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偏食家が探る古代メソアメリカの食生活

できたてほやほやのトルティーヤのうえに、青唐辛子を一本のせて、かぶりつく。これだけを3~4個食べて、お腹が満たされたら、作業員さんたちとサッカー。これが私の若かりし頃の発掘現場での昼休みだった。このように偏食家の私であるが、現在、紀元後9世紀ごろにおきた干ばつと社会変化の関係を、「食」を通じて探るべくメキシコのオアハカ州で国際共同研究を進めている。

トウモロコシ農耕を中心とした生業を営んでいた古代メソアメリカの人々にとって、干ばつが起きた場合、不作が続き、動物も減少し、食べ物や飲み水に困り、栄養状態や健康状態に支障をきたしたのであろうか。私たちは、こうした問題意識のもとに、当時の食生活を復元する研究をおこなっている。そのために、干ばつが起きたとされる紀元後9世紀前後の民衆の住居址を発掘して、炉跡やゴミ捨て場からでてくる植物や動物の痕跡、また出土した人骨の古病理学的な分析や理化学的な分析を進めている。こうした研究は一人ではできないため、形質人類学者や動物考古学者などの力を借りておこなっている。

まだまだ分析の途中ではあるが、トウモロコシやサボテンといった植物、シカやイヌといった陸上動物、貝、魚、カニといった魚介類などが見つかっていることから、古代の人々はさまざまな食資源に囲まれて過ごしていたようだ。私たちが発掘している遺跡は海や川が近い低地にあるので、干ばつが起きたとしても魚介類に頼ることで厳しい干ばつ期をしのぐことができたのかもしれない。カニのハサミが多く検出された炉跡もあることは、単純にカニがおいしかったということかもしれないし、偏食にならざるを得ないほどに食べ物に困っていた状況を示しているのかもしれない。一方で、陸上動物や降雨だけに頼る天水農耕に依存していた高地に住む人々にとって、乾燥した日々は厳しい状況があったかもしれない。とはいうものの、低地にしても高地にしても人々が完全にいなくなったということはなく、人口規模は減少しながらも生き延びたことがわかっている。こうして生き延びた人たちの叡智を、私たちは探り出したいのである。

「食」という人間の基本的営みは考古学や人類学における重要なテーマであり、そうしたテーマに取り組む研究者は概してグルメな方が多い印象がある。現在の研究が私の偏食習慣を正すきっかけになることを期して、研究を続けていきたい。

市川彰(国立民族学博物館准教授)



関連写真

発掘現場で食べる熱々(厚厚)のトルティーヤは格別だ
(筆者撮影、エルサルバドル、2017年)


遺跡(写真左の白い岩肌の見える部分が遺跡の一部)の近くを流れるベルデ川
(筆者撮影、メキシコ、2022年)


その年、最初の雨が降るとでてくるチカターナと呼ばれる羽アリ。これをすり潰して唐辛子などの調味料を合わせたソースは、オアハカの伝統料理のひとつ
(筆者撮影、メキシコ、2024年)