申し出てきた。施設の職員は、児童福祉担当の役人と共に少年の両親と話し合い、同意を得て少年を保護した。前後して警察による両親への事情聴取があり、テレビ局や新聞社の記者も駆けつけた。

やむを得ず両親が共に外出する時には、知的障害のある15歳の次男が徘徊(はいかい)し近所に迷惑をかけないよう、彼をプロパンガスボンベを収容するための鉄柵に入れていたそうだ。20歳の長男にも知的障害があるが、徘徊の心配はないのでそばで遊ばせていたという。結局、兄弟は一緒に施設に入所することになり、母親には養護施設内で働けるよう職の提案もあったが、彼女は辞退した。他方、警察は両親を注意、指導するにとどめた。

こうして事態は、わずか4日で望ましい形に急展開した。ここで注目したいのは、友人が「警察はあてにならない」と判断し社会活動家に連絡したことであり、SNSによる情報の拡散によって長年にわたる両親の苦悩が解決したことだ。しかも「人間奉仕アシュラム」は、カトマンズ以外にも当時全国5カ所に支部施設を持っていて、運営費は全額ネパール人の寄付で賄われていた。ネパールのように、世界でも特に開発が遅れている「後発開発途上国」でよくみられる海外からの援助頼みではないのだ。公的支援の仕組みや周知がややもすれば脆弱(ぜいじゃく)なネパールで、人々は互いに助け合う共助のシステムを成熟させ、そこにSNSという新しい媒体がうまく機能しているようだ。「あっぱれ、ネパール市民」ではないか。

余談だがその夜、かの動画は撮影者名と共にテレビ局2社のニュースで放送された。また、第一発見者である私は新聞社の取材を受け、コメントが記事に載った。ネパール訪問を知らせていなかった友人が報道を見て電話をくれ、少し気まずい思いで話すことになった。