メキシコの死者の日 みな平等に骸骨と戯れる
2025年11月4日刊行
市川彰(国立民族学博物館准教授)
11月1日と2日は、メキシコで「死者の日」として知られている。この日におこなわれる祭りは、奇抜な骸骨の人形や華やかに装飾された祭壇が印象的で国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録されている。映画『リメンバー・ミー』を見て、ご存じの方も多いのではないだろうか。
この祭りは、時期が近いため、しばしば「ハロウィーン」と混同されることがある。しかし、ハロウィーンが収穫祭や悪霊退散のような性格が強い一方で、死者の日は、家族が集まり、故人を偲びながら、生きることの喜びや感謝を分かち合うという性格が強い。日本でいう「お盆」に近いが、死者の日におこなわれる祭りは、何よりもその盛大さと陽気さが特徴である。
死者の日の歴史的変遷には不明な点も多い。一般的には、16世紀にスペイン人がアメリカ大陸に入植する以前、アステカ王国を築いたメシカ人らが執り行っていた死者を死後の世界に導く祭りに起源があるとされる。その後、キリスト教の諸聖人の日(11月1日)および万霊節(11月2日)と融合して、現在のような形になったといわれている。
祭りの象徴は「骸骨」だ。死者の日には、骸骨をモチーフにした飾りや芸術、骸骨メイクと煌びやかなドレスを着た人々が町中を埋め尽くす。骸骨と聞くと気味悪く思われる方もいるかもしれないが、コミカルな骸骨が多く、怖いという雰囲気は微塵も感じられない。死者の日でなくとも、こうした骸骨グッズはメキシコのお土産屋さんに並んでおり、ついつい買ってしまう可愛らしいものも多い。

メキシコ市コヨアカンの街角にて
=2011年11月、筆者撮影
ただし一見楽しげにみえる骸骨には、メキシコの混沌とした歴史が隠されている。象徴的なのが、「カトリーナ」と呼ばれる女性の骸骨である。このカトリーナの起源は、20世紀初頭に風刺画家ホセ・グアダルーペ・ポサダが描いた骸骨の貴婦人にある。この絵は、メキシコ文化を捨て、ヨーロッパの文化を取り入れようとする上層階級の女性を皮肉った風刺画である。ポサダは、近代化が進む中でメキシコ社会が直面していた問題を危惧し「生前の富や権力は死後の世界では無意味」「金持ちも貧乏も死ねば、みんな同じ骸骨」といったメッセージを込めて、骸骨を主題にした芸術を展開したとされる。
そうしたなかで、死者の日の骸骨には、人種や身分といった違いを超えて、みな平等に先人を楽しく弔おうとする思想が読み取れる。現代社会は、ポサダが風刺した20世紀初頭と比べても、むしろ分断や格差が深まっているようにもみえる。死者の日の祭りは、多様な人々が準備や祭りを通じて絆を再認識する場でもある。骸骨は、メキシコの混沌とした歴史を語りつぎ、死者も生者も分け隔てなく、すべての人々を繋ぎとめる役割を果たしているのだろう。
