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月経をめぐる国際開発の影響の比較研究――ジェンダーおよび医療化の視点から

研究期間:2020.10-2024.3

代表者 新本万里子

キーワード

月経、ジェンダー、医療化

目的

月経への対処は、近年、国際開発の分野において女子の就学率の向上、ジェンダー平等、水・衛生環境の向上などの観点から重視され、月経衛生対処に関する政策が、各国で策定、実施されはじめている。また、紙生理用ナプキンをはじめとした「生理用品」がグローバルな市場を通じて流通し、月経への対処に影響を及ぼしている。このように月経は、女性の身体に普遍的な現象として政治・経済の回路を通じて対処される。その一方で、月経の捉えられ方や対処のされ方にはローカルな慣習があり、文化人類学においては、出産や死の不浄などともにケガレとして理論化されてきた。
本研究は、開発介入が世界各地の月経への対処や月経にまつわる文化に与える影響を、ジェンダーと月経の医療化という2つの視点から通文化比較を行うものである。月経への対処が国際開発の対象となったという同時代性から、女性たちの身体と意識に何が起こっているのかを検討する。

研究成果

本共同研究は、これよりも前に実施された科研費による研究(基盤研究(B)「グローバルなアジェンダとなった月経のローカルな状況の比較研究」代表:杉田映理)の後継として、新たなメンバーも加えて企画されたものだった。科研研究が月経衛生対処という開発支援をテーマとしたことと、初潮を迎えたばかりの女子生徒にターゲットを絞ったのに比べて、本共同研究の特徴は、初潮前後、月経のある時期、閉経前後という女性のライフステージ全般を視野に入れて、ジェンダーをテーマとしたところにある。
コロナ禍の影響による延長も含めて3年半に及んだ研究期間のなかで、月経という女性の意思ではままならない身体の現象が、男性も含む社会においてどのように捉えられているのか、具体的な事例が共同研究員より報告された。また、月経に関する文化人類学的研究が比較的少ないこと、その数少ない研究では慣習や観念が扱われており、月経対処の実態や月経対処に使用されたモノへの言及は少ないことが指摘された。
本共同研究のメンバーは、文化人類学を足場にする者だけではなく、開発人類学、政治学、スポーツと開発等を専門とする研究者も含んで構成されている。月経にまつわる現象を課題と捉え、その支援を検討することによってジェンダー平等を目指す報告も行われた。
研究会を通して、月経する身体とその身体をもつ者の意識やライフコースを、月経をめぐるモノと言説という視点から検討することが可能であるという知見を得たことが本研究の成果である。今後は、研究会メンバーの執筆による書籍の出版をめざす。

2023年度

当初、2022年度が最終年度として計画され、書籍出版に向けた話し合いまで含めることを予定していたが、十分な検討を行うことができなかった。今年度は、館内で2回の共同研究会を開催し、各自の執筆内容の発表、議論を行いたい。総合討論を行い、本共同研究の締めくくりとしたい。

【館内研究員】 丹羽典生、松尾瑞穂、諸昭喜
【館外研究員】 秋保さやか、岡田千あき、小國和子、Karusigarira Ian、菅野美佐子、佐藤峰、椎野若菜、杉田映理、波平惠美子、林耕次、村上薫
研究会
2023年12月9日(土)13:00~17:20(国立民族学博物館 第一演習室 ウェブ開催併用)
新本万里子・松尾瑞穂(国立民族学博物館)「出版予定の本の序論について」
論文概要(各自20分)×4 ディスカッション(30分)
波平恵美子(お茶の水女子大学)、村上薫(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所)、松尾瑞穂(国立民族学博物館)、新本万里子(国立民族学博物館)
論文概要(各自20分)×3 ディスカッション(30分)
佐藤峰(横浜国立大学)、諸昭喜(国立民族学博物館)、Karusigarira Ian(政策研究大学院大学)
今後の予定など打ち合わせ
2024年1月20日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第一演習室 ウェブ開催併用)
論文概要(各自20分)×4 ディスカッション(30分)
岡田千あき(大阪大学)・菅野美佐子(青山学院大学)・椎野若菜(東京外国語大学)・秋保さやか(九州産業大学)
論文概要(各自20分)×4 ディスカッション(30分)
杉田映理(大阪大学)・小國和子(日本福祉大学)・林耕次(総合地球環境学研究所)・丹羽典生(国立民族学博物館)
今後の予定など打ち合わせ
研究成果

今年度は、コロナ禍の影響によって研究期間の延長が認められた年度であったとともに、本研究の最終年度でもあった。昨年度までに共同研究員全員の研究発表を一巡していたが、今年度は研究会を2回実施し、共同研究員全員に二巡目の研究発表を行っていただいた。
研究会を通して、月経する身体と女性のライフコースを、月経の医療化・病理化という視点と、月経対処をめぐるモノと身体との関係性という視点から検討することが有効であると思われた。月経の医療化・病理化を扱った過去の研究では、月経をめぐる言説と女性の意識が分析の対象となっている。月経する身体とその身体をもつ者のライフコースを、月経対処をかこむモノと月経をめぐる言説から検討することができるという見通しを得た。

2022年度

本年度は、最終年度にあたる。前年度に引き続き共同研究員による研究発表を行うほか、学会発表等も行い、議論を深めていく。研究会は、5回開催することを計画している。そのち、第1回から第4回までは、韓国、トルコ、ニカラグア、カンボジア、インドネシア、ウガンダ、日本等の事例発表を予定しており、月経教育とジェンダー、生理用品等の商品開発の動きと医療化、男性の視点からみた月経などが焦点となると考えられる。また、医療従事者を招聘し、月経コントロールについて話題提供していただくことを計画している。以上の研究発表を通し、ジェンダーと医療化について多角的に検討していきたい。第5回は、本共同研究のまとめと書籍出版に向けた話し合いなどを予定している。

【館内研究員】 丹羽典生、松尾瑞穂、諸昭喜
【館外研究員】 秋保さやか、岡田千あき、小國和子、Karusigarira Ian、菅野美佐子、佐藤峰、椎野若菜、杉田映理、波平惠美子、林耕次、村上薫
研究会
2022年4月23日(土)9:30~12:30(ウェブ開催)
佐藤峰(横浜国立大学)「ラテンアメリカでの月経対処支援の形を考える――思春期リプロダクティブ教育との関連において――」
鈴木幸子(埼玉県立大学)「日本の月経教育と中学生の月経対処」
打ち合わせ
2022年7月16日(土)13:00~16:30(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ開催併用)
小國和子(日本福祉大学)「インドネシア南スラウェシ農村部における月経衛生対処――公立中学校での教育と支援の事例を中心に――」
杉田映理(大阪大学)「「大阪大学MeWプロジェクト」活動から見た日本のMHM支援」
打ち合わせ
2022年10月23日(日)13:00~16:00(ウェブ開催)
池田裕美枝(京都大学医学部付属病院)医療としての『月経コントロール』in Japan
Karusigarira Ian(政策研究大学院大学)DIVERSIFYING MENSTRUAL HYGIENE MANAGEMENT EDUCATION IN UGANDA: IMAGINING MALE PARTICIPATION AND DEWOMANIZING MHM
打ち合わせ
2023年1月22日(日)13:00~16:00(ウェブ開催)
秋保さやか(明治大学)「カンボジア農村における女性の移動と月経」
新本万里子(広島市立大学)出版企画の提示
打ち合わせ
2023年2月13日(月)13:00~18:00(国立民族学博物館 第5セミナー室 ウェブ開催併用)
書籍に執筆する内容のメンバー間の共有
質疑応答・ディスカッション
打ち合わせ
研究成果

本年度は5回の研究会を実施した。第1回から第4回は、昨年度に引き続き共同研究会メンバーによる研究発表を行ったほか、看護学の専門家、医療従事者も招聘し、日本の月経対処や月経教育、月経コントロールについても話題提供をしていただいた。第5回は、出版にむけて執筆内容の共有を行った。このほか、日本文化人類学会第56回研究大会において分科会を実施した。これらを通し、月経をめぐる医学的な知識や教育、月経対処に使用されるモノが、月経への対処や月経に対する意識、女性たちのライフコースのあり方を変えうるという論点がでてきている。
今年度が最終年度となる予定だったが、コロナ禍の影響による遅れのため来年度に継続されることが決まった。来年度は、出版にむけて研究成果のとりまとめを行う。

2021年度

本年度は、4回の研究会を開催する予定である。第1回は、トイレや生理用品、水などの物理的環境と月経対処の関係について研究発表を予定しており、国際開発のもたらす衛生観とローカルな月経観について議論を行う。第2回は、生殖や閉経という女性のライフステージ上の問題に焦点をあて、第3回は、月経とスポーツや、月経をめぐる配慮と排除の言説などの研究発表を計画している。第2回と第3回を通して、ジェンダーと月経の医療化に関わる議論を行う。第4回は、発展途上国で月経衛生対処に関わるプログラムを実施しているNGOから講師を招き、プログラムの実施内容や成果を共有していただくほか、共同研究員によるNGOの活動と影響に関する研究発表も行う。この他、昨年度からの繰り越しになった研究会を1回開催する計画であり、開発実践者の立場から課題を共有していただく。これらの研究会を通して、開発介入が月経にまつわる文化に与える影響について議論を深めていく。

【館内研究員】 丹羽典生、松尾瑞穂、諸昭喜
【館外研究員】 秋保さやか、岡田千あき、小國和子、Karusigarira Ian、菅野美佐子、佐藤峰、椎野若菜、杉田映理、波平惠美子、林耕次、村上薫
研究会
2021年6月5日(土)13:00~16:00(ウェブ開催)
林耕次(総合地球環境学研究所)「月経をめぐる文化と文明:アフリカ熱帯のサニテーション事情を中心に」
松尾瑞穂(国立民族学博物館)「月経の禁忌の語り方――女人禁制や隔離はどう説明されるのか」
打ち合わせ
2021年8月11日(水)15:00~17:30(ウェブ開催)
椎野若菜氏(東京外国語大学)「 アフリカの男女学生の性・生理の知識――ケニア・ウガンダでの調査から」
岡田千あき氏(大阪大学)「月経・スポーツ・開発をめぐる四方山話」
2021年10月23日(土)14:00~17:00(ウェブ開催)
新本万里子(広島大学)「月経をめぐる教育と知識――パプアニューギニア・アベラムの事例から」
丹羽典生氏(国立民族学博物館)「オセアニアにおける生理への対処に関する民族誌的試論」
打ち合わせ
2021年12月11日(土)14:00~17:00(ウェブ開催)
菅野美佐子(青山学院大学)「月経対処への政府/非政府組織の取り組み」
浅村里紗(公益財団法人ジョイセフ)「ミャンマー国エヤワディ地域の公立学校における月経教育の効果の考察」
打ち合わせ
2022年2月23日(水)9:30~12:30(ウェブ開催)
諸昭喜(国立民族学博物館)「韓国女性の月経権をめぐる動きとジェンダー問題」
村上薫(日本貿易振興機構アジア経済研究所)「トルコにおける月経観と更年期の語り方」
打ち合わせ
研究成果

今年度は、5回の研究会を実施した。メンバーの関心に沿って、第1回は、カメルーン共和国のピグミー系狩猟採集民における月経時の行動規制とサニテーションの導入、インド・ヒンドゥー社会における月経の禁忌をめぐる近年の言説について報告が行われた。第2回は、ケニアとウガンダにおける性と生理の知識のジェンダー差に関する報告と、スポーツと月経に関する課題について報告が行われた。第3回は、オセアニアにおける月経対処について民族誌から抽出した事例の比較検討と、パプアニューギニアにおける月経教育と知識に関する報告が行われた。第4回は、国際開発をテーマに、インドにおける政府・非政府組織の取り組みと月経対処の実態について、また、公益財団法人ジョイセフの浅村里紗氏を講師としてお招きし、ミャンマーにおける開発支援の実践例を伺った。第5回は、韓国における月経権の問題をフェミニズムの視点から取り上げた報告と、トルコにおける更年期の語りを女性の身体の医療化という視点から取り上げた報告が行われた。

2020年度

今年度は初年度となり、2020年10月から2021年3月までの間に研究会を2回開催する。第1回は、本共同研究に先行する科学研究費補助金によるプロジェクト(基盤B 代表:杉田映理)により明らかになったことを踏まえ、共同研究の枠組みを確認する。共同研究の趣旨を代表者から説明するほか、メンバー全員の自己紹介、共同研究に関する各自の関心、課題を共有する。第2回は、メンバーによる研究報告を行うほか、開発支援の実践者として活動している方を招聘して話を伺い、今後の議論のベースをつくる。

【館内研究員】 丹羽典生、松尾瑞穂
【館外研究員】 秋保さやか、岡田千あき、小國和子、Karusigarira Ian、菅野美佐子、
佐藤峰、椎野若菜、杉田映理、波平惠美子、林耕次、村上薫
研究会
2020年11月21日(土)10:00~12:00(ウェブ会議)
新本万里子(広島大学)共同研究会の趣旨説明
出席者全員 自己紹介・共同研究に関する各自の関心の共有
2021年2月23日(火)10:00~12:30(ウェブ会議)
杉田映理(大阪大学)「生理ブーム?――月経をめぐる世界各地の新たな動きと開発支援」
波平恵美子(お茶の水女子大学)「月経におけるケガレ観(不浄性についての観念)と女性の生殖機能についての観念」
研究成果

初年度の2020年10月から2021年3月にかけて、2回の研究会を開催した。第1回は、代表者から研究会の趣旨を説明したほか、メンバー全員がこの研究会への関心を述べて、各自取り組む予定の課題を確認した。
第2回の研究会では、杉田が、月経衛生対処が開発アジェンダとなった経緯と月経をめぐる近年の産業界の動向を報告した。また、波平が、月経のケガレに関わる文化人類学的研究の理論的展開を報告した。これら報告と全体討論を通じて、二つの報告を月経の可視化/不可視化という言葉でつなぐことができることを確認し、今後の議論のベースを作ることが出来た。