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「描かれた動物」の人類学――動物×ヒトの生成変化に着目して

研究期間:2020.10-2024.3

代表者 山口未花子

キーワード

動物、描くこと、生成変化

目的

人はなぜ「動物」に惹かれるのか?レヴィ=ストロース(2001)が指摘するように、動物との直接的な関わりが希薄になった現代においても私たちはなぜ子供が生まれるとすぐ動物の絵本や玩具を与えるのか?これらの問いに生成変化としての「描かれた動物」が人と動物との「あいだ」の回路を開くとともにこれまでに知覚できなかったものを知覚させるものであるという可能性を検討することで迫るのが本研究の目的である。このためまず①動物をどのように知覚し、、②何によって描写するのか、③なぜ描写するのか、④描写、あるいは描写された動物はどのような場で生成し、誰に必要とされるのかという4つの問いを具体的な事例を検討することによって、重なりや空白も含めた動的なものとして捉えなおす。さらにより深くこの問題に取り組むため、他者とともに「生成変化」する人類学の手法(インゴルド)によってドゥルーズ&ガタリの提示した「動物との間に生じる生成変化によって新しい次元を開くもの」としての「動物描写」を検討する。具体的には描き手である人と、描かれる動物との間の動的な生成過程を再現し、「動物を/で/と/描く」という行為のなかで何が立ち現れるのかを身体経験や認知科学の知見を援用しながら明らかにすることでこれらの問いについて考察し新たな動物理解の地平を開拓することを目指す。

2023年度

本年度は共同研究会全体の総括をし、成果出版にむけて2回の研究会を開催する予定である。
第一回共同研究会では、出版に向けてこれまでの研究会の議論を振り返り、「イメージとリアル」「物質生と象徴性」内発性と外発性」「個と集団」という4つのテーマと視覚芸術、言葉による描写、歌と踊りという3つの描写の形式の違いを見ることから浮かび上がったいくつかの論点、例えば動物を描くことが動物への理解を深めることや、キマイラのような存在が様々な地域・場面で生成するプロセスなどについての議論を深めるとともに、理論的枠組である「動物への生成変化」「とも関連付けることで成果報告の方向性を示し、各自の担当を決める。さらに第2回共同研究会では、メンバー全員が各自草稿を持ち寄り、合評開会形式で開催する。

【館内研究員】 山中由里子
【館外研究員】 石倉敏明、大石侑香、小田隆、COKERCaitlin、齋藤亜矢、管啓次郎、菅原和孝、竹川大介、長坂有希、西澤真樹子、丹羽朋子、盛口満、吉田ゆか子
研究会
2024年2月26日(月)10:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
成果出版に関する打ち合わせ(全員)
「取り残された動物になる 原発事故後の表現実践から」丹羽朋子(国際ファッション専門職大学)
成果出版に関する打ち合わせ(全員)


2022年度

これまでにテーマ別に検討した議論を踏まえ、より実践的な場面に注目した研究会を開催したうえで、これまでの議論と実践の場での生成を有機的に関連させる形で総括をおこなう。具体的には、第一回研究会では、視覚芸術としての動物描写として博物画、絵画、写真、マンガなどの表現を取り上げる。第2回研究会では、言葉で動物を表すことについて、詩や文学、神話、短歌、動物との会話について検討する。第3回研究会では歌と踊り、について、世界各地の音楽や踊りの中でも動物とのコミュニケーションのための音楽や人間同士が動物の表象を使って結びつくような音楽、そしてどのような自然/暮らしの中でそうした音楽が生まれたのかという点について検討する。第4回の研究会では、なぜ人々は動物を描くのかということとともに描かれた動物によって、以下に動物や自然を知り、つながりが生成するのか、という点を中心に議論を総括し、成果のとりまとめや研究の継続についても議論する予定である。

【館内研究員】 山中由里子
【館外研究員】 石倉敏明、大石侑香、小田隆、COKERCaitlin、齋藤亜矢、管啓次郎、菅原和孝、竹川大介、長坂有希、西澤真樹子、丹羽朋子、盛口満、吉田ゆか子
研究会
2022年5月15日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ開催併用)
特別展視察
山口未花子(北海道大学)「趣旨説明」
盛口満(沖縄大学)「動物を見る、描く、伝える」
小田隆(京都精華大学)「動物描写における資料の活かし方」
五十嵐大介(漫画家)「なぜ動物を描くのか」
竹川大介(北九州市立大学)「コメント」
討論
2022年9月1日(木)13:00~18:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ開催併用)
山口未花子(北海道大学)「趣旨説明」 
菅原和孝(京都大学名誉教授)「グイ・ブッシュマン動物を語る――身ぶりとことばの協働」
西江仁徳(京都大学)「来たるべき動物記のために――新・動物記シリーズの構想と実践」
管啓次郎(明治大学)「動物詩? 実例と実作」
討論
2022年11月26日(土)10:00~18:00(ウポポイ・国立アイヌ民族博物館/北海道大学)
ウポポイ、国立アイヌ民族博物館見学と意見交換
コンサート「アイヌと縄文の歌と踊りに見る動物たち」(於:北大クラーク会館)の見学
2022年11月27日(日)13:00~18:00(ウポポイ・国立アイヌ民族博物館/北海道大学)
山口未花子(北海道大学)「趣旨説明」「動物にうたう歌、動物として舞う踊り:カナダ・ユーコン準州の2つの先住民社会における事例から」
サリントヤ(北海道大学)「モンゴル牧畜社会における動物と人の音によるコミュニケーション」
瀧本彩加(北海道大学)「コメント」
石倉敏明(秋田公立美術大学)「獣頭芸能に見る複数種の想像力」
討論
2023年3月2日(木)13:00~18:40(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
山口未花子(北海道大学)・「趣旨説明」
鴻池朋子(アーティスト)「みる誕生」
ケイトリン・コーカー(北海道大学)「踊りの思考法」
今貂子(舞踏家)「生きている舞踏の経験」
討論
研究成果

本年度は4回の研究会を開催した。本年度の研究会全体を通して、実際に動物描写のプロセスに着目し、そこに何が生成するのかを明らかにすることを目標とした。第1回研究会では動物描写の中でも視覚芸術について取り上げ、生物画や漫画を描くときに生じる情動や、描く過程で対象への理解が深まる様子や、視覚的な動物イメージが見た人に与える感覚などについて議論した。第2回研究会では言葉による表現をとりあげ、言葉が動物というものを描きだす可能性について、ブッシュマンの口頭伝承、生物学的記述、詩という異なる形式を持つ言葉の生成という観点から検討した。第3回研究会では北海道で開催し、その土地の自然と描写の結びつきに着目し、アイヌと縄文の音楽の実演と、演奏者も交えた議論をおこなった。そのなかで、動物と人の関係を調律するような音楽の作用とともに、動物のイメージが人間集団を象徴し紐帯を生み出すような作用を持つことなどについて考察を深めた。最後の4回研究会では、本共同研究の大きなテーマである「動物になること」について舞踏家とアーティストの実践を通じて検討し、描写をおこなうことが生成変化をもたらすという点を再確認した。

2021年度

第3回共同研究会では「イメージとリアル」をテーマとし、怪異、幻獣など想像上の動物、古生物の復元、生き物の絵といった具体的な事例から動物をどのように捉えているか、近くしているかを考える。
第4回共同研究会では「物質性と象徴性」をテーマとし、動物の身体を用いたモノ(標本、毛皮製品、アート)、動物の身体を用いないモノ(絵画、彫刻、工芸品)、物質性を持たない表現(言葉、映像、音楽)を比較することで何によって動物を表すのか、その違いがなぜ生じるのかを検討する。
第5回共同研究会では「歌と踊り」というテーマのもと舞踏、バリ芸能、伝承される歌、ポピュラー音楽について実践を交えて検討する。また、アイヌ文化の伝承者を講師として招聘し、アイヌ音楽や舞踊における動物描写についてその文化的背景、北海道に生息する動物との関係などと関連づけながら検討するため、北海道での開催とする。
第6回研究会では「内発性と外発性」をテーマとし、書きたいから描く、市場の要求、文化や状況の要請、描かれる(た)ものを所有したり鑑賞したりすることの欲求などを検討することでなぜ人は動物を描くのか考察する。

【館内研究員】 山中由里子
【館外研究員】 石倉敏明、大石侑香、小田隆、COKERCaitlin、齋藤亜矢、管啓次郎、菅原和孝、竹川大介、西澤真樹子、丹羽朋子、盛口満、吉田ゆか子
研究会
2021年7月2日(金)13:00~17:00(ウェブ開催)
山口未花子(北海道大学)「趣旨説明――想像上の動物と実在の動物を描くことから比較する」
山中由里子(国立民族学博物館)「人はなぜ想像界の生きものを描くのか?」
長谷川朋広(JP GAMES)「モンスターデザインと生き物たち」
小田隆(京都精華大学)「見られないものを可視化する――古生物復元という営み」
全体討論
2021年7月3日(土)10:00~14:00(ウェブ開催)
盛口満(沖縄大学)「描かれた動物――学校という場から考える」
齋藤亜矢(京都芸術大学)「動物を描く心、精霊を描く心の起源」
妙木忍(東北大学)「コメント」
全体討論「今後の予定について」
2021年9月9日(木)13:00~18:00(ウェブ開催)
山口未花子(北海道大学)「趣旨説明――動物描写を物質性から考える」
西澤真樹子(大阪市立自然史博物館)「博物館の動物標本は何を語るのか」
大石侑香(神戸大学)「西シベリア・ハンティの動物文様:種による表現の差異」
吉田ゆか子(東京外語大学)「バロンにおける動物表現の物質性」
長坂有希(香港城市大学)「制作を通して動物たちとつながりを持つこと――彼らが同志、師、守護者になるとき ――」
根本裕子(陶芸家)「土でかたどる生き物と感情」
全体討論「今後の予定について」
2021年12月12日(日)13:00~18:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ開催併用)
山口未花子(北海道大学)「趣旨説明――なぜ動物を描くのか、内発性と外発性」
竹川大介(北九州市立大学)「アールブリュットにおける動物表象と製作現場――北九州障害者アートの事例から」
伊藤詩織(映像ジャーナリスト)「コメント」
質疑応答
フィールドからの報告
大石侑香(神戸大学)「<好きな動物>と<好きな毛皮>」
菅原和孝(京都大学名誉教授)「動物の視点から人を見る――カラハリ狩猟採集民グイの語りから」
竹川大介(北九州市立大学)「ソロモン諸島のデザインや彫刻」
山口未花子(北海道大学)「ユーコン先住民の視覚芸術と口頭伝承」
吉田ゆか子(東京外国語大学)「バリの芸能と動物」
丹羽朋子(国際ファッション専門職大学)「中国切り絵の動物たち」
討論と今後の計画
2022年3月13日(日)10:00~17:30(国立民族学博物館 第7セミナー室 ウェブ開催併用)
展示視察
山口未花子(北海道大学)「趣旨説明」
石倉敏明(秋田公立美術大学)「キメラ的抽象性――『個』と『群』をつなぐ共異体の想像力」
大小島真木(アーティスト)「描線のミメーシス」
山極寿一(総合地球環境学研究所)「ゴリラとともに描く」
竹川大介(北九州市立大学)「コメント」
討論
2022年3月14日(月)10:00~12:00(国立民族学博物館 第7セミナー室 ウェブ開催併用)
斎藤亜矢(京都芸術大学)「遊びからアートへ」
長坂有希(香港城市大学)「コメント」
討論と今後の計画
研究成果

今年度は4回の研究会を開催し、それぞれ描かれた動物について①実在と非実在、②物質性を持つ描写、持たない描写、③描写の内発性と外発性、④個と集団という観点から検討した。
このなかで、動物描写のリアルさが動物を実際に観察し、理解することで深まる一方で、想像上の動物を生む土壌にもなることが確認された。さらに実際の動物の身体の素材や、粘土などのモノを手でさわったり組み合わせたりすることで、新たな描写が展開していくような、モノとの間の生成変化が重要であるという点も指摘された。また、人が初源的にもつ動物への内発的な関心が、集団に共有される中で外発性を帯びること、また人だけでなく動物自身とともに描いたり、描いたものを受容する可能性など、各回の検討項目が有機的に結びついていくような議論を展開することができた。
こうした議論をさらに深めるため、来年度は実際に描写する実践者を中心にした研究会によって、動物を描く際にどのような生成変化がおこるのかを、描写の形式の違いに注目しながら追っていく予定である。

2020年度

1年目の2020年は民博での1回の研究会、及びオンラインでの研究会を開催する。第一回目の研究会では動物とはどのような存在か、描くとはどのような行為なのかを概観したうえで、研究会の射程や進め方、メンバー間の役割分担と連携を確認する。また民博の展示を見学し、動物モチーフのものを探索、検討する。さらに、オンラインの研究会を開催し、ドゥルーズ &ガタリの『千のプラトー』とその関連文献や映像、インゴルド のアートや動物に関する著作、 “Animals into art”などの文献を読み、人と動物の間に生じる生成変化を人類学の方法によって捉え直すための理論的背景を研究会のメンバーで共有する。

第1回:動物を/で/と/描く
山口未花子「共同研究の趣旨説明、今後の計画」
全員「自己紹介と研究会の中での役割について」
民博の展示における「描かれた動物」の見学と比較検討

第2回:動物を描くこと、描かれた動物、と生成変化
山口未花子他:関連文献の検討

【館内研究員】 山中由里子
【館外研究員】 石倉敏明、大石侑香、小田隆、COKERCaitlin、齋藤亜矢、管啓次郎、菅原和孝、竹川大介、西澤真樹子、丹羽朋子、盛口満、吉田ゆか子
研究会
2020年11月8日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第3セミナー室 ウェブ会議併用)
特別展「先住民の宝」の見学(全員)
山口未花子(北海道大学)「趣旨説明:「描かれた動物」共同研究の目指すもの」
民博展示における「描かれた動物」の調査(全員)
各共同研究者のテーマ発表と研究会の展望についての全体討論(全員)
2021年3月9日(火)13:00~17:30(ウェブ会議)
山口未花子(北海道大学)「ドゥルーズ &ガタリ著『千のプラトー』第十章における芸術・あいだ・動物と人類学」
番匠美玖(北海道大学)インガ・ボレイコ(北海道大学)・前田雄亮(北海道大学)・加賀田直子(北海道大学)・田中佑実(北海道大学)・ケイトリン・コーカー(北海道大学)「『千のプラトー』キーワード解説」
菅原和孝(京都大学名誉教授)「〈動物になること〉の触発:D坂の怪事件」
管啓二郎(明治大学)「ドゥルーズ「と」ガタリの「と」とともに」
全体討論 
次年度の計画についての打ち合わせ
研究成果

初年度である今年は、2回の共同研究会を実施した。第1回研究会では、趣旨説明とメンバーによる研究紹介を行い、今後の研究計画についての方針を定めた。
第2回研究会では、理論的支柱の一つとしてドゥルーズ &ガタリの『千のプラトー』を読み、3つの点、1)今日の哲学や人類学における世界の見方の基盤となる“様々な存在ととともに世界を作り続ける人間”という視点につながる脱領土化とリゾーム的なつながりの重要性、2)人間と人間以外の存在をつなぐ中間に動物がいるということ、3)動物との間の生成変化として芸術を取り上げることで具体的なイメージを共有することが可能になること、を確認した。また菅原は「人」や「動物」といったカテゴリの同一性を検討する必要を認めた上で、コミュニケーションの基盤を手放す危険な行為になりかねない点に留意する必要とともに、生成変化の生じる此性では未来における原因ではなく準=原因となりうることを指摘した。これに続く討論ではテキストとの間を反復しながら研究会の議論を深めるという方向性が示された。