Select Language

第二次世界大戦後のケニアにおける越境性動物疾病対策と国家統治の変容(2020-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|特別研究員奨励費

代表者 楠和樹

目的・内容

本研究ではアフリカで越境性動物疾病の対策が策定、実施されているという状況に着目する。越境性動物疾病とは、国境を越えて急速に広がる可能性がある感染症のことであり、口蹄疫や鳥インフルエンザなどが含まれる。これらの感染症の存在は以前から知られていたものの、世界人口の急激な増加や、グローバル化による人間、動物、モノの移動の促進を背景として、そのリスクに対する関心が高まっている。さらに、近年の文化人類学ではこれらの感染症の対策において人間と非人間の動物の生存と健康や、それらに関する知識がどのように「もつれあっている」のかへの関心が高まっている。本研究では、ケニアの牛疫対策を事例として越境性動物疾病対策が策定され、実施される過程で人間と非人間がどのように「もつれあっている」のかを明らかにすることを試みる。それによってこの地域の国家を非人間を含む生き物の集合的な統治という視点から捉えなおしていく。

活動内容

2022年度実施計画

2021年度は新型コロナウイルス流行のため予定されていた現地調査を見送り、現地の調査補助機関に資料の収集を依頼し、その整理と分析に集中した。今年度は引き続きその作業をおこないながら、ケニアの牛疫対策について現地調査を実施する。帰国後はその分析と並行して、これまでの研究を成果としてまとめる作業に取り組んでいく。

2021年度活動報告

2021年度事業継続中

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本年度は現地の調査補助会社を通じて収集された資料をもとに、20世紀初頭から1960年代までのケニアにおける牛疫対策の変遷を分析した。
牛疫はもっとも危険な動物感染症のひとつであり、ヨーロッパ諸国では18世紀以降大規模な流行が繰り返されていたものの、獣医師の養成や国際会議の開催などの対応が整備された結果、20世紀初頭までにはほぼ撲滅されていた。それに対して、ケニアをふくむアフリカの国々に牛疫のウイルスが到来した時期は比較的遅く、その制圧にもより多くの時間がかかった。牛疫はケニアで19世紀末からたびたび発生し、2001年に最後の事例が報告されるまで、とくに家畜への依存度の高い生活を送っていた牧畜民に深刻な被害をもたらしていた。2011年にFAO(国際連合食糧農業機関)が世界的な撲滅を宣言するに至るプロセスは、従来は科学研究と国際的な取り組みの協調が推進される単線的なナラティブとして位置づけられてきた。それに対して、本研究ではその制圧に向けた制度が知識がどのように形成されたのかという点に焦点を当て、とくに第二次世界大戦後に構築されたIBED(アフリカ動物感染症局;現在のAU―IBAR(アフリカ連合・動物資源局))を中心とした国際的な技術援助の枠組みについて検討した。また、ケニア南部のカジァド・カウンティでは聞き取り調査もおこない、過去の流行時の状況や、ワクチン接種などの対策の受け止めかたなどについて口述資料を収集した。この調査は現時点では予備的な段階に留まっているが、次年度以降は牛疫対策が推進されるなかで牧畜民の家畜や環境との関係、文化、宗教的な信念が総体的にどのように再編されていったのかという点について、フィールドワークによってより詳しく検討していきたいと考えている。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

2020年度はイギリスとフランスにおける史料収集と、ケニアでの現地調査を予定していたが、新型コロナウイルスの流行の継続と個人的な理由のため、断念せざるを得なかった。そこで、当初の計画を変更し、現地の調査補助会社に過去の牛疫対策に関する調査請負を依頼し、資料を収集、整理した。また、イギリスについては調査を予定していた国立公文書館が電子化されたアーカイブの一部をオンラインで提供しはじめたことで、入手可能な範囲で必要な史料を収集、分析することができた。