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ネワール低カースト女性の儀礼実践とその変容に関する宗教人類学的研究(2020-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|特別研究員奨励費

代表者 工藤さくら

目的・内容

申請者の研究目的は、ネパールのネワール社会において、低カーストの諸実践がどのような社会背景で行われ、変化しているのかを検討することを通して、儀礼実践における女性の主体性について明らかにすることである。低カーストとは、ネワール社会において不浄カーストに位置づけられ、不浄および不可触民として抑圧されてきた人々を指す。本研究では、低カーストの儀礼実践とその変化を検討するうえで、現代ネワール社会における低カースト女性の諸実践についての民族誌的資料の収集、および、既存の儀礼実践に関する資料の収集を行い、出家式に参加する人々の文化的背景について検討する。具体的には、当該社会でフィールドワークを行い、その実態を明らかにする。そして、女児の儀礼実践の志向において、親、女性親族、あるいは低カースト・コミュニティの女性の意向が、どのように影響しているのかを女性の主体性という観点から論じることを目的とする。

活動内容

2022年度活動報告

2022年度は、令和2年度に実施ができなかった海外調査の実施、さらに今年度に予定していた海外調査を実施した。まず、海外調査では、ネパールのネワール社会に見られる人生儀礼の動向について明らかにするため、カトマンドゥ市内に在するダルマキールティ尼僧院と周辺居住地を中心に調査を行なった。ここから得られた見知として、当該社会における人生儀礼の変化という点では、尼僧院におけるテーラヴァーダ様式の導入のみにとどまらず、自治体のコミュニティセンターや、「婦人会」などの自助会の単位でも提供さていることが分かった。費用をかけない手段の提供の背景には、伝統的な人生儀礼を行なった場合にかかる費用が結婚式の次に高額であるという点が影響していると考えられる。このような変化に呼応するように異なる形式の儀礼提供が登場していることが推測される。宿泊を伴う人生儀礼の実施は、特に尼僧院においては新型コロナの蔓延期の2020年4月から2023年6月まで全く実施されなかった。そのことは尼僧院における運営費にも影響を与えた。このような尼僧院における変化に伴い、当該社会の住民の反応として、社会が再び動き始めた2021年頃から、尼僧院ではない場所での代替儀礼の実施が各地の自治体等で取り組みとして行われれ始めたことが分かった。特に、女児の儀礼は出血を伴い、ケガレ観の観点から適当な年齢が重要視されているため、喫緊の受容に応える形で人生儀礼が提供されるようになったことが考えられる。今後の課題として、コロナ後の1年間の参加者名簿の調査を行うことにより、儀礼実施者の推移がどのように、他の儀礼実施に移行していったか明らかにすることができると考える。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

申請者の研究目的は、ネパールのネワール社会において、低カーストの宗教的な諸実践がどのような社会背景のもとで行われ、変化しているのかを検討することを通して、女性の主体性にどのような影響を与えているのかを明らかにすることである。本研究では、フィールドワークによる現地調査を用いて、1.低カースト女性の宗教的な諸実践の現状についての民族誌的資料の収集を行う。これにより、これまでの研究では明らかにされてこなかった現代ネパール社会における低カーストの宗教実践について精査する意義がある。そして、2.実践の変化とその背景についての検討を行うことで、女性の主体性に関わる問題を明らかにすることを目的としている。
海外渡航を伴うフィールドワークによる民族誌的資料の収集は、新型コロナウィルス蔓延による影響から行うことができず、これを受けて国内における調査に切り替えて研究を行った。
令和3年度は、低カーストの人びとの儀礼実践にかかわる調査のなかでも、子供の人生儀礼に関する家族や共同体、社会組織の影響について重点的に調査を行った。国内調査では、滞日ネパール人コミュニティのなかで行われる人生儀礼についてアンケート調査を行った。また、これらのデータの情報整理と分析を行った上で、対象者に対面でのインタビュー形式の聞き取り調査を行い、社会面・経済面についてのより詳細なデータを得ることができた。また、これまでの研究をふまえ研究会・セミナーでの発表を行った。これにより、国際的に展開するテーラヴァーダという文脈での社会的な影響や、人生儀礼における宗教面の影響力という点についても専門家らと貴重な情報を共有をすることができた。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

これまでの進捗状況については、以下の通りである。申請者の研究目的は、ネパールのネワール社会における、低カーストの宗教的な諸実践についての実態を精査することを通して、女性の主体性への影響を明らかにすることである。本研究の達成においては、対象地域におけるフィールドワーク調査が必須であるが、新型コロナウィルスの影響により、計画通りに調査を行うことができない状況が生じた。令和2年度には、本研究の基礎研究となる計3ヶ月間のフィールドワーク調査を予定していた。主に、低カーストの初潮や生理にかかわる行為や実践についての聞き取り調査、次いで、テーラヴァーダ尼僧院における出家式の参加者を対象とした調査、そして、現地の民族協会での制度・政策についての具体事例の聞き取りであった。これらは、低カーストの諸実践についての実態を把握する上で必要不可欠となる基礎的なデータである。しかしながら、新型コロナウィルスにより海外渡航が禁止されたため、海外調査の繰越申請を行った。さらに、医療緊急事態や蔓延防止規制により国内における移動に制限が出たため、対面を伴う国内調査は見送った。一方で、研究推進のための資料整理については、主に先行研究の批判的考察を重点的に行うことで研究をすすめた。
令和3年度は、前年度の成果をふまえフィールドワークの継続とデータ分析を進める予定だったが、国内調査に切り替えて研究をすすめた。特に、子供の人生儀礼にかかわる家族や共同体、社会組織の影響についてを明らかにする目的で、滞日ネパール人コミュニティを対象に、家庭で行われる人生儀礼についてのアンケート調査と、それに基づくインタビューを行った。これにより、滞日ネパール人世帯における儀礼実践の様相について貴重なデータを得ることができ、比較としてネパールに住む世帯の認識とどれほど相違があるかを検討するためにも意義があると考える。

2020年度活動報告

2020年度事業継続中