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ケアから見たベルリンのネイバーフッドに関する民族誌的研究(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)

森明子

目的・内容

本研究は、ベルリンのインナーシティのネイバーフッドを、ケアという視点から記述し分析する。ネイバーフッドは1970~80年代にこの地区の社会運動を牽引するスローガンだった。現代のネイバーフッドは、当時のプロジェクトに由来するものがある一方で、その活動内容は変化している。本研究では、それを公的なものと私的領域の関わり方という観点からとらえ、その推移のなかでケアの発動がどのように起こっているのか記述する。ケアは、自立した近代的個人のモデルから逸脱する事象に注目する議論である。そこでは、境界を侵犯し、身体に介入し、制度からはみ出す行動が追認される。その場その場でセッティングを調整し事態を修復するケアの記述と分析を通して、現代都市の市民的共同性として想像されているものは何か、それはどのようなかたちで実現されるのか見通すことを目的とする。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、移民が多く住むベルリンのインナーシティをフィールドとして、現代都市の街区の社会的連帯を、ケアの視点から記述する民族誌研究である。現代世界における市民的共同性として想像されているものを明らかにすることを目的としている。当初予定していた現地調査は、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、前年度にひきつづいて困難であった。そのため、計画を部分的に変更して、理論的な研究を当初計画よりも深化させる方向ですすめている。
本年度は、オンラインで入手した新しいデータと、これまで行った現地調査で蓄積したデータをあわせて、グローバル化する世界における社会編成やケア論を洗い直し、再分析をすすめた。ケアの与え手と受け手の関係は、サービスのやりとりとしてだけでみるならば、平等ではありえないが、ケアのメカニズムは、この不平等な関係をヒエラルキーとして固定化させないことが特徴的である。経済的な不平等関係を、社会的な不平等関係として固定化させないメカニズムは、どのように作動し、あるいは、どのような状況で作動しないのか。このことを、さまざまなアクターのあいだに、どのようなからみあいが起こっているのかということから、明らかにしていこうとする。そこで、調査地街区の開発当初から所在する市場複合体の、21世紀にはいってからの再編成がどのように展開していったか、その過程を民族誌的に明らかにすることに焦点をあてる。再編計画をめぐる議論、運営と利用、その評価について、さまざまなアクターがどのように出会い、からまりあっているのか、分析をすすめた。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウィルス感染拡大のために、予定していた現地調査ができなかったことによる。現地調査に代わって、オンラインによって現地の情報を収集することにつとめた。また、これまで収集した調査データを洗い直し、再分析した。また、ケア、アッセンブラージュ、不平等、部分的連帯などをめぐる理論的研究について再検討することに力を注いだ。国内のさまざまな研究会において、他の研究者との意見交換を多く行った。これらによって、やや遅れがちではあるが、充実した研究ができている。

2021年度活動報告(研究実績の概要況)

本研究は、ベルリンのインナーシティのネイバーフッドを、ケアの視点から記述し分析するものである。当初の研究計画は、現地調査を中心とするものだったが、新型コロナウィルスの感染拡大のもとで現地調査が困難になったため、計画を部分的に変更している。
2年目にあたる2021年度は、次の3つの方向で研究を展開した。第一は、オンラインを介した調査地の街区にかかわる情報収集で、とくに街区に所在する市場複合体に注目し、関連する情報、資料を収集した。第二は、理論研究である。場所/空間という視座について、文化人類学、STS、地理学の学際的領域でおこなわれている議論について、その射程と可能性を中心に検討した。第三は、さまざまな研究会での意見交換である。
3つの方向から調査地街区に所在する市場複合体に焦点をあてて研究した。19世紀末に建設された市場複合体は、当時としては画期的な、国家による福祉政策を体現する「施設=制度」であった。この市場複合体はその後、二度の世界大戦、東西分断を経て再統合へと展開するベルリンの歴史のなかで、街区住民の食のインフラの一翼を担ってきた。街区をとらえるうえで外国人集住と新しい社会運動に注目することは、当初から本研究の主要なイッシューであったが、歴史をもう少し前まで遡って、19世紀末からの展開を射程に入れる必要について検討した。まとめると次のとおりである。2010年代以降の街区のネイバーフッドを、市場複合体をひとつの焦点として描くことができる。それは、街区の食のインフラという視点を導入し、その社会的な機能と経済的な機能のあり方に注目する回路をひらく。とくに、社会的機能と経済的機能が、グローバル化とジェントリフィケーションがすすむ現代世界において乖離している状況を、空間的、歴史的にとらえようとするのである。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウィルス感染拡大のために、予定していた現地調査ができなかったことによる。現地調査に代わって、オンラインによって現地の情報を収集することにつとめた。また、これまで収集した資料の整理分析をすすめるとともに、2021年度はとくに理論的研究について問題点を洗い出して検討することに力を注いだ。国内のさまざまな研究会において研究発表し、他の研究者との意見交換を多く行った。これらによって、やや遅れがちではあるが、充実した研究ができていると判断する。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、ベルリンのインナーシティのネイバーフッドを、ケアの視点から記述し分析するものである。当初、初年度(2020年度)の研究計画は、現地調査を中心とするものだったが、新型コロナウィルスの感染拡大により、現地調査は実行不能となったため計画を変更した。初年度(2020年度)は、オンラインを利用した情報収集につとめながら、これまでの調査研究で蓄積したインタビュー資料、とくに移民を含む住民のライフヒストリーの読み直しと、種々の活動グループや行政の発行するリーフレット・ブックレットを再検討することにした。あわせて、国内で開催される研究会(WEB開催)に積極的に参加し、グローバル化する世界の社会的編成について、どのようなアプローチが可能で、どのような議論が開かれうるか、異なるフィールドで研究を展開している研究者たちと、情報交換・意見交換することに力を注いだ。
これらの研究を通して、本研究の基軸となると考えられるいくつかの点が浮かび上がってきた。第一は、ケアがつくりだす関係として、ケアの与え手と受け手の二者関係にとどまるものではなく、それにつらなるネットワークを問題ととらえることは、研究の出発点における認識であったが、そのネットワークが、人間だけでなく周囲にあるモノや制度、建造環境と、複雑で微妙なからみあいをしていることを、より明示的に分析することの意味。第二は、関係性が構築されることはつながりの分断と表裏一体であることから、分断に注目することが有効な視点となりうること。第三は、高いモビリティと偶発性に満ちた世界の空間性について、オルタナティヴな空間性を考慮に入れることの重要さである。次年度の研究で、これらの視点からのアプローチを深化させていく。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウィルス感染拡大のために、予定していた現地調査ができなかったことによる。それに代わって、ONLINEを介して現地に関する新しい情報収集につとめた。文献資料の整理分析をすすめ、また、国内研究者との意見交換を行った。