動物保護時代における文化システムとしての鵜飼の全面解明と「最適継承ルート」の共創 (2020-2024)
科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B)
代表者 卯田宗平
目的・内容
本研究の目的は、日本各地の鵜飼を対象に、技術や歴史に関わる民俗誌的記述と動物利用をめぐる課題検討を通して、日本の鵜飼文化の特質と地域性を明らかにし、そのうえで鵜飼文化の最適継承ルートを共創し、成果を還元することである。具体的には、①日本各地の鵜飼文化(鵜飼の技術や歴史、物質文化、流通、食文化などを含む)をフィールド調査によって明らかにし、②地域間比較の視点から各地の鵜飼の共通性と固有性、違いを生みだす要因を導きだす。そのうえで、③中国の鵜飼文化との対比から日本の鵜飼文化の特質を明確にする。最後に、④各地の鵜飼関係者らとともに各地が抱える事情を考慮した文化継承の道筋を検討し、その成果を共有する。本研究は、日本の鵜飼文化の全面的な解明を通して人・動物関係をめぐる人類学の議論に新たな事例と見解を提示する点に学術的な意義がある。
活動内容
2022年度実施計画
2022年度は、以下の2つの計画を立てている。第一は、本年度は広島県三次市、愛媛県大洲市、和歌山県有田市、福岡県朝倉市の鵜飼を取りあげ、鵜飼の技術や知識、物質文化、社会組織などに関わる調査を実施する。第二は、そこでの調査結果を整理し、三地域の比較検討を進めるとともに、鷹狩り文化などとも比較することで技術や物質文化の共通性と固有性を導きだす。そして、一連の調査結果をまとめた『鵜飼の日本史』(仮)のとりまとめ作業をおこなう。
2021年度活動報告
2021年度事業継続中
2020年度活動報告(研究実績の概要)
2020年度は、現地フィールド調査の機会が限られるなか、おもに広島県三次市の三次鵜飼を対象とし、鵜飼で使用されている鵜舟や鵜籠、竹竿、魚籠、手縄といった物質文化の測量、江の川で生業としておこなわれていた時代の資料収集、日々の操業場所と状況を記した「漁日誌」などの記録の収集と整理をおこなった。また、江の川において生業として続けられてきたアユ刺し網漁に関する「年別漁獲量」資料を整理し、鵜飼い漁と同じくアユを狙う刺し網漁の歴史的な変容も把握できた。2020年度に収集して整理した資料は、2021年度以降に実施する日本列島の鵜飼に関わる地域間比較研究のための基礎資料とすることができた。
このほか、今年度はこれまで日本や中国、北マケドニア共和国で実施してきた一連の鵜飼研究の成果をまとめ、鵜飼が成りたつ原理や動物利用の論理を明らかにした内容を単著としてまとめ、2021年度出版の見通しを立てた。さらに、2020年度は鵜飼に関わる各個研究から展開した成果を論集としてまとめ、『野生性と人類の論理』(東京大学出版会)として2021年度出版の見通しを立てた。
2020年度活動報告(現在までの進捗状況)
2020年度は当初から新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、本来実施する予定であった日本国内フィールド調査のうち二か所がおこなえず、想定していた一次資料を得ることができなかった。ただ、当該地域の鵜飼に関する文献資料を収集し整理したため、2021年度以降に実施するフィールド調査の基礎資料を準備することはできた。